『・・・初期の宇宙で温度が際限なく高くなるとすれば、重力波のエネルギースペクトルが観察できるはずだ。LIGO(米国レーザー干渉型重力波天文台)のような高度な観測設備がなくてもマイクロ波背景放射の偏光を示す信号におのずと記録される。限界を厳しく設定すればするほど——言い換えるなら、初期の宇宙の重力波を検知せず、むしろその存在を厳しく制限すればするほど、“もっとも熱い場所”の温度は低くなる。
15年前は、エネルギーと等価の温度を4 × 10^16 GeV程度までしか制限できなかったが、その後のめざましい測定技術の発達により、その値は大幅に低下した。
現在では、ビッグバンの“もっとも熱い場所”でも最高温度はエネルギーに換算すると10^15 GeV程度であり、さかのぼって推測できる限界は時間にして高温のビッグバンの発生から10^-35秒、距離でいうと1.5メートルまでということがわかっている。大きさを特定できるもっとも初期の段階の宇宙は、人間と同じくらいの大きさだったということになる。10年前までは“サッカーボールよりは大きい”と言われていたが、最近になって10分の1にまで精度が向上したことを考えると画期的な進歩といえるだろう。
(ただし、実際はもっと大きく、たとえば大都市の一部か小さな都市くらいの大きさだった可能性は依然としてある。大型ハドロン衝突型加速器では最大で10^4 GeVまでしか実現できないが、初期の宇宙がもっと高温に達していたことはまちがいない。いずれにせよ、多くの場合、“大きさの上限”の制約は変わりうる)
宇宙は最高温度かつ最大密度の特異点で生まれ、そこを出発点としてあらゆる空間と時間が発生したという考えがいかに魅力的だとしても、その推測に信頼性はなく、観測結果とも符合しない。その説が否定されないかぎり(引用注:この部分、訳がおかしい)、どこまでさかのぼれるかには限界があり、観測可能な初期の宇宙の大きさとその宇宙に存在するあらゆる物質とエネルギーは十代の人間よりは大きかったと考えるのが妥当だ。それより小さかったとすれば、ビッグバンの残光に見られるゆらぎは存在しないことになってしまう。
高温のビッグバンが起きる以前の宇宙はコズミックインフレーションに固有のエネルギーが大部分を占めていた。インフレーションがどのくらい続いたのか、そもそも何がインフレーションを引き起こしたかはいまだ謎だが、その性質上、インフレーションはそれ以前の宇宙のあらゆる情報を消し去り、観測できるのはインフレーションの最後の数十分の1秒に記録された信号のみだ。その信号はバグにすぎず、インフレーションの仕組みとは別の説明が必要だと考える人もいる。一方で、その信号は既知のことだけでなく、今後知りうることに対しても根本的な限界を示す特徴だと考える人もいる。宇宙がみずからについて語る声に耳を傾けることは、いろいろな意味でこれ以上ないほど謙虚な経験といえる。』
>大きさを特定できるもっとも初期の段階の宇宙は、人間と同じくらいの大きさだったということになる。10年前までは“サッカーボールよりは大きい”と言われていたが、最近になって10分の1にまで精度が向上したことを考えると画期的な進歩といえるだろう。