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文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

赤塚不二夫レア作品レビュー その⑧ 『ヘビの恩返し』(「リイドコミック」77年1月6日号)

2025-04-25 10:47:37 | 論考

新年特別企画の一環として、複数のナンセンス漫画家との競作として発表された長編読み切り。

とかく人様から嫌われがちであることを悩む野性のヘビが、新年を迎えるにあたり、今年は人気者になってイメージを払拭したいと、街に出ては、様々なお宅にお邪魔しては、珍芸を披露し、注目を浴びようとするものの、所詮はヘビ。これといった芸もなく、最初に訪れたお宅の旦那さんには、ブチギレられ、逆に芸の手解きを受ける始末となる。

旦那は日本舞踊の「黒田節」を披露するも、ヘビにはこれが芸だと理解出来ず、冷ややかな態度でスルーしたのが運のツキ。得意の「黒田節」を否定されたと激昂する旦那にサンドバッグ代わりにされたり、丸ごと飲んだ一升瓶でベロンベロンに酔っ払い、グロッキーになるなど、踏んだり蹴ったりの有り様だ。

その後、我に帰ったヘビは、とある若い女性の部屋で目を覚ます。

若い女性は、道端で倒れているヘビを自宅で保護し、看病してあげていたのだ。

感激したヘビは、若い女性に恩を返すべく、奔走する。

体内のスペースが変幻自在となるヘビは、その身体スペックを活かし、街で貴金属をはじめとする高級品や家具、旬の食材を飲み込んでは、若い女性にプレゼントすべく、彼女の前で全てを吐き出す。

大喜びの彼女は、これで彼氏がいれば、言うことなしと軽口を叩くが、実際、ヘビにはそこまでの知恵は回らなかった。

そんな中、ヘビは吐き出した分、強烈な空腹感に襲われ、女性に何か食べ物はないかと訊ねる。

女性は、卵二つとボンレスハムを差し出すが、それを一気に飲み込んだとたん、ヘビは大人の愛玩具のような形状へと変わってしまう

彼氏のいない彼女に今こそ最高の恩返しが出来ると思ったヘビは、姿そのままに彼女に迫るわけだが、所詮は嫌われ者のヘビ。つまるところ、彼女にもブチギレられ、やはりヘビが人間に好かれることは、土台儘ならない話だという、トホホな落ちが最後に付く……。

1977年は巳年ということもあり、本作は巳(ヘビ)を主人公に迎えたナンセンス悲喜劇にカテゴライズされる一編だが、赤塚ギャグには、『サルばかガードマン』(「少年」68年1月号別冊付録)をはじめ、映画「猿の惑星」をモチーフとした大傑作『ギャグゲリラ』/「書きぞめ漫画 さるのはじめのためしとせ」(「週刊文春」80年1月17日)等、その年の干支を主役に据えた読み切りが、新春に幾つも描かれており、本作もまた、その延長線上に位置するタイトルといえよう。

赤塚ワールドにおいて、ヘビを登場させた回といえば、『天才バカボン』/「故郷へかざるニシキヘビなのだ」(「別冊少年マガジン」75年2月号)や、連載作品『BC’アダム』(「週刊少年マガジン」75年7号〜26号)にレギュラー出演したBCヘビあたりが、ファンにとっては有名どころだが、丸々一エピソードにおいて、ヘビをフィーチャーしたのは、赤塚マンガにおいては、本作が初めてと見て間違いないだろう。

ヘビから想起される連鎖反応的なギャグが掃射砲の如く連打され、そのリズムカルなストーリーテリングには、相も変わらない赤塚ギャグ特有のハーモニーを感じさせ、劇中、思わぬナンセンスが紡ぎ出される。

無尽蔵に存在する赤塚読み切りの十把一絡げとされるきらいもなきにしもあらずな本タイトルではあるが、それらの中でも群を抜き、赤塚ならではのナンセンスの本領が発揮された、決して侮ることは出来ない一編だ。


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