精密宇宙論、あるいは標準宇宙論が確立したのはWMAP衛星の観測レポートのでた 2003 年である事は、今まで述べてきた通りです。
WMAPはCMBを詳細に観測したのであり、そのCMBは宇宙誕生から37.5万年での出来事である「宇宙の晴れ上がり」の結果、解放された光子(宇宙背景マイクロ波放射)を観測したのでした。
そのCMBは宇宙誕生後の7分後から37.5万年までの初期宇宙の物理現象の情報を含んでおり、それを解析、解読することで宇宙の曲率、ダークマター、ダークエネルギーを含めた宇宙の成分割合を決定できたのです。
しかしながら残念な事にはCMBの解読方法と言うのは相当に専門的であり、門外漢の我々にはなかなか理解しがたいもの、なじみがないものなのでした。
まあしかしそれはそれとして、宇宙の晴れ上がりの時点ではすでに宇宙は輻射優勢期から物質優勢期に移行していました。
当然(?)の事なのですが、宇宙の始まりは放射(光、ニュートリノ)も物質粒子も光速、あるいはほとんど光速で動いていたとされ、つまりは輻射成分100%なのでした。
しかし宇宙が膨張するにつれて宇宙の温度がさがり、最初はニュートリノが光から切り離され(=熱平衡ではなくなり)、次に物質が光から切り離されたという次第です。
そのことと前後して宇宙が輻射優勢期から物質優勢期に移行することになるのですがその時は物質の密度と放射の密度がイコールになる時期があり、その時期をteqとして表すのでした。
それを計算しますと
Teq = T0(1+zeq) = (2.725±0.001K)×3250≒ 8860K, or 0.76 eV
teq≒74,000yrs(宇宙誕生から7.4万年後)
と言うように第6講 熱的宇宙の6・4・3輻射-物質拮抗時期には書かれてあります。
ちなみにダークマターが「いまだ発見されていない未知の素粒子である」とする立場からは、宇宙の最初期にはダークマターも光とリンクしていたはずであり、どこかのタイミングで切り離されたと考えるのが一般的なストーリーの様です。
他方でダークマターがプランクレベルの原始BHであるとすると、光とリンクしていた時期があったかどうかについては、今後 詳細に検討してみないことには不明であり、現状ではどちらであるとも言う事ができません。
さてそれで、このページのテーマは「teq≒74,000yrsでの物質=放射密度を計算し、フリードマン方程式を完成させよう」というものになります。
といいますのも今まではずうっと「放射密度は無視できる」としてきたからであります。
(それは「放射密度を無視できる時期のみ扱ってきた為である」とも言えます。)
そして以下は前回「41・宇宙の歴史(0秒~38万年:宇宙の晴れ上がりまで)」からの引用になります。
↓
『宇宙誕生から38万年後 温度3000K
観測可能な宇宙の半径 4200万光年(たとえばM 87(NGC 4486、おとめ座A)例のBHが初めて直接撮影された銀河までの距離が5440万光年)
密度 陽子1.5*10^9個/m^3(10^-11Pa程度の、人類が作りだせるぎりぎりの真空度に相当。)
(ダークマター1.25に対し通常物質0.25の割合
ダークエネルギー成分はこの時も陽子3.5個/m^3相当で物質密度に対して無視できる程度の値)』
この情報を元に
Teq = T0(1+zeq) = (2.725±0.001K)×3250≒ 8860K, or 0.76 eV
teq≒74,000yrs(宇宙誕生から7.4万年後)
とされる「輻射-物質拮抗時期」の状況を推定します。
↓
宇宙誕生から7.4万年後 温度8860K
観測可能な宇宙の半径 1422万光年
密度 陽子3.86*10^10個/m^3
(ダークマター1.25に対し通常物質0.25の割合)
ダークエネルギー成分はこの時も陽子3.5個/m^3相当で物質密度に対して無視できる程度の値)
さてそれで、この時には定義によって
物質のエネルギー密度ρm:eq=陽子3.86*10^10個/m^3=ρrad:eq 放射のエネルギー密度
となっている訳です。
そうしてこの時にも「宇宙の曲率はフラット」でしたから臨界密度ρc:eqは
臨界密度ρc:eq=ρm:eq+ρrad:eq=陽子2*3.86*10^10個/m^3
となります。
そうして臨界密度ρcの定義式より
ρc=3*H^2/(8*Pi*G)
ですので
H^2=ρc*(8*Pi*G)/3
となります。
従って
Heq^2/H0^2=ρeq/ρ0
となり、ただしρ0は現時点での宇宙の臨界密度であって
ρ0=陽子5個(相当)/m^3
です。
そう言う訳で
Heq^2=H0^2*(陽子2*3.86*10^10個/m^3)/(陽子5個/m^3)
=H0^2*(1.54*10^10)
従って
Heq=H0*sqrt(1.54*10^10)=1.24*10^5*H0
であることが分かります。
そしてこの計算式は「宇宙の任意の時点での臨界密度の値がわかればその時点での宇宙のハッブル定数が計算により求める事ができる」という事をしめしています。(注2)
そうして解かれるべきフリードマン方程式は
ά=±Heq*SQRT(Ωrad/a^2+Ωm/a+(1-Ωm-ΩΛ-Ωrad)+ΩΛ*a^2)
というフルスペックの式になりますが、残念ながらΩΛは
ΩΛ=(陽子3.5個/m^3)/(陽子2*3.86*10^10個/m^3)
=0.45*10^-10≒ゼロ
とするのが妥当の様です。
従って初期条件は
初期条件
Heq=+1、Ωm:eq=0.5、ΩΛ:eq=0、Ωrad:eq=0.5、a(eq)=1
Ωk:eq=(1-Ωm:eq-ΩΛ:eq-Ωrad:eq)=(1-0.5-0-0.5)=0
それで解くべき式は
『x’=(0.5/x^2+0.5/x)^0.5,x(0)=1』
計算範囲は-0.8から4まで、刻み幅は0.005でいいでしょう。
そうするとウルフラムに入力する文章はこうなります。
『ルンゲ・クッタ法でx’=(0.5/x^2+0.5/x)^0.5,x(0)=1を-0.8から4まで解く, h = .005』
↓
実行アドレス
グラフより
t=-0.55でa=0、そこが宇宙が始まるビッグバンの特異点になります。
従って時間軸のスケールは0.55が7.4万年相当という事になります。
(以下の記述部分に記述間違いがありましたので訂正させていただきます。注3↓)
次に「宇宙の晴れ上がり」ポイントですが、宇宙誕生から38万年後ですのでグラフ上のスケール値は
t=0.55*38/7.4=2.82<--間違い
t=2.82-0.55=2.27<--正解
となり、その点のスケール因子aが
a=2.8<--間違い
a=2.55<--正解
であると読み取れます。
つまりここで解いたフリードマン方程式によれば「輻射-物質拮抗時期」の宇宙の大きさが2.55倍になると「宇宙の晴れ上がり」となる、とその様に言っていることになります。
ちなみに宇宙の温度から「輻射-物質拮抗時期」ー>「宇宙の晴れ上がり」への宇宙の拡大率を計算しますと
倍率=8860K/3000K=2.95倍となり
両者の間には相当の、無視できない相違が生じている事が分かります。(↑注3)
さてそれで、「宇宙の晴れ上がり」時点での放射のエネルギー密度を求めておきましょう。
「輻射-物質拮抗時期」の放射のエネルギー密度ρrad:eqは
ρrad:eq=陽子3.86*10^10個/m^3
宇宙の大きさが2.95倍になりますのでこの時のρrad:decは
ρrad:dec=ρrad:eq/(2.95)^4
=(陽子3.86*10^10個/m^3)/(2.95)^4
=陽子5.1*10^8個/m^3
それで前回計算の「宇宙の晴れ上がり」時点での臨界密度ρc:decを引用すると
ρc:dec=陽子1.5*10^9個/m^3
従って放射のエネルギー密度ρrad:decの大きさの程度は
ρrad:dec/ρc:dec=(陽子5.1*10^8個/m^3)/(陽子1.5*10^9個/m^3)
=34% となり、無視できる値ではありません。
つまり「宇宙の晴れ上がり」時点での臨界密度ρc:decは
放射のエネルギー密度ρrad:decを加えた形に修正する必要がある、ということになります。
以下その様に修正された臨界密度を示しておきます。
「輻射-物質拮抗時期」
宇宙誕生から7.4万年後 温度8860K (0.88eV)
観測可能な宇宙の半径 1422万光年
(1422万光年先の場所の後退速度は光速の132倍)(注2)
物質密度 陽子3.86*10^10個/m^3
(ダークマター1.25に対し通常物質0.25の割合
ダークエネルギー成分はこの時も陽子3.5個/m^3相当で物質密度に対して無視できる程度の値)
放射のエネルギー密度 陽子3.86*10^10個/m^3
臨界密度 陽子7.72*10^10個/m^3
「宇宙の晴れ上がり」
宇宙誕生から38万年後 温度3000K (0.3eV)
観測可能な宇宙の半径 4200万光年
(4200万光年先の場所の後退速度は光速の63倍)(注2)
物質密度 陽子1.5*10^9個/m^3
(ダークマター1.25に対し通常物質0.25の割合
ダークエネルギー成分はこの時も陽子3.5個/m^3相当で物質密度に対して無視できる程度の値)
放射のエネルギー密度 陽子5.1*10^8個/m^3
臨界密度 陽子2.0*10^9個/m^3
宇宙誕生から138億年後(<-現在)温度2.73K(<-光子の温度で代表させた場合)
観測可能な宇宙の半径 450億光年
(450億光年先の場所の後退速度は光速の3.4倍)
エネルギー密度 陽子5個/m^3
(実際の内訳は
ダークエネルギー成分が水素原子で3.5個分相当
ダークマターが水素原子で1.25個分
そうしてようやく目に見える(?)物質成分が水素原子0.25個分相当)
放射のエネルギー密度 陽子5.1*10^-4個/m^3(注1)
こうして業界では「現時点での放射(光子+ニュートリノ)のエネルギー密度は臨界密度の0.01%程度であり、無視できる」としているのです。
↓
臨界密度≒陽子5個/m^3
さてそれで現時点での厳密なフリードマン方程式は以下の様である事が分かるのです。
ά=±H*SQRT(Ωrad/a^2+Ωm/a+(1-Ωm-ΩΛ-Ωrad)+ΩΛ*a^2)
そして初期条件は
初期条件
Heq=+1、Ωm:0=0.3、ΩΛ:0=0.7、Ωrad:0=0.0001、a(0)=1
Ωk:0=(1-Ωm:0-ΩΛ:0-Ωrad:0)=(1-0.3-0.7-0.0001)=0
o r - 0.0001
まあしかしながら、この式を実際に使うかどうかは「好みの問題」ではありますが、、、。
注1:現時点での放射のエネルギー密度の計算
「宇宙の晴れ上がり」の放射のエネルギー密度 陽子5.1*10^8個/m^3
を(1000)^4で割る事で求めています。
体積の増加分が3乗分で、もう一つの要因、放射の温度は膨張に逆比例して下がりますので、この二つを合せると(1000)^4となります。
この計算は宇宙の大きさが「宇宙の晴れ上がり」から現在までに約1000倍に膨らんだ、という事によっています。
注2
現時点でのハッブル定数を326万光年で73.4km/sとした場合の計算値になります。
任意の時点での宇宙の臨界密度の値からその時のハッブル定数は
H(t)^2/H0^2=ρc(t)/ρ0
により求める事が出来ます。
そうして、その時の宇宙の半径を326万光年で割った数値とH(t)を掛け合わせることで宇宙の端の後退速度が求まります。
ちなみに「2018年版の宇宙図」によれば、宇宙の晴れ上がり時点での宇宙端の後退速度は光速の約60倍と表示されています。
注3
以下訂正前の記述です。
『次に「宇宙の晴れ上がり」ポイントですが、宇宙誕生から38万年後ですのでグラフ上のスケール値は
t=0.55*38/7.4=2.82
となり、その点のスケール因子aが
a=2.8
であると読み取れます。
つまりここで解いたフリードマン方程式によれば「輻射-物質拮抗時期」の宇宙の大きさが2.8倍になると「宇宙の晴れ上がり」となる、とその様に言っていることになります。
ちなみに宇宙の温度から「輻射-物質拮抗時期」ー>「宇宙の晴れ上がり」への宇宙の拡大率を計算しますと
倍率=8860K/3000K=2.95倍となり
少々誤差が生じている事が分かります。』
↑
「現状の教科書に載っている数値が正しい」という思いこみから記述を間違えていました。
この件詳細はページを改めて検討することと致します。
・ダークマター・ホーキングさんが考えたこと 一覧<--リンク
http://archive.fo/rrPJW
http://archive.md/4HJWZ