滝沢とのコンビによる仕事は、『死神デース』を経て、『鬼警部』(「週刊少年マガジン」70年)、『狂犬トロッキー』(「別冊少年マガジン」70年~71年)、『幕末珍犬組』(「週刊少年マガジン」73年)等、滝沢をシナリオライターに起用し、後にファンの間で滝沢原作三部作と呼ばれる連載、長編読み切りへと結実する。
『鬼警部』(「別冊少年マガジン」70年12月号)は、愛のために芸術を捨てると誓うストリッパーのパールと、ストリップは至高の芸術表現だと叫ぶそのヒモであるモロ、公然猥褻は憎むべき犯罪だと、二人の逮捕に一人怪気炎を上げるブラック警部の、恋愛関係とはまた違う奇妙な三つ巴の関係をシークエンスに、友情が孕んでいる矛盾と倒錯を明確な因果律で呈示した、不条理劇的要素の強い異色作である。
猥褻か芸術か、性の観念を巡り、常に先進と保守の間で、トートロジー的な論争がなされてきたが、この時期、日本でも、ヒッピームーブメントに呼応したロックミュージカル『HAIR』が上演され、また、老舗映画会社・日活がポルノ路線への転換を図るなど、裸をタブー視する社会通念に一矢報いた、これらのカウンターカルチャーもまた、反権力闘争の所産として見なされ、若い世代に熱烈な歓迎をもって受け入れられた。
そうした性の解放が大きく進んだ時代における内在的情念を、滝沢と赤塚が、少年漫画の世界で表出したことは、もっと声価を得て然るべきだろう。
鬼警部の敵役のモロが、フランス象徴主義の画家・ギュスターヴ・モローのパロディーであったり、各エピソードごとのテーマに絡め、フョードル・ドストエフスキーやマルティン・ハイデッガー等の箴言が、幕間的にインサートされるなど、少年漫画で扱うには、消化不良を引き起こしかねない、それらキッチュな演出に、些か煮え切れない印象も禁じ得ないが、滝沢原作の特徴であるシニックな人間観察眼は、因果渦巻く人間ドラマの光と影を見事に照らし出している。
それでありながら、登場人物達の激烈なエモーションが、怒涛の如くスパークし、ドラマの哀歓や猥雑な空気を問答無用に捩じ伏せてしまう強靭性も、同時に併せ持っているという、原作付き漫画とはいえ、軽視出来ない一作だ。
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