文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

通説を捉え直した新撰組珍論『幕末珍犬組』

2021-12-21 19:06:21 | 第5章

『幕末珍犬組』は、『狂犬トロッキー』の延長線上に位置する、登場人物達を動物に仮託した「新撰組」のパロディーで、局長の近藤勇以下、土方歳三や沖田総司といった新撰組メンバーらが、犬に置き換えられ、画稿狭しに大暴れするという、「週刊少年マガジン」の創刊十五周年を記念して発表された長編読み切りだ。

江戸末期の幕末の時代、京都において、反幕府勢力の弾圧と治安維持のため、結成された新撰組の巷説は、民間説話の類いも含め、諸説あるが、この『幕末珍犬組』もまた、作劇の都合上、通説を捉え直した異質の展開が堂々と張り巡らされており、その徹底的に様式化された「新撰組」烈伝から背理した珍説は、突拍子のない奇想に溢れ、純然たるギャグ漫画として読んでも、充分な程インタレスティングだ。

尊王攘夷派の長州藩・桂小五郎や土佐潘・海援隊所属の坂本龍馬といった倒幕派の志士達も、各々ワニや馬によってキャラクター化され、その時、実際にはいなかった筈の池田屋で、珍犬組の奇襲を受けたりと、史実無視も甚だしいそのタイムラグに、面喰らうこと必至だが、そんな歴史的事実を吹き飛ばす強引な物語展開は、即興性の妙味とともに、痛快この上ないバイタリティーの噴出となって余りある。

また、前作『狂犬トロッキー』の流れを汲むタイトルでありながらも、ナンセンス面においては、同時期の『レッツラゴン』と同じく、喧騒的なスラップスティックがドラマの定体を次々と解体してゆく、隔絶した飛翔感をみなぎらせている点も瞠目に値し、原作付き作品とはいえ、僅か二年の間に、赤塚の漫画文法が著しい変貌を遂げたことが、この一作からも窺える。

無論、他の作品も同様の経緯を辿って描かれたのであろうが、この『幕末珍犬組』の場合、滝沢が綴った四〇〇字詰め原稿用紙約六〇枚からなる原作に、本稿執筆のため、帝国ホテルで缶詰めとなった赤塚が、赤塚漫画らしいネームと構成による特段のリライトを施したとのことで、『鬼警部』や『狂犬トロッキー』以上に、シュールの気配さえ感じさせる苦心惨憺の跡が、至るシーンにおいて見て取れる。

余談だが、『幕末珍犬組』が掲載された「週刊少年マガジン」(73年17号)では、同時掲載の『天才バカボン』(「バカ塚先生とバカラシ記者」)で、その執筆の苦闘(⁉)の模様をネタにしたフィクショナルなエピソードが綴られ、自虐性たっぷりに製作の裏側を暴露する、クロスオーバーの笑いをプレゼンテーションしたことも、ここに連記しておきたい。


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