ヨナの福音こばなし帳

オリジナルのショート・ストーリー。一週間で一話完結。週末には、そのストーリーから人生の知恵をまじめにウンチクります。

母の手(5)

2008-05-16 | 続どろんこハリィ/ 母の手 /復活の朝
おかあさんは、静かに話し始めました。

「切符を買う長い列をずっと並んで、やっと切符を手にして、お金を払っている間に、私は、かばんを盗まれてしまった。それで、駅の警察署に行きました。ところが、警察署で、泥棒扱いされてしまって、留置所に入れられたんです。翌日、間違いだとわかって釈放されたときには、あの場所に、あなたの姿はもうなかった。

必死になって探しましたよ。でも見つからなかった。

ここにいれば、いつか、きっと会えると思って。ただあなたの無事を願いながら、あれから毎日、かかさずここに来ていました。

この右手がある限り、私にあなたのことを 忘れるなんてことはできやしない」

おかあさんは、左手で、あのつぶれた右手をさすりました。

(つづく)