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文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

赤塚不二夫レア作品レビュー その⑨『愛情レストラン』(「ビッグ辻調」79年4月1日創刊号)

2025-05-02 14:08:05 | 論考
従来、昭和の懐かし漫画の好事家ですら、ほぼほぼ触れたことすらない、それ以前に食指が動かなかったであろうマイナーな赤塚マンガを複数取り上げ、その作品世界の詳細を掘り下げてきた「赤塚不二夫レア作品レビュー」シリーズであるが、今回フィーチャーする『愛情レストラン』などは、発表媒体が非売品の雑誌だったということもあり、まさにそうしたテーマに沿った最右翼たる一編と断言しても憚らないであろう。

大阪市阿倍野区松﨑町に拠点を構え、調理師やパテシィエを養成する「大阪あべの辻調理専門学校」(総称・辻調グループ校)が、調理師本科となる「第二辻調理師学校」を開校した1978年、新規入学者募集への宣材パンフレットも兼ね、その翌年4月に「ビッグ辻調」なる機関誌が創刊される。

「ビッグ辻調」創刊号は、赤塚の『愛情レストラン』のほか、当時、「やすきよ」漫才で飛ぶ鳥を落とす勢いだった西川きよしの一日体験入学や、人気番組「料理天国」の裏側をレポートしたグラビア企画など、豪華盛り沢山の内容で、単なる機関誌とは括れない程、力の籠もった充実度を誇っている。

尚、辻調グループ校の創設者である辻静雄は、番組開始当初から「料理天国」の料理監修を務めており、西川きよしの一日体験入学レポートなどは、きよしが同番組に出演していたことが切っ掛けであろうし、赤塚もまた、同番組には、幾度となくゲスト出演しており、こうした辻との繋がりから、本人からの直接のオファーにより『愛情レストラン』を寄稿するに至ったというのは、安易に想像出来よう。

さて、そのような経緯で生まれた『愛情レストラン』であるが、このように専修学校発行による非売品冊子というコマーシャリズムとの接点を持ち得ていない発表媒体でありながらも、作画、アイデア、ネーム等、商業性を備えた通常の赤塚作品同質のクオリティーが保たれており、マイナーながらも決して手を抜かない、赤塚の義理堅さ、延いては真摯な作家性を物語っているようで清々しい。

ストーリーは、とある学生が学生服姿で、愛情レストランなるお店に来店し、そこの看板メニューであるビーフカレーを注文する。

だが、ビーフカレーを持って来た店主は、当店にとっては自慢のメニューだから、エチケットとしてタキシードを着て食べて欲しいという。

学生服姿の学生には、学生服にお似合いなオムライスを勧める。

お腹を空かせた学生は、この際、何でも良いから、食べさせて欲しいと懇願すると、店主からはキツネうどんがピッタリではないかと提案される。

キツネうどんは、裸でも食べられるメニューだったのだ。

他にも、店主の拘りで、スパゲッティは羽織り袴、ポークソテーはアイビールックで食するという決まりがあるのだが、学生の食べっぷりを気に入った店主は、特別大サービスで、その日一日をフリースタイルの食べ放題にしてあげる。

それなのに、べらぼうな勘定を請求し、学生は這々の体でレストランから逃げ出す。

店主曰く「貸衣裳かなんかでくりゃ もっと高くつくよ」とのことだった。

人が食べるのを見ていて、やがて腹が減ってきた店主は、調理師姿では外食が出来ないとの思い込みから、出前を取ることにする。

そして、出前のおかめうどんを持って来た別店舗の店主が言った一言。

「うちのおかめうどんは味で勝負だから どんな格好で食ってもらっていいですよ」

良い料理人とは、高圧的に客を選ぶのではなく、どんな客にでも美味しい料理を提供出来る人のことを指すのだという、一流の料理人に対する赤塚独自の見解が、この落ちとなる一言に集約されているように思えてならない。

長らくリスト上でしかその名を見ることが出来ない幻のタイトルとも言うべき『愛情レストラン』だったが、発表から42年を経た2021年、なりなれ社発行、星雲社発売によるアンソロジー集『夜の赤塚不二夫』に初収録され、漸く陽の目を見るに至った。

『夜の赤塚不二夫』は、フジオ・プロの監修により、単行本未収録作品、赤塚不二夫ディレッタントを自認する筆者ですら、恥ずかしながら、把握していなかったリスト漏れ作品17タイトルから構成されており、公式による赤塚本としては、数少ない称賛に値するワークスに仕上がった。

出版不況のご時世、このようなマイナーな企画自体、実現化は厳しいだろうが、赤塚不二夫という余人をもって代え難い天才の仕事を後世に伝えるという意味においても、臆することなく、積極果敢に赤塚マンガの今後と向き合って欲しい。

これはとことんまでに赤塚不二夫を愛する者として切に願う、愚直なまでな叫びでもあるのだ。


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