文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

男の中の男 義理と人情のデコッ八

2020-06-15 03:12:09 | 第4章

曲がったことがとにかく嫌いで、喧嘩も強く、男気溢れる熱血漢のデコッ八は、地方出身者でありながらも、親分のア太郎以上に江戸っ子気質を体現した、ある意味直情径行に過ぎた感もある少年だ。

その真っ正直な性格故に、己の正しき信念を貫くデコッ八は、人の道から外れたことをすれば、敬愛する親分のア太郎にさえ、喝として拳を振り上げることも辞さない。

そんなデコッ八の気質を端的に表したエピソードが、後に登場する猫のニャロメがデコッ八の男心に惚れ慕う切っ掛けを描いた「デコッ八の男ごころ」(70年2号)である。

イカサマ賭博を重ね、ニャロメをからかって遊んでいたア太郎だったが、ふとしたことで、賭けに負けたア太郎は、負けたら自分を殴っても構わないというニャロメとの約束を破ってしまう。

その悔しさから、デコッ八に抗議するニャロメ。

真偽を確かめるべく、ニャロメとともにア太郎に詰め寄るデコッ八だったが、「おれとニャロメとどっちを信用するんだ?」と開き直ったその態度に、怒りを爆発させ、ア太郎に拳をぶつける。

また、正しきを尊ぶその熱い生き様に触れ、ひねくれ者や悪ガキが改心してゆくエピソードも、デコッ八を主役にした回には数多くある。

中でも特筆すべきは、ア太郎版『走れメロス』(太宰治)とも言える「義理と人情のデコッ八」(69年10号)だ。

配達の帰り、子供達の喧嘩の仲裁に入ったデコッ八は、そこで喧嘩の原因となった悪ガキ・テルに気に入られるが、デコッ八もまた、意地っ張りでガッツのあるテルに、何処か自分の幼き日の面影を重ね合わせて見ていた。

そんなある日、テルが八百×に大量の野菜を買いに来る。

財布を忘れたと言うテルに不信感を露にするア太郎だったが、デコッ八はテルを信じ、野菜を持って帰らせる。

そして、テルを一切信用しようとしないア太郎に、デコッ八は、もしテルが代金を支払わないことになったら、自分を一〇〇発殴ってもいいとア太郎に約束を取り付ける。

だが、テルは船乗りの息子で、父親共々食材の代金を踏み倒す常習犯だったのだ。

船が出航する中、デコッ八が気が気でないテルは、父親から財布を奪って、運河へと飛び込み、デコッ八のもとへと泳いで向かう……。

嘘と感じつつも、友を信じることへの意義深さ、そして、友から信頼されることへの感謝と喜び、簡潔なドラマの中にも、これこそが男同士の絆だという言い様のない感動とロマンが同時に引き出された、『ア太郎』珠玉のエピソードだ。

その名の通り、出っ張ったオデコとイガグリ頭が印象的なデコッ八のキャラクターデザインであるが、元々は『ア太郎』開始から遡ること六年前、「別冊少年サンデー お正月ゆかい号」(62年1月1日発行)に読み切りとして発表された『チャン吉くん』に登場する脇キャラ・ダボを、そのまま1968年の赤塚漫画のタッチに描き換えたもので、有名処の赤塚キャラでは、『ひみつのアッコちゃん』のチカちゃんに次ぐ、古い歴史を持つサポーティングアクターと言えるだろう。


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2 コメント

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Unknown (MT)
2024-05-16 21:31:55
「駿河屋」に、「チャン吉くん」のキャラカードが売り出されていたので、拝見しました。そのカードにはデコッ八の原典・ダボが描かれてましたが、広いオデコがあるものの、見るからにオッサンでした。

そのデコッ八、意外に知られてないのは一般公募で名称が決められたもので、「週刊少年サンデー」1968年13号の「ア太郎」ラストに記載されてました。もちろん現在の単行本では拝見出来ず、オークションサイトで売り出されているのでしか見られません。

こういった一般公募による名称決めは、赤塚物でも結構あり、デカパンやハタ坊、また「レッツラゴン」末期キャラのオタマンなどがいました。でも天下の人気者デコッ八が一般公募とはね。
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Unknown (douteinawa)
2024-06-03 17:12:13
M・Tさん

チャン吉くんのキャラクターカードとは、1998年頃にエポック社より発売されていた「赤塚不二夫トレーディングカード」の1枚ですね!

確かに、ダボが裏面に描かれていました😅

因みに、発売当時、私もスペシャルカードを含め、コンプリートしましたが、解説が赤塚マンガには然程詳しくない眼科医の森下清文氏だったので、若干物足りなく思えたりもしました。

とはいえ、TVチャンピオンの少年マンガ王になった凄い方なんですけどね😅

そういえば、デコッ八も一般公募でその名が決まったキャラクターなんですよね。

天才バカボンのウメボシ仮面やレッツラゴンのオタマンなどは、単行本にもその募集事項や中間発表が収録されていたのを思い出します。
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