文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

人気絶頂の中で、突然の連載終了

2020-08-13 01:28:33 | 第4章

このように、ニャロメブームの到来で、人気は鰻登り。『おそ松くん』に相当するビッグヒットとなり、社会現象化するまでに至った新生『もーれつア太郎』だったが、人気絶頂を迎えながらも、その連載は何の前触れもなく、突如として終了を余儀なくされる。

「週刊少年サンデー」の人気連載の総集編に当たる「別冊少年サンデー」でも『ア太郎』特集が幾度となく組まれ、いずれも数十万部単位の売り上げを誇るベストセラーになったほか、オンエア中のテレビアニメも最高視聴率25・9%を記録するなど、依然として高い人気を示していた『ア太郎』だったが、これ以上のニャロメグッズの売り上げを期待出来ないと判断したスポンサーサイドから、ニャロメやア太郎に代わる新たなキャラクターの 登場を強く要望され、そうした流れからテレビアニメの打ち切りが決定となったことが、連載中止に至る大きな理由であった。

突然の『ア太郎』の連載終了に際し、赤塚はその無念さを、こう吐露している。

「これは腹立たしいことではあるんだけど、作品がヒットするとアニメーションになる。テレビ化されて。雑誌とテレビは別ものなのに、雑誌社はそうはみないんだよね。マーチャンダイジングの問題がでてくる。アニメーションやってるうちは、ア太郎のスリッパだとか筆箱だとか、そういうものが売れるわけ。アニメになると必ず商品化される。そういうものの何パーセント雑誌社がとって、何パーセントそのアニメーションの会社がとって、何パーセントフジオプロがとって、ということで、不労所得があるわけですよ。で、アニメーションが終るとそういうものがなくなるから、新しい作品を、って言ってくるわけ。ぼくは『ア太郎』なんかまだいけるんだからやるべきだと思ったけど、もう編集部がやる気をなくしてる。そうなるとこっちも描く気がしなくなっちゃう。それでやめちゃった。」

(『赤塚不二夫1000ページ』話の特集、75年)

実際、ニャロメブームの興奮冷めやらぬ状況や、気力、実力ともに、当時の赤塚の充実ぶりを思い量れば、少なくとも、あと一年、二年は『ア太郎』の賞味期限を延長させることが可能であったのは、間違いないだけに、この突然の打ち切り劇に関しては、ファンとしても誠に残念な結果でならない。

本誌「サンデー」での連載は、1970年第27号「キョーレツかわい子ちゃん」をもって最終回を迎える。

因みに、最終エピソードと相成った「キョーレツかわい子ちゃん」は、容姿端麗でありながらも、暴虐的なサディズムを弄する強烈な女の子に一目惚れしたニャロメが、あの手この手で自らの愛をアプローチするものの、えげつないまでの仕打ちを受け、遂には止めに入ったア太郎やデコッ八までも、コテンパンにのされてしまうといった内容で、最終回特有の感動をもたらす大フィナーレへと雪崩れ込むわけでもなければ、暫し深い余韻に浸れるような哀切を滲ませた情緒的なラストシーンに収斂してゆくわけでもなく、それこそ通常の『ア太郎』と寸分違わぬスラップスティック様式に、より過激なインモラリティを顕在化させた、ハイテンションなブラックコメディーであった。

ニャロメのブレイクからおよそ一年弱、『おそ松』人気の半分にも満たない、短いピークを迎え終えたシリーズ連載だった。

しかしながら、『ア太郎』人気は根強く、1969年の暮れに曙出版より刊行された全12巻のコミックスは、『おそ松くん全集』や『天才バカボン』同様、80年代に入るまで繰り返し再版され、巻数の影響から両タイトルを上回る部数には至らなかったものの、トータル二〇〇万部を売り上げるベストセラーとなった。

その後も、立風書房(全1巻、76年)や奇想天外文庫(奇想天外社・全1巻、76年)、小学館文庫(小学館・全1巻、05年)、から選集が出た以外にも、1990年に講談社、94年に竹書房から、それぞれ全11巻、全9巻で復刊され、特に竹書房文庫版は、折からの復刻漫画文庫ブームの波に乗り、五〇万部の小ヒットを記録した。


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3 コメント

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Unknown (MT)
2021-05-25 22:01:41
「ア太郎」の原作やアニメが終わったのはこういう理由でしたか。

確かに漫画やアニメを終わらせる理由付けとして、「キャラの限界」があります。有名な例として1966年の「アトム」で、まだまだ人気がありながら、明治製菓の「キャラの限界」を理由に終わらせた事がありました。

アニメもリアルタイムでは毎回見てましたが、ラストは沢田研二司会のクイズ番組「紅白対抗ドレミファ大作戦」(「ドレミファドン」の元祖的番組)を見る様になってしまい、いつの間にか終わる結果になりました。
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Unknown (MT)
2024-05-03 15:23:06
最近「ブランディアオークション」で売りに出されている「サンデー」1970年27号に、「ア太郎」最後のコマが映っています。これは単行本でも台詞を変えてます(「キョーレツ~」が最終話でないため)が、本来はこうでした。

ニャロメ「『もーれつア太郎』は、これでおしまいニャロメ!!」
ケムンパス「来週からは小生たちで、あたらしいまんがをつくるでやんす!!」
べし「たのしみにまつべし!!」

これからして「大団円」な終わり方ではない終わり方、それも一般的なギャグ作品「ギャグ漫画には最終回はない」(それを逆手に取ったのが「バカボン」の「やけくそマンガ」)な終わり方でした。そして最後もニャロメ達3匹が目立つ程度、ア太・デコは元より、ブタ・ココも出てきませんでした。
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Unknown (douteinawa)
2024-06-03 17:29:30
M・Tさん

オバケのQ太郎なども、当時はテレビ漫画でもまだまだ人気だったのに、不二家のオバQ商品の売上が下がったとかで、連載が打ち切りとなり、パーマンにそのバトンが引き継がれましたっけ🤔

今などは、ちびまる子ちゃんだとかクレヨンしんちゃんだとか、超ロングランがありますが、そういうタイアップとは無縁なのか、永遠の生命を持ち得ておりますものね。

オバQやニャロメなんかの時代を思うと、隔世の感は否めなません。

昭和の時代は、現在の十年が一年に相当するという識者がいらっしゃいますが、そのサイクルの速さには正直愕然と致します。
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