ここで注目すべきは「この話はBHの持つ質量には無関係である」という事です。
太陽質量の10倍程度の質量のBHであれ、1グラム未満のマイクロBHであれ、光速の75%までの加速は同様におきる現象であります。
但し、この2つのBHの重力圏の大きさはBHが持つ質量の大きさに応じてまるで「桁違い」になっています。
そうしてまたこのBHがもつホライズン半径も「桁違い」です。
そうでありますから、大きな質量のBHには宇宙に存在する大抵の物質を飲み込む事、その物質を光速の75%まで加速する事はできますが、他方でマイクロBHはそのような芸当はできません。
せいぜいが「止まっているニュートリノを自由落下させる事が出来る」、まあそのあたりの事しかできません。
そうして我々はまだマイクロBHだと思われるダークマターを補足する事も、いつも光速で走っているニュートリノを止める事も出来てはいません。
さてそのようなマイクロBHではありますが、その生まれは原始BHであろうと、インフレーション直後に誕生したものであろうと推測されています。
「元素合成 ・・・物質の起源について」によれば「インフレーション終了後、宇宙の物質要素はクォークグルーオンプラズマ、と呼ばれる状態で存在していました。」とのこと。<--リンク(Or http://archive.fo/ECZUC)
そうして、この「クォークグルーオンプラズマ」と呼ばれる状態が、現在、我々が想定しうる範囲内では「物質がとりうる最も密度が高い状態」の様です。
その状態でのクォークグルーオンプラズマの密度をPρとします。
一方でおなじみのホライズン半径RsはRs=2*G*M/C^2.
ホライズン半径の球の中に質量Mを構成する物質が一様に詰まった、としますとその密度ρは
ρ=3*C^6/(32*Pi*G^3*M^2)
ここでMをビックバン後の宇宙の全質量としますと
仮にPρ>ρになっていたとすると、インフレーション後に「この世にあらわれた宇宙はすぐにBHになる」という事になります。
つまり「宇宙は誕生してはすぐに姿を消した」とそういう事になります。
そうして、実際はそうなってはいないのでありますからPρ<ρであったと、そういう事が分かります。
このままでは宇宙は誕生できましたが、注目している原始BHが生まれてきません。
そこで量子論がらみの「質量密度の揺らぎ」、そうしてまた「空間スケールの揺らぎ」の登場となる訳です。
なるほど大局的にはPρ<ρではありましたが、部分的にはPρ>ρと言う様になっていた所があってもおかしくは無い、そのように主張する訳です。
そうなっていれば、その部分はBHとなる事が出来ます。
こうして質量が1グラム程度のマイクロBHがめでたく誕生する、と言うシナリオが作れます。
↓
「原始ブラックホールと重力波」<--リンク
・・・以上は前回の補足説明で、少し遅くなりましたが今回のテーマについてはこれ以降になります。
前回の計算結果では「質量mの物質がBHに自由落下しその質量を3/2*m分だけ増加させる」というものでした。
これは落下するBHの質量MがM>>mである場合にはほぼ成立しそうですが、M≒mの場合にはどうであるのか、調べてみなくてはいけません。
と言いますのも、mの運動量PがBHに吸収される、そうなりますとmを吸収したあとのBHは運動量Pを受けて動き出す、という事になります。
そうなりますとBHの運動エネルギー分だけBHの質量増加分が削られる、そういう話になりそうです。
以上の話は「ホーキング放射でBHが消えてしまう」と論じておられる方々が見逃している事にも関係しています。
BHを蒸発させることになる、最後にこのBHに飛び込んだ仮想粒子が持っていた運動量はどこに行ったのか、「マイクロBHは蒸発してしまった」と論じておられる方々は運動量保存則を忘れておられる様に見受けられます。
そうでありますからここは前回取り上げた「ホーキングさんが考えたこと・16」での例、プランクスケールに到達したBHが出す事になるホーキング放射の例に戻ってこの事を検討する事としましょう。
さてそれで2.176E-08(Kg)=(0.00000002176Kg)のBHが⊿E=2.196E+08(J)のエネルギーのニュートリノを放出します。
それはつまりこのBHに進行方向は放出されるニュートリノとは正反対ですが、同様のエネルギーをもったニュートリノがBHに飛び込む、という事でもあります。
その結果としてはこのBHは真空との取引により最終的には⊿E=2.196E+08(J)のエネルギーを支払い、放出したニュートリノと反対方向にそのニュートリノが持って行ったのと同じ値の運動量Pを受け取る事になる、そういう話でした。(注1)
このあたりの取引詳細は「ホーキングさんが考えたこと・4」を参照願います。<--リンク
以下は計算になります。
まずは「仮想粒子が対生成した発生点を原点とした座標系で見た時にBHは静止していた」と仮定します。
そしてその時にこのBHが持っていたエネルギーをEとします。
そうして、飛び込んできたニュートリノが持っていた運動量をPとします。
そしてその値は前回計算結果よりP=0.732488でした。
この時にこのBHが満たす式は次のようになります。
(E-⊿E)^2=P^2*C^2+M^2*C^4
この式はBHは⊿Eのエネルギーを支払い、運動量Pを受け取る事を示しています。
ここでMはニュートリノが飛び込んだ後のBHの静止質量を表します。
Eはニュートリノが飛び込む前のBHの質量2.176E-08(Kg)にC^2を掛けて求めます。
E=(2.176E-08)*(2.998*10^8)^2=1955800000(J)
以上を代入して整理すると
M=sqrt(((E-⊿E)^2-P^2*C^2)/C^4)=1.916E-08(Kg)
この結果は「ホーキングさんが考えたこと・16」での計算値1.932E-08(Kg)よりも小さく、その分が実はBHの運動エネルギーとして使われたという事になります。
次にP=M*V/sqrt(1-V^2/C^2)よりニュートリノ吸収により発生したBHの移動速度Vを求めます。
その結果はWolframによれば
V=3.7923E+7=0.126*C
従ってこのBHは光速の13%程度で自分がホーキング放射したニュートリノとは反対方向に走り出す事が分かります。
こうしてBHの質量Mが大きければ、ホーキング放射を出したことによる反作用は考慮せずにBH質量はホーキング放射されたエネルギー分だけ減る、としても間違いはなさそうですが、マイクロBHのレベル、プランクスケールのBHになった場合はそのようには無視できず、反作用によるBHの運動エネルギーの増加分を考慮しないとBHの質量減少分が計算できない、という事が分かります。
さらには、このようにしてホーキング放射を出したことによる反作用を受け取る必要のあるBHがこのホーキング放射プロセスで「蒸発した」とするならば、この相互作用での運動量保存則が満たされる事はない、という事もまた同時にわかるのでありました。
(注1)
このBHはまずは仮想粒子の飛び込みによって⊿Eのエネルギーとホーキング放射したニュートリノと逆方向にPという運動量を受け取ります。
ここで、従来の考え方ではこの受け取ったPの事は忘れてしまい、受け取った⊿EのエネルギーがそのままBHの質量に付与される、としていました。
しかしながら、事実はといえば、運動量Pを同時に受け取ったBHはその方向に運動し始め、その結果は運動エネルギーΔEkを持つことになります。
そうなりますと、⊿EというエネルギーがすべてBHの質量に変わる、ということにはならず、(⊿EーΔEk)というエネルギーがBHの質量に転化・付与される事になります。
その後BHは真空に対して2*⊿Eという支払いをすることになり、従ってBHのエネルギー収支は最終的には⊿E分だけのマイナスとなります。
しかしながらBHの質量は、といいますと仮想粒子の飛込みによって得られた分が(⊿EーΔEk)であり、真空に支払った分がー2*⊿Eですからこの二つを合計した値、ー⊿EーΔEkがBHの質量になった、つまり結果的には(⊿E+ΔEk)というエネルギーが質量から抜けた、という計算になる訳であります。
・ダークマター・ホーキングさんが考えたこと 一覧<--リンク
http://archive.fo/51ZAJ