
あらためて眺めてみると、スクリーンタープはこの10年の日本のキャンプシーンのヒット商品の最右翼に位置する道具である。雨が多く、湿潤な気候の日本に願ってもないソフトシェルターである。また、積雪さえ避ければ厳冬期のキャンプをかなり快適に保ってくれるのがなによりもうれしい。
スクリーンタープの前身はメッシュタープと位置づけて差し支えあるまい。
キャンプがブームになり、それまであまり野外と接点を持たなかった人々までが擬似アウトドアライフとはいえ、大挙してキャンプ場に繰り出してきた。彼らが求めたのは野外でも快適な環境だった。トイレは水洗、風呂があればそれに越したことはないが、せめてシャワーだけでもほしい。欲をいえば温泉に入りたい。洗濯機や乾燥機もあればいい。場内は整然と区画されていて、愛車を駐車しておくことができるスペースに隣接して生活できるキャンプ場だった。
そうしたキャンプ場がたちまち人気を呼び、「高規格」という冠を戴くことになる。旧来の素朴なキャンプ場もそんな新興の客におもねて設備の充実に血道を上げた。
だが、キャンプ場側がどうにもならないことがいくつかあった。そのひとつが夏の虫である。
ハイシーズンのキャンプ場はキャンパーたちが競うようにして持ち込んだランタンで凶々しいまでの明るさである。擬似アウトドアとはいっても、やっぱり自然豊かな屋外だから、当然、蛾をはじめさまざまな虫が光に集まってくる。
いや、すでに夕方、吸血昆虫が跋扈していた。虫たちの怖さどころか存在さえ知らないのか、夏の宵、半パンツにTシャツ姿でいれば、「さあ、血を吸ってください」といわんばかりで格好の餌食になる。
ゴールデンウィークに連れて行ってもらったキャンプでハマり、6月のボーナスをはたいてテント、タープをはじめとする装備一式を整え、勇躍、夏のキャンプに出かけたものの、アブやブヨ、ヌカカなどにボコボコにされて意気消沈、すっかりやる気をなくした家族を何組か知っている。
ちょうどそんなころだった。虫除けネットつきのタープが発売された。これはけっこうウケた。メーカーによっては従来の自社のタープに接続させるメッシュテントを開発、売り出したりもした。
なるほど、“キャンプは夏の遊び”と心得る人々、あるいは、虫が怖かったり、虫の備えを知らない人々には願ってもない商品だった。発想は、おそらく蚊帳からきているのだろう。
たったひとつの誤算は、蚊帳は畳の上に張るが、この屋外用蚊帳は当然、地面の上に張る。あるいは草地の上に張る。そこは虫たちの住処(すみか)であり、場合によっては、逃げ場を失ったおびただしい虫たちとひとつ部屋で何日間かをともに暮すことになる。
虫たちのなかに吸血昆虫がいなければいいのだが、ヌカカのような凶悪なヤツを取り込んでしまったひには目も当てられない惨劇となる。
それはさておき、メッシュの上に開閉可能なシートがつくのにさほど時間を要しなかった。
たいていの製品が、きわめてシンプルな構造だった。とはいえ、初期の製品には重いスチールのフレームを採用したり、あるいは自立できない設計のため、初心者だとひとりで設営できないどころかバランスよく建てることさえ困難なものもあった。
そんな試行錯誤の末、軽量で、そこそこに堅牢、設営の容易なスクリーンタープがいくつもショップに並んだ。それまで普及していた一枚布のタープのような開放感がないと批判する人がいたけど、ウォールが目隠しになるからプライバシーが保てるという見方もできる。開放感を問題にするなら、天気のいい日は一枚布のタープを張るより、蒼穹の下、なにもないのがいちばん開放感を得ることができる。
このソフトシェルターは寒い時期のキャンプを格段に快適にしてくれた。
それ以前だと、焚き火だけが頼りだった。火持ちのよさそうな薪をたっぷり用意して、しかし、薪を無駄にしないよう火力を調整しながら夜を過ごした。身体の前面は熱いほどでも背中には氷を背負っているように冷たい。そこで火に背中を向ける。背中が温まるころには顔を含めて身体の前のほうが冷たくなる……そんな繰り返しだった。
だが、スクリーンタープだと内部にガソリンあるいはガスのランタン1個灯しておくだけでもかなり暖かい。床がない構造上、適度に換気できるから酸欠になる心配もない。床がない分、厳冬期、地面からの冷えはバカにならない。これを遮断するには段ボールを敷き詰めればいい。
むろん、厳冬期だから、足元のこしらえから着衣にいたるまで、それなりの装備をしているのが前提にはなるけれど……。
わが畏友ムッシュ・モルドがイメージするのは、このソフトシェルターを根城にしての野宿三昧らしい。このセンスのいい盟友の頭の中にあるイメージは、ぼくの想像をはるかに越える生活ぶりだろう。ぜひとものぞいてみたいものである。
この鉄人なら、スクリーンタープに呑み込まれて軟弱になるといったぼくのような愚を犯すはずがない。
<追記>
この稿を書き上げ、アップしたあと、ムッシュ・モルドが自らがトピ主をつとめる掲示板で、自分にとってスクリーンタープはモンゴルのゲルである旨の発言をしているのを見つけた。簡潔に明快、それ以上の説明はいらない。
モルド大兄、お気に入りのソフトシェルターにめぐりあえるのを祈ってます。
某トピは ご無沙汰させて頂いておりますが こちらは 欠かさす拝見させて頂いております
さて スクリーンタープについてでありますが 最近迄はfld_hiroさんが 述べられたように開放感がないなど等 特に昔からのたたきあげのアウトドアマン達からは不評だったような気がします。
スクリーンタープはひ弱な輩が使うものと言い切る者もおりました
というは私はといえばこの道具はお気に入りのひとつであります
今現在の 私のアウトドアスタイルは道具達を駆使して 快適に過ごすキャンプであり スクリーンタープは はずせない道具であります。
アウトドアのスタイルは 人それぞれあってよいものなのに 他人のスタイルを批判する輩もおりますが それは無粋というもの。
道具に関しても その物のもつメリット・デメリットが必ずあるものです 自分の感性にあわないからといって その道具を否定するというのは いかがなものでしょうか
おっと 話がずれてしまいましたが あなた様やモルドさんのような方々が スクリーンタープを認めてくださったのが ちょっと嬉しかったので投稿させて頂きました。
それでは またフィールドで・・・・・
まぁ
スクリーンタープ――やっぱり日本の風土では必需品だと思います。季節によって、条件によって使い分ければいいのですからね。あと、道具に対するまぁさんのご意見には全面的に賛成です。
いつもご一緒したときにうかがうまぁさんのお話も、きちんとご自分の経験や体験に裏づけされているので、ぼくにとっては新鮮だし、刺激的です。そんな達人のまぁさんにご同意していただけて、ぼくも励みになります。
>それでは またフィールドで・・・・・
そうですね、また、フィールドでお会いして、いろいろ教えてください。楽しみにしています。