
先の清里での夜のことだった。
かつてイノシシの訪問におびえた経験を持ち、今季はクマがくるかもしれないと家人がナーバスになっているさなか、イノシシでもない、もちろん、クマでもない、もっとかわいい小さな生き物が、さびしいキャンプ場のぼくたちのサイトへやってきた。
写真のカエルである。だが、闇のなかで何か生き物の気配を感じ、それがカエルだと気づくまでの間の緊張感は尋常ではなかった。
月の写真が撮れないものかとリビングシェルから出た。夜の闇に枯葉を踏みしめ空を見上げているとき、足元の異音に気づいてギョッとなった。風が枯葉を動かしている音ではない、何か生き物がぼくの足のすぐ脇で動いている。
真っ先に浮かんだのがヘビだった。変温動物のヘビは寒さに弱い。動きが鈍くなってぼくの足もとにうずくまる姿を想像した。弱っていたとしてもうっかり踏んだりしたら噛みつかれるかもしれない。ビビった。
そっとその場を離れ、リビングシェルに戻るといつもはクルマの荷台に常備してある大型のフラッシュライトを持ち出して、先ほど、音が聞こえたあたりへ戻って足元を探った。
やがて光の輪の中に、枯葉の色にまぎれてはいたが、枯葉とは別の動きをする個体を見つけた。よく見るとこのカエルだった。

クマやらイノシシに比べて、なんと愛らしい訪問者だろうか。これから春までの長い眠りにつく直前である。
早く冬眠の場所を見つけることができるといいね。
ぼくはホッとして、一期一会の記念写真を何枚か撮り、リビングシェルに戻った。
恐怖と緊張の夜の心なごむひとときだった。