
久しぶりに楽しく、有益なソロキャンプの本とめぐり逢えた。迷わず電子版を選び、タブレットに収めたのは、街にあって、ふと、アウトドア心に火がついたときに即刻フィールド気分を味わいたかったからだ。
若いころ、芦沢一洋さんの『バックパッキング入門』に衝撃を受け、コリン・フレッチャー『遊歩大全』とともに2冊をバイブルとし、雑誌『Outdoor』をむさぼり読んできたぼくにとって、バックパッカー・堀田貴之さんはずっとまぶしいほどの存在である。
堀田さんのすばらしさは、日本という風土にとけこんだバックパッキングの旅を楽しんでいる姿である。しかも、衣食住のすべてにおいて個性的だ。いや、センスが光る。
バックパッキングの旅は道具を使う喜びでもある。堀田さんが開発したムササビウイングも遊歩を主としたソロキャンプにはもってこいだし、スリーピングバッグをはじめ、使っている道具類の考え方はおおいに参考になってきた。
とりわけ調理用のコンパクトストーブにガソリン燃料を使う気持ちは同感だ。ぼくにとっては堀田さんと同じスベア123であり、基本構造が同じオプティマス8Rである。ときどき火だるまになるが、コールマンのピークワン・ストーブや、オートキャンプとやらで定番のツーバーナーだって例外ではない。それがわかって使えばいいだけのことだ。
堀田さんも書いているように、スベアは構造が単純明快だから故障して使えなくなる心配がまずない。これがどれだけありがたいかは、キャンプで調理用ストーブが故障で使えなくなった経験をするとよくわかる。
ガソリン燃料のストーブやランタンは、プレヒートやポンピングという儀式が不可欠だ。この面倒が、焚火の着火にいたるまでのプロセス同様なんとも捨てがたい。
暮れなずむフィールドで、柄のわりに大きな燃焼音が力強く、頼もしい。これは、堀田さんばかりでなく、芦沢さんもたしかエッセーに書いていた。
■ もしもギターが弾けたなら
堀田さんをつくづくうらやましいと思うのが、ギターやウクレレ、バンジョーのいずれかを持参しての旅を楽しむ余裕である。そうした楽器を演奏できないぼくはハーモニカを旅の友としているが、だれかに聞かれてしまうと恥ずかしい腕なのでめったに吹かない。
ひとつ安心できたのは、堀田さんも絵を描こうとして描けなかったという点である。ぼくに絵心があったなら、伊東孝志さんには遠く及ばないまでもスケッチくらいは残してきたかった。その分、写真という楽しみは知ったのがせめてもの心の救いだろう。
この本はハウツウ本ではない。そのまま真似するたぐいの本ではないという意味だ。あくまでも、堀田貴之というソロキャンプの達人からの提案である。本書で触発され、ヒントを得て、自分なりのソロキャンプを整えていくといい。そんなすばらしい一冊である。
堀田さんより11歳年長のぼくは、あと何年キャンプを楽しめるかわからない。せめて80歳まで、残り8年は現役でいたいが、それも体力と気力があればこそだし、80歳まで生きていられる保証すらない。
早晩、足腰が弱り、フィールドへ出かけることがかなわなくなったとしても、この本が読めるiPadさえあれば淋しくないだろう。スベアや8Rの燃焼音の記憶をBGMにこの本を何度も読み返して楽しみ続けたい。これはぼくの3冊目のバイブルである。
(註)『一人を楽しむソロキャンプのすすめ 〜もう一歩先の旅に出かけよう〜』はamazonでKindle版を購入し、上記の本文はカスタマープレビューとして投稿した拙文からの引用です。