金子勝の「天下の逆襲」根拠薄弱、ウソだらけの「財務省陰謀論」
2025/03/18 日刊ゲンダイ 金子勝の「天下の逆襲」
金子勝@masaru_kaneko
日刊ゲンダイの連載で「根拠薄弱、ウソだらけの「財務省陰謀論」」を書いた。財務省陰謀論はフェイクファシズムそのものだ。財務省が狙っているのは増税でなくインフレで、予備費、基金などを悪用して国会討議なしで、赤字国債で軍事費を賄う軍事路線だ。騙されてはいけない。
この国は、アベノミクスが失敗して産業が衰退、円安インフレから抜けられなくなり、ついには人口減少に至る
財務省陰謀論が流布している。トランプ同様の陰謀論だ。財務省は安倍政権にボロボロにされてかつての面影はない。人事権を握られ忖度官僚ばかりになった結果、公文書を改竄もした。財務省陰謀論や財務省解体論は根拠薄弱のウソだらけ。
例えば、彼らは2000兆円の金融資産があるから財政危機などないという。理論的に破綻したアベノミクス残党が「まだ財政赤字はもつ」と言って、人々の正常化バイアスをフル利用しようとしている。
だが、実際は金融資産の大半は課税できないので意味がない議論だ。課税できるとしたら、アベノミクスの2012年以降、大企業の内部留保が約600兆円も積み上がって、かなりの現金預金で保持されている部分だが、彼らはそんな気はない。
つぎに、通貨発行権を持っている国はデフォルトしないと言っているがこれもウソ。日本は貿易赤字が当たり前で、1月の経常収支は2年ぶりの赤字。恒常的に経常赤字が続く時代になれば破綻必至になる。さらに、国民負担が4割を超えて江戸時代の五公五民状態になっているという。「税をとり過ぎている」というのだが違う。この国はアベノミクスで経済成長がなくなったことが大きい。税や保険料の対GDP負担はGDPが伸びなければ上がるのは当然。なのに、彼らはアベノミクスの失敗を認めない。
同時に、では日本の国民負担は先進国の中で高いのか。英国とほぼ同じだが、独仏スウェーデンは日本よりはるかに高い。なのに、なぜ日本はかの国に比べ国民の不満が大きいかといえば、税金を国民のために使っていないからだ。かの国では年金医療にお金を入れ、教育を無償化する。一方、日本は防衛費や国土強靱化という公共事業偏重なのだ。この10年、アベノミクスは失敗して産業が衰退。円安インフレから抜けられなくなり、ついに人口減少に至っている。さらに同じように赤字国債で減税をしたところで、所得も消費も伸びないだろう。
最後に、彼らは財務省が増税を狙って都合のいいデータを流しているという。だが、彼らが狙っているのは増税でなくインフレである。例えば、10%のインフレが起きれば、同時に財政赤字も現状の約1000兆円が900兆円に目減り。これをインフレ課税という。税率を上げなくても消費税も所得税も増収する。そのうえで防衛費倍増を捻出するのだ。
戦前は臨時軍事費特別会計で赤字国債を垂れ流し、軍事費を賄った。いまは後年度負担や予備費や基金という国会のチェックが利かない「裏金」の形を使って赤字国債で防衛費を賄おうとしている。財務省陰謀論は日本の軍事国家化の歯止めを失わせるのだ。