
■ まだ夏の名残りの高原へ
2015年のカレンダーを手にして9月を見たとき、目を疑ったのはぼくだけではなかったろう。ゴールデンウィークと呼ばれる5月の大型連休と同じ祭日が並んでいるではないか。土曜日を入れたら五連休。気が遠くなるほどうれしかった。
当然、キャンプである。混むのは覚悟したが、もう夏休みは終わっているし、初日が土曜日だというので油断した。午前中に着けばじゅうぶんサイトが確保できると信じて出かけたが、とんでもない混雑が待っていた。11時前だというのにキャンプ場は人とクルマでごったがえしているではないか。
いつもテントを張っているサイトは見たこともないほどの数のテントやタープで埋まっていた。管理人さんたちでさえ想定外の人出に「なんだ、こりゃ?」という顔で驚いているのがよくわかった。
ゴールデンウィークだとまだけっこう寒いし、年によっては冬の陽気を覚悟しなくてはならない。キャンプ場内の桜が満開の年であっても、夕暮れ過ぎると寒さが忍び寄るのは毎年のこと。過去には雪で埋まった年もあったという。その点、9月なら、高原はすでに秋ではあってもまだ夏の余韻が濃厚と思える。
実はこのシルバーウィークと呼ばれた今年の連休の夜はけっこう寒くて、夏のシュラフだと辛いと感じた人たちも少なくなかったと思う。

■ ここはほんとうに日本のキャンプ場なのか?
到着後、なんとかテントを張るスペースを見つけてそこに落ち着いた。これまでなら見向きもしなかったような場所である。多少傾斜はあるが、このキャンプ場で平坦な場所を確保するほうが至難だから妥協するしかない。ほどなく、落ち合う予定になっていた従姉夫妻も到着して、われわれの隣のスペースに無事設営を完了した。
初日が土曜日だというのに、たくさんの子供たちがきていた。その夜は、子供のわめき声と大人たちが酔って上げる奇声が遅くまで場内にこだまして、まさに連休ならではのキャンプ場の様相である。それにしてもかなりひどい。ひと言でいえば、ずいぶん荒れ気味である。
日本のキャンパーが必ずしもマナーがいいとは思っていないが、それにしもずいぶん地に墜ちたものである。
ぼくたちがテントを張ったのはふだんは見向きもしなかった場所ではあるが、使ってみると周囲から隔絶されており、こうした大混雑のときには珍しくプライバシーが確保できる利点があった。
そんな場所のサイトではあっても、通り道でもないのに平然と入り込んできてわれわれが食事をしているすぐ横を通り過ぎていくマナー知らずの連中の数に唖然とした。なるほど、これが8月のお盆キャンパーの特徴なのかもしれない。
■ 入れ替わっても大差なく
彼らの半数近くが翌日には撤収して去った。入れ替わりに別のファミリーやらグループがやってきた。日曜日だけあって、子供の数は目に見えて増えた。喧噪はさらに増す。
その日の夜、ぼくは自分のFacebookに夜景の写真つきで次のようなコメントを載せた。

昨夜は酔っぱらいのだみ声が満ちていましたが、今夜はガキンチョたちのわめき声がキャンプ場全体に響き渡っています。
興奮してしまうのはわかるけど、ケガ人が出ないといいのですがね。
興奮してしまうのはわかるけど、ケガ人が出ないといいのですがね。
テントの数と喧噪はこの夜がピークだった。翌日には再びテントの数が減った。新たにきた人たちはあまりいない。大型連休であっても一泊か二泊、それがいまどきのキャンプの宿泊数なのだろう。子連れとなるとしかたないが、キャンプに身体がなじんでいくのは、実はここからである。
ただ、フィールドに慣れていないと、ここからの疲れが加速する。まして、連休の帰路の渋滞を覚悟するとなると、いくら若くてもキャンプが苦行になるのは時間の問題だろう。
めったにめぐってこないシルバーウィークは、幸いにしてずっと天候に恵まれた。それでも初日からの混雑に、今度は湯当たりならぬ人当たりで疲労困憊していた。
もしかしたら途中から参加して二泊できるかもしれなかったキャンプ仲間の親友ユウキ少年のファミリーは、ユウキ君がキャンプ3日めの21日、サッカーの試合で自ら2点ゴールの活躍もあって4対0で勝利し、23日に準決勝があるのでキャンプは断念となった。

■ 今年の秋はどこへいこうか?
この朗報をぼくは森を散歩中に彼のお父さんからメールで受け取った。ユウキ少年がきてくれたら連休最終日まで腰を据えるつもりでいたが、彼がこないと聞いて翌22日の撤収を決めた。彼のさらなる活躍とチームの優勝とを信じれば、早めの撤退に寂しさはない。
森の中の逍遥からサイトへ戻ると、今夜は下界のレストランで従姉たちともども打ち上げをしようと提案した。むろん、そろそろ疲れも出ているからだれも「いやだ」とはいわない。
撤収を終えた翌22日の昼過ぎのキャンプ場は、数えるほどしかテントが見えなかった。ちょっと未練はあったが、もう、気持ちはわが家へ向いている。
毎年、このキャンプ場は10月の体育の日のころにその年の最終日を迎える。長い間このキャンプ場に愛情を注いでいながら、10月の体育の日のころの最終日にきたことがほとんどない。
駐車場になっている広場で大きなキャンプファイアを焚いてしばしの別れを告げるこのイベントが、ぼくはどうしても好きになれないでいる。もっとひっそり楽みたいからだ。
10月の体育の日は、たぶん、今年も別のキャンプ場で迎えることになるだろう。
それにしても、去年の秋は台風や雨のためにキャンプを断念していたのに、今年は9月に二度もキャンプへ出かけ、うまくいけば10月と11月もいくことができる。
寒さとともに、つかのまだが、静かなキャンプの好機がやってくる。