物と豊かさ

関西出身の私は、就職をきっかけに埼玉や東京に住むようになったのですが、就職の際にちょっとしたミスをしでかした結果、ちゃんとした準備は全くなく、着の身着のまま東京へ出てくる事になりました。最初は就職先の代表者の家に居候しながらアパートを探し、アパートを見つけて住み始めた頃にも布団を買いに行く暇もなく、夏だったので、代表者宅から借りてきた毛布１枚が唯一の寝具。カバンが枕代わり。コンビニで買った弁当についてきた割り箸を洗って使い、トマトジュースの空き缶がコップ兼炊飯器兼鍋。トマトジュースの空き缶は全部で3個あって、1つは歯磨き用、もう2つを器用に使って料理を作り、米まで炊いていたのでした。包丁代わりはビクトリノックスのアーミーナイフでした。

その後、ある日姉が私のアパートを訪問。電話を設置し、少し買い物をして一気に生活をグレードアップしてくれましたが、それでもアパートにはたいていの場合遅くに寝に帰るだけでしたから、あまり何もありませんでした。秋口になって、少し寒さを感じるようになった頃、布団を購入し、冬の寒さに耐えられなくなって三鷹駅近くの質屋さん（今ならリサイクルショップと呼ぶのでしょう）でガスストーブを購入。そのガスストーブは今現在、私の足元を暖めてくれています。

だから、私にとって最小単位の生活物資は空き缶3個とビクトリノックス、それに寝袋が1個あれば申し分ないと言うことができます。

そんな私ですが、いや、そんな私だからか、”モノなんて無くても豊かさには関係ない”などという平凡な意見には違和感を感じます。

もちろん、沢山モノを持っている事が豊かさだとは全く感じません。でも、自分に正直になればモノがある事により豊かな気分になる事ってあると思いませんか？

例えば、水を飲むのも、、ジュースを飲むのも、アルコール類を飲むのも、コップが1個あれば済みます。コーヒーなど熱いものも飲むのであれば、コーヒーカップが1個あれば、それで全てに使えます。私の場合はトマトジュースの空き缶でも大丈夫という事になります。

でも、例えば一人でゆっくり良いスコッチでも飲もうと思った時、コーヒーカップで飲むのとショットグラスで飲むのは気分が全然違いますね。ワインもそう。コーヒーカップで飲むのとワイングラスで飲むのは味だって違ってくる事を何年か前に友人から教わりました。コーラだってそうですね。どういうわけか、コーヒーカップでコーラを飲むくらいなら、ペットボトルから直接飲んだほうがまだ美味しいように思います。

ワインに関しては、空気と触れる事によって風味が変ったり、体温が伝わる事によって云々という話に展開してややこしくなってしまうのですが、ここではそういう話に触れたいのではありません。そういう事以前に、”気分”が違うという事がより大きな要素として関わっているのではないかという事です。説明を試みると.....。

>飲むという行為だけなら、空き缶でも大丈夫。

>敢えて、ワイングラスを用意するという余計な行為

>余計な行為を伴うだけに特別な時間という贅沢な”気分”

という事なのかなと思います。

そして、その贅沢な気分というのは１つの豊かさでもあります。だから、豊かさそのものはモノとは関係なく、自分達の”気分”。そうだけれど、その気分のモノは影響を与える事も無視できません。

一番大切なことは、モノそのものが目的と化さないようにすることなのだと思います。自分の”気分”が”豊かになる”事が全てです。その目的のためにモノが上手く使いこなせるなら、モノはあなたの生活を豊かにしてくれるのだと思います。

”必要”かどうかという観点で判断することも必要な面はあります。ただ、もしそういう観点を突き詰めて考えれば、私の場合は空き缶3個の生活がに見えてきます。

どんな”不必要”な物をどういう”気分”のために追加するのかを考えてみることは決して悪いことではないと思います。

そういえば、”旅行”は全く持って”不必要”なものでもありますね。