第二弾は、「週刊少年マガジン」の創刊1000号を記念した特別企画で、『時をかける少女』や『東海道戦争』等の代表作を持つ日本SF小説の大家・筒井康隆の『家族八景』を『ハウスジャックナナちゃん』(77年50号~52号)と改題しコミカライズ。三週連続に渡って、シリーズ連載された。
ハウスキーパーを職業とする、ナナちゃんこと火田七瀬は、人の心の内面をつぶさに読み取ることが出来る超能力少女だった。
ナナちゃんが、派遣された先々で起こる様々な問題を得意のテレパシーで解決し、次の派遣先へと渡り歩いてゆくというのが、主なストーリーのあらましで、ナナちゃんの怒りや失望といった葛藤とともに、ダークな感情を浮き彫りにしてゆく登場人物達の心理的迫力は、他の赤塚作品では、類例を見ないほどの寒慄に満ちており、全編に渡り、えも言えぬ不気味なムードを湛えている。
取り上げられたエピソードは、ゴミ屋敷に住む大家族の屈折した感情と、その元凶であるグータラ妻との対峙を描いた「澱の呪縛」(77年50号)、淡い恋心と尊敬を抱いていた画家の澱んだ本性が、七瀬のテレパスにより、白日のもとに晒される「日曜画家」(77年51号)、マザコン中年男とその母親の戦慄の別れを、七瀬のシビアな決断とともに綴った「亡母渇仰」(77年52号)の三本だ。
毎回30ページ前後という限られたスペースにおいて、途中、赤塚ギャグ独特のアチャラカ的展開を組み入れつつも、筒井原作のピボットを損なうことなく、その世界観を手堅く纏め上げている点は、流石は物語作家としての出自を思わせる。
瞳に星を宿した黒目がちの主人公・ナナちゃんのキャラクターデザインとその画風は、明らかに赤塚のそれとは異質なもので、その筆致から察するに、当時、作画スタッフを務めていた長岡弘(現・漫画家の原野空丸)か、アリスなるペンネームで在籍していたさる女性スタッフが担当したものではないだろうか……。
このタッチは、同時期に「週刊少年サンデー」に発表された『いたいけ君』(77年、78年)のヒロイン・笠井ヤス子や岡崎麻由といったキャラクターにも流用され、その後定着するには至らなかったものの、この若い作画スタッフとのコラボレーションもまた、赤塚漫画の世界観に新たな血を注入することにひとかどの成果を生んだ好例と言えよう。
また、脇キャラは全て赤塚によって描かれた、『バカボン』、『ギャグゲリラ』同様の二頭身、三頭身のギャグタッチであるため、六頭身美少女キャラクターのナナちゃんとの対比がこの上なくアンバランスであり、作品総体において、一種異様なビジュアル効果を醸し出している本シリーズであるが、第一話では、バカボンのパパが、七瀬が派遣された神波家に、御用聞きとしてゲスト出演するなど、ドラマの重苦しい空気を緩和する、束の間の清涼剤的役割を果たしている点も見逃せない。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます