『・・・Frye氏らは、今回発見されたSN H0peが持つこれまでにない特徴に注目しています。まず、SN H0peは3つの像が撮影された2番目のIa型超新星ですが、1番目であるAT 2022rivと異なり数週間の間隔を空けて合計3回撮影されたため、短期間での明るさの変化を計測できました。3つの像はすべて同じ天体なので、本来であれば明るさの変化も同じタイミングで起こるはずです。しかし、3つの像の元となる光は重力レンズ効果によってそれぞれ異なる距離のルートを通って地球に到達しているため、実際には3つの像の明るさが変化するタイミングにはズレが生じます。タイミングのズレは光が伝わってきた距離の違いを反映しているため、3つの像それぞれの明るさが変化する様子をもとに、重力レンズ効果の強さを精密に計算することができます。
今回の研究ではウェッブ宇宙望遠鏡によるG165の詳細な観測データをもとに、重力レンズ効果を受けて分裂した無数の像がそれぞれどのような天体に由来するのかも詳細に調べられました。
その結果、地球からの距離が約162億光年のArc 2を中心としたグループに加え、
地球からの距離が約184億光年 (z=2.24) である別の銀河「Arc 1」を中心としたグループ、
そして地球からの距離が約155億光年 (z=1.65) である銀河のグループという合計3つのグループが存在することが分かりました。
これらの銀河の距離が判明したことにより、G165周辺の無数の像は全部で21個の天体に由来することが明らかにされました。こうした詳細な銀河の配置と距離に関するデータから、研究チームはG165による重力レンズ効果の強さに関する詳細な “地図” を作成することにも成功しました。
今回の研究によって明らかにされたG165の質量分布の等高線。このような精密な “地図” は、将来的に超新星を観測した時に役立つ可能性があります
また、Arc 1は塵の多い銀河であることが今回判明し、推定される星形成 (新たな恒星が作られる過程) の激しさから、超新星の発生確率は1年に1回程度であると推定されました。その多くはII型超新星 (※3) であると推定されますが、ウェッブ宇宙望遠鏡の運用期間中にIa型超新星が観測される可能性もあるのではないかとFrye氏らは考えています。
※3…太陽の8倍以上の恒星が、その寿命の最期に起こす大爆発をII型超新星と呼びます。
このように、SN H0peが発見されたG165は、ウェッブ宇宙望遠鏡の観測期間中に新たなIa型超新星を観測できる可能性があるだけでなく、詳細な重力レンズ効果の “地図” を用いてIa型超新星までの距離を正確に測定し、ハッブル定数を非常に正確に算出できる可能性があります。
SN H0peという名称は、ハッブル定数を意味する記号の「H0」と、これまでの観測では実現しなかった距離と精度でハッブル定数を測定できるという “希望( Hope)” をかけた名称です。
Frye氏らは、G165を定期的に観測することでハッブル定数を絞り込めるのではないかと期待しており、現在の観測結果についても詳細な研究を追加で発表する予定だということです。』
↑この話のポイントは
『ただし、現在の技術で観測できるIa型超新星は、比較的近い宇宙で起きたものに限られています。
※1…太陽のように比較的軽い恒星が、中心部の核融合反応が停止した後に残す高密度な天体。
現在ハッブル定数が測定されている遠くの宇宙と近くの宇宙のちょうど中間で測定が可能となるため、より遠くで起きたIa型超新星を多数観測することが期待されています。』
つまりは「ハッブル定数が経時変化していたら、それがわかる」のです。
↓
NAOJら,ハッブル定数の経時変化の可能性を発見: https://archive.md/C01WP :
『・・・今回研究グループは,距離をいくつかの範囲に区分し,それぞれの区分に含まれる超新星を使ってハッブル定数を算出したところ,その値は区分によって,すなわち宇宙の誕生から経過した時間に応じて,変化している可能性が明らかになった。
ハッブル定数は,近傍の天体の観測から求めた値と,初期宇宙の観測を元に導いた値とに差があることが知られている。今回の研究ではそれと同じ傾向のハッブル定数の変化が見られたという。
このハッブル定数の変化は,観測の選択効果や,超新星の性質の時間変化による可能性もある。しかし,膨張宇宙のモデルでこれまで定数とされていたダークエネルギーの影響が,時間と共に変化することでも説明できるかもしれないという。
後者であれば,宇宙を支配する物理法則を見直すことが必要になる可能性がある。それを見分けるためには,今後さらに遠方の暗い超新星を多数捉え,宇宙膨張の歴史をより精密に描き出すことが必要となる。研究グループは,今後も解析データを増やして研究を続けるとしている。』
宇宙の膨張率「ハッブル定数」は時代と共に変化?物理法則の見直しが迫られる可能性も: https://archive.md/I3dN4 :
↑みなさんこれまで定数とされていたダークエネルギーの影響がお好きな様です。
そうして「ダークマターが経時変化している」などと言うのはまた当方一人ぐらいなものになりそうです。
ハッブル定数は定数なのか: https://archive.md/PGRN1 :
『たとえばこの齟齬をそのまま受け入れると,現在に近い時代の局所宇宙の膨張速度は9%速まっていることになり,この変化を説明するには宇宙膨張を加速させる暗黒エネルギー (dark energy) の寄与が現在の見積りより強いか,時間とともに変化する状況を考える必要があります.
他にも現状の物理の大枠は変えることなく (あるいは新しい物理理論の導入も含め) この齟齬を解消するための解決策として様々な仮説が提案されています.それにより,もし宇宙の組成などが変わることになれば現在の宇宙論に未解決の問題が存在していることを意味します.』