goo blog サービス終了のお知らせ 

Dr.K の日記

日々の出来事を中心に、時々、好きな古伊万里について語ります。

伊万里 染付 祥瑞丸文蓋付向付(5客組)

2020年09月09日 15時09分29秒 | 古伊万里

 今回は、「伊万里 染付 祥瑞丸文蓋付向付(5客組)」の紹介です。

 これも、昭和55年に(今から40年前に)買ってきたものです。

 当時は、江戸中期以前の古伊万里は高かったですが、十把ひとからげで「幕末物」とか「文化・文政物」と言われていたものは、比較的に安く買えました。といっても、現在では古伊万里ブームが去ってしまい、古伊万里の値段は安くなってしまいましたが、現在よりは高かったかもしれません、、、。

 では、さっそく、写真を紹介します。

 

 

伊万里 染付 祥瑞丸文蓋付向付(5客組)

立面

 

 

真上から見た面

 

 

本体の見込み面

 

 

蓋裏面

 

 

立面(1個が代表して)

 

 

蓋を外したところ(1個が代表して)

 

 

蓋を外して伏せたところ(1個が代表して)

 

 

本体の見込み面(1個が代表して)

 

 

蓋裏面(1個が代表して)

 

 

 以上で「伊万里 染付 祥瑞丸文蓋付向付(5客組)」の画像での紹介は終了となりますが、ここで、この向付の見込み面と蓋裏には虫のような文様が描かれていることが分かります。

 そして、この虫の様な文様から、この向付が作られた窯と製作年代が分かるんです。そのことについては、先日、2002年6月26日付けで、「伊万里 染付 松竹梅文天目茶碗」を紹介した際に記したところですが、次に、その辺のことを記した部分を再度掲載いたします。

 

 


<「伊万里 染付 松竹梅文天目茶碗」の紹介文からの抜粋>

(2020年6月26日付け)

 

 この茶碗の画像での紹介は以上のとりですが、いったい、この「伊万里 染付松竹梅文天目茶碗」は、何時、何処で作られたのでしょうか。手持ちの資料で、ちょっと調べてみました。

 ヒントは、この茶碗の見込み底面に描かれた文様にあります。

 

茶碗Aの見込み底面に描かれた文様

 

 

茶碗Bの見込み底面に描かれた文様

 

 

 茶碗A,Bともに、虫のような文様が描かれていますね。

 これについては、「柴田コレクションⅣ」(佐賀県立九州陶磁文化館発行)のP.279に「・・・碗や蕎麦猪口の見込みによく用いられている文様である。蕎麦猪口のように狭くて深い器形には、単純で線描きを主とする文様が描きやすい。・・・1780~1810年代の蕎麦猪口に多用されている。」と書かれています。

そして、その文様として示されているのは、次のような文様です。  

 

「柴田コレクションⅣ」から転載

 

 

 全く同じとは言えませんが、茶碗Bの見込み底面に描かれた文様によく似ていますよね。また、上の画像の「図320」というものは、次のような蕎麦猪口です。

 

 

「柴田コレクションⅣ」から転載

 

 

 この茶碗Bの見込み底面に描かれた文様は、このような蕎麦猪口の見込み底面にも描かれてることがわかります。

 また、このような器は、何処で作られていたかですが、「肥前陶磁史考」(中島浩氣著 青潮社 昭和11年発行)(昭和60年復刻版)の「古伊万里銘(二)」の中に、次のような紹介があります。

 

 

上南川原樋口窯 

(「肥前陶磁史考」から転載)

 

 

 これまた、上の画像の上方に載っている文様は、この茶碗Bの見込み底面に描かれた文様に似ていますよね。

 以上のことから考えて、茶碗Bは、江戸時代の後期の1780~1810年代に、有田の上南川原樋口窯で作られたものと思われます。

 また、茶碗Aの見込み底面に描かれた文様も、茶碗Bの見込み底面に描かれた文様とかなり類似していますので、茶碗Aも、茶碗Bと同様、江戸時代後期の1780~1810年代に、有田の上南川原樋口窯で作られたものと思われます。

 

 


 

 以上の抜粋文から分かりますように、この向付も、江戸時代後期の1780~1810年代に、有田の上南川原樋口窯で作られたものであることが分かります。

 なお、この向付につきましては、今では閉鎖してしまっている拙ホームページの「古伊万里への誘い」でも既に紹介していますので、次に、再度、参考までに、それを紹介いたします。

:「古伊万里への誘い」では、この「伊万里 染付 祥瑞丸文蓋付向付」のことを「古伊万里様式 染付 祥瑞丸文変形蓋付碗」として紹介しています。)

 

 

 

 



      

       <古伊万里への誘い>

 


*古伊万バカ日誌22 古伊万里との対話(変形蓋付碗)平成16年10月筆)

 

登場人物
 主  人 (田舎の平凡なサラリーマン)
 染子姉妹 (古伊万里様式染付祥瑞丸文変形蓋付碗)

   
口径:10.4cm;高さ(蓋共):7.2cm   見込み文様  
 

 

・・・・・プロローグ・・・・・

 主人は、先日、骨董市で骨董品ならぬ新物の茶碗蒸し用の器(五客セット)を買ってきて妻にプレゼントしたところである。
 近頃は、骨董市でも骨董品は品薄で、結構、新物も並べられている。中には、知ってか知らずか、新物を骨董品として売っている輩がいるから要注意だ! 油断も隙もあったものではない!!
 それはさておき、先日、茶碗蒸し用の器を買ってきて妻にプレゼントしたことから(「恩着せがましく何度も言うね~」との声あり。)、以前に買ってきて押入れに入れっぱなしの蓋付碗のことを思い出し、引っ張り出してきた。 

 

 

主人:暫くぶりだな! 昭和55年に我が家に来たから、およそ四半世紀ぶりかな!!

染子姉妹:そうです(プンプン)。すっかり私達のことをお忘れでしたね。

主人:悪い悪い。先日、骨董市で新物の茶碗蒸し用の器を五客セットで買ってきて妻にプレゼントしたことから思い出したんだ。そういえば、我が家に、ちょっと変わった形の蓋付碗があったな~って。

染子姉妹:茶碗蒸し用の器は、おいくらほどしたのですか?

主人:骨董市で骨董品を買うと高いけど、新しい物を買うと安いよ! 五客セットで500円だった。一客100円だね。
 妻は気に入ったみたいだ。でも、500円で買ってきたなんて妻に告げ口してはだめだぞ! もっと高く買ってきたようなことを言ってあるんだから。安物だったなんて知れると妻へのプレゼントの御利益が薄れるからな・・・・・。
 ところで、お前達の形は変わってるな~。あまり見かけないね。極端に言うと、瓶子を半分に切って、途中をカットして作ったみたいだ!

染子姉妹:そんなに変わってますか?

主人:変わってるね。名称をどうするか迷ったよ。「蓋物」とすればいいのかもしれないが、普通、「蓋物」の場合は、蓋の口径が、本体の口径と同じかそれより大きいよね。お前達は、蓋の口径が本体の口径より小さくて中に入り込んでいるものね。それに近いものは、物の本では、だいたい「蓋付碗」となってるんだよね。それで一応「蓋付碗」としてはみたんだが、「碗」にしては小さくて、ご飯なんか少ししか入らないようだし、迷ったあげく「変形」「蓋付碗」としたわけさ。

染子姉妹:いろいろとお手数をおかけいたします。

主人:ところで、お前達を押入れから引っ張り出してきたときに妻が見ていて、「あら、素的じゃない! そういうものは、しまっておかないで日常的に使ったほうがいいのよね!!」
とぬかしやがった。いつもは、
「ガラクタばかり買ってきて!」
と言ってるくせにね。

染子姉妹:先日のプレゼントが利いたんじゃないですか!

主人:そうかもしれないな~。褒めると、日常使用用にお前達を提供してくれると思ったのかもしれないね。

染子姉妹:私達にとっては、そうしていただけると嬉しいです! いつも明るい所にいられますもの。

主人:それもそうなんだがね。褒められると惜しくなってくるのさ。
 特に最近は地震が多いだろう。食器戸棚に普段使いの食器と一緒にしておいて、「グラグラ、ガシャーン!」となるのを想像すると、いまいち決断できないでいるんだよ! あたら、お前達名品を失いたくないからね!

染子姉妹:あら、いつのまにか私達は名品に格上げされていたんですね!

主人:ははは・・・・・。人間褒められると嬉しくなって、判断も狂おうというものよ・・・・・。
 名品を失いたくないから、お前達には今までどおり押入れに入っていてもらおう。その方が安全だ!
 せいぜい、来客の折にでも使ってもらうことにしよう。

 

追記(平成16年11月22日)

 「鍋島Ⅱ 後期の作風を観る」(小木一良著 創樹社美術出版)を見ていたら、図149(161ページ)の説明が眼に留まった。染子姉妹の器形にも言えるので、ここに追記しておく。

「         ・・・・・
 本品も文政時代頃の作と考えられる。又、この碗の器形は面白い。体部は江戸時代に女性が用いた「市女笠」を逆にしたような形である。
 あまり類を見ない器形品である。」

として、その名称を「菊花文逆市女笠形蓋碗」としている。なんともロマンチックな名称ではある。
 これに倣えば、染子姉妹の名称は「祥瑞丸文逆市女笠形蓋付碗」とでもすべきであろう。
 どうも、吞兵衛は飲むことしか連想しないので困る。「・・・極端に言うと、瓶子を半分に切って、途中をカットして作ったみたいだ!・・・」などとしか連想しない。もっと優雅な連想をしてあげないと染子姉妹が可哀想か!

 

 


 

*古伊万里ギャラリー80 古伊万里様式 染付 祥瑞丸文変形蓋付碗(平成16年11月1日登載)

 

見込み文様 蓋裏文様
 

 この器物を特徴付けているのは、変わった器形と、見込み及び蓋裏に描かれた文様である。

 器形については、このような形は見かけない。従って、名称をどう付けようかと考えたが、一番「蓋付碗」に似ているかなと思って「蓋付碗」とした。また、普通の「蓋付碗」ともちがうので「変形」を付して「変形蓋付碗」としてみた。

 変わった形ゆえに、一見、新鮮さ、斬新さを見る者に与え、現代的なスマートささえも感じさせるものである。

 見込み及び蓋裏に虫のような文様が描かれているが、このような文様は、「柴田コレクションⅣ ー古伊万里様式の成立と展開ー 」の中の鈴田由紀夫氏の論稿「17世紀末から19世紀中葉の銘款と見込み文様」(P.272~279)によれば、1780~1810年代に登場するとのことである。

 この器物を購入したのは昭和55年である。当時は、この手のものは、十把ひとからげで、「文化・文政物」といわれ、「古伊万里」の仲間入りは出来なかったようである。でも、今では、古い物が少なくなってきたので、「古伊万里」への仲間入りを果たしたのではないだろうか。

 それにしても、文化・文政は「1804~1829年」だから、「1780~1810年代」とは、骨董の世界では五十歩百歩であろう。まあ、それでも、当時よりは20年程は古く位置付けられたことになるであろうか。
 昔の人は、時代鑑定になかなかの勘を有していたようである。

江戸時代後期     口径:10.4cm  高さ(蓋共):7.2cm

 

追記(平成16年11月22日)

 「鍋島Ⅱ 後期の作風を観る」(小木一良著 創樹社美術出版)を見ていたら、図149(161ページ)の説明が眼に留まった。この器物の器形にも言えるので、ここに追記しておく。

「        ・・・・・
 本品も文政時代頃の作と考えられる。又、この碗の器形は面白い。体部は江戸時代に女性が用いた「市女笠」を逆にしたような形である。
 あまり類を見ない器形品である。」

として、その名称を「菊花文逆市女笠形蓋碗」としている。なんともロマンチックな名称ではある。
 これに倣えば、この器物の名称は「祥瑞丸文逆市女笠形蓋付碗」とでもすべきであろう。
 どうも、関東の男は無骨で情緒がない。器の名称の付け方も無骨丸出しだ!