Entrance for Studies in Finance

Notes: ボルカールール Volcker Rule (2013年12月)

20131210日 公表承認 ボルカールールの最終案が公表承認された。
 当初は2012年7月施行予定 規則の細則決定で開始2年延期。大手金融機関は反対。しかし国民の間では支持する意見が多いとされるボルカールールの最終案が公表承認された。銀行の自己勘定による短期投資の制限。米国債、政府機関債、地方債などは除外。顧客の代理で行う取引以外は自己勘定取引を禁止。リスクを減らすリヘッジ目的や顧客の要望によるマーケットメーク(値付け)に限って、自己勘定取引認める(グレーゾーン残る)。目的に沿っていることの証明責任は銀行側。
 日本の金融界がとくに要望していた日本国債の例外化について。外国債取引については、海外拠点及び米国に進出する邦銀などに限って容認。海外拠点が現地法人までか支店に限るかの線引きは明示せず(解釈の余地残る)。日本の銀行協会が要望していた為替フォワードや通貨スワップなどデリバテブについての適用除外は認められなかったとのこと(60日未満の短期取引は禁止へ)。ヘッジファンドやプライベートエクイティへの出資は原則禁止。大規模な銀行の合併や買収(連結負債総額が一定規模以上になる場合)は禁止
衝撃を与えた金融規制強化を目指す オバマ演説(2010年1月21日)
 出発点として米国政府が金融規制強化の対応を決めて表明した2010年1月21日のオバマ大統領のホワイトハウス演説がある。この内容が実現するかは曲折が予想された。 Remarks by the President on Financial Reform, Jan.21, 2010. というのも米議会でこれまで進んできた監督制度の強化、大手金融機関の破たん処理制度、デリバティブ市場への新たな規制、金融消費者保護庁の創設などを含む金融規制改革法案論議が、金融規制緩和の大きな流れを必ずしも否定していなかったのに対して、このホワイトハウス演説は、1999年のグラススティーガル法廃止で頂点に達したかに見えたアメリカの金融自由化の流れを大きく転換する提案で、やや唐突に見えるからだ。なお演説は、ボルカー経済再生諮問会議議長の提案(演説のvideoのtitleはThe Volcker Rule for Financial Institutions, Jan.21, 2010.)=ボルカールールとよばれるようになったものと重なる。
 そして演説の具体的な内容は、事前に報道された以下とほぼ一致している。
・預金を扱う金融機関に対して、ヘッジファンドのような市場でのリスク投資を禁止する(リスクのミスマッチを防ぐ)。預金という安全性の高い資金を高リスクの市場取引から分離して預金者を保護する。そのうえで預金を扱う金融機関はFRBによる貸し出しを受けられることにする(公的セーフティネットの役割をリスク投資を保護することではない)。
・ヘッジファンドのほか、未公開株を手がけるファンドPEFの所有、投資(出資)、保証などを禁止する。
・顧客の要請がある場合に限定して自己勘定による高いリスク投資を認める。
・負債の規模を制限する。負債の市場シェアについてなんらかの上限をもうける。金融機関の巨大化により、破たんさせられない金融機関(破たんさせると金融システムが機能停止に陥るので政府は救済せざるを得ない)が登場して、国の救済を前提にリスクをとる行為を繰り返す悪循環に歯止めをかける(例 2008年秋の保険大手AIG)。
・大手金融機関の負債の市場シェアに制限を設ける。借り入れに頼った巨大化を抑制する。
 金融機関が自己勘定で短期売買を繰り返して証券市場を過熱させたことを危機の一因として理解。原則禁止により銀行が過剰にリスクをとる行為を抑制する。 
 原案では米国債は例外として短期売買容認。米国以外の国債は例外扱いしないとしたため日欧など各国が反発。各国の国債の流動性低下が懸念された。銀行に対しリスクの高い商品の取引を制限する方向では合意か。(背景:リスク管理が厳しいとされる銀行でも巨額損失が発覚。リスク管理のむつかしさが明らかになった。事例:JPモルガンチェース また規制は市場の自己調整能力を信じ行き過ぎは生じないとする考え方とは対極)
 このオバマ演説は2010年7月には金融規制改革法(ドッドフランク法)成立に結びつく。同法は1933年のグラススティーガル法(GS)以来の本格的金融規制法とされる。GS法は年月をかけて見直され1999年のプライムリーチブライリー法で廃止された。ところがこの規制緩和が、結果として公的資金による巨大金融機関の救済という矛盾につながっていることが明らかになった。金融機関の巨大化(寡占化)に歯止めをかけること、金融機関のリスクテーク行為を規制すること、が求められた。20107月成立した金融規制改革法(ドッドフランク法)では、業態にかかわらず大手金融機関を一元的に監督する権限をFRBに与えた。ただ法案に盛り込むはずだった指針は、大手金融機関の反発で難航。指針つくりは先送りされた
 銀行のあるべき姿 流動性の高い資産の保有を求める。預金で資金を調達。預金調達力を重視。流出しやすい?預金の性格に見合った投融資を求める。貸出を抑制。国債での運用を奨励。レバレッジを抑制。銀行の収益力は低下。しかし銀行が国家を振り回すことはなくなる。(高田創「モデルは日本の銀行」日経2012-05-15)金融機関の業務を今一度簡素なものに戻すことが求められている。
 持ち株会社化すれば、その下にリスクをとる業務をぶら下げることができるというのがこれまでの考え方。ボルカーの考え方(オバマ演説)は整理すると、決済を行う金融と、リスクテーカーとしての金融を分けようとするもの。(参照 行天豊雄「米、試される自己矯正力」日経2010-01-27)
 ところで2008年秋の金融危機の際にゴールドマンサックスなどは、銀行持ち株会社への移行により、緊急時のFRBからの資金供給を受けられるようにした(そのことへの批判もこの演説から受け止められる)。今回、演説で示された方針が仮に実行されたときには、ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーは、業務を限定された商業銀行になるか、投資銀行に戻るか、言葉を換えれば、預金業務と緊急時のFRBの融資か、あるいはリスク投資の継続か、選択を問われることになる。演説の背景にはリーマンショック後だけでも米政府が金融機関救済に使用した公的資金は7000億ドル。保証などを含めると10兆ドル強におよぶこと。それにも関らず景気は依然回復せず(業種・地域により回復の報告もあるものの)失業率は10%前後に高止まりしていることを指摘できる。
  参考米国の包括的金融規制改革案(09年6月17日)

original in Jan.27, 2010
revised in Dec.25, 2013

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