おかあさんは、静かに話し始めました。
「切符を買う長い列をずっと並んで、やっと切符を手にして、お金を払っている間に、私は、かばんを盗まれてしまった。それで、駅の警察署に行きました。ところが、警察署で、泥棒扱いされてしまって、留置所に入れられたんです。翌日、間違いだとわかって釈放されたときには、あの場所に、あなたの姿はもうなかった。
必死になって探しましたよ。でも見つからなかった。
ここにいれば、いつか、きっと会えると思って。ただあなたの無事を願いながら、あれから毎日、かかさずここに来ていました。
この右手がある限り、私にあなたのことを 忘れるなんてことはできやしない」
おかあさんは、左手で、あのつぶれた右手をさすりました。
(つづく)
「切符を買う長い列をずっと並んで、やっと切符を手にして、お金を払っている間に、私は、かばんを盗まれてしまった。それで、駅の警察署に行きました。ところが、警察署で、泥棒扱いされてしまって、留置所に入れられたんです。翌日、間違いだとわかって釈放されたときには、あの場所に、あなたの姿はもうなかった。
必死になって探しましたよ。でも見つからなかった。
ここにいれば、いつか、きっと会えると思って。ただあなたの無事を願いながら、あれから毎日、かかさずここに来ていました。
この右手がある限り、私にあなたのことを 忘れるなんてことはできやしない」
おかあさんは、左手で、あのつぶれた右手をさすりました。
(つづく)