新しい社会経済システムとしての21世紀社会主義 現代資本主義シリーズ;5(1)
長島誠一(東京経済大学名誉教授) 2024年 東京経済大学学術機関リポジトリ より
第2項 日本のコロナパンデミック感染の波
Ⅰ 日本のコロナの波
日本では2020年年3月から4月にかけてコロナの第1波(感染の急激な拡大)が始まり、2023年1月現在は第8波の真っただ中にある。6 月現在第 8 波は収まりそうであるが、コロナ感染症が 2 類から 5類に移ったことにもよって第9波が始まったとの判断が専門家から出ている。以下、簡潔に各波の特徴と対策などを追跡しておこう。
第1波(2020 年 3 月~5 月ごろ) 1 月 16 日に初の感染者を確認、1月後半ごろからマスクが店頭から消え、トイレットペーパーが品薄になる。政府は「対策本部」(1月 30 日)と「アドバイザリーポード」を設置(2月7日)、2月5日大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号で感染が確認され、2月13日に初めての死者がでる。3月24日オリンピックが延期され、3月27日新規陽性者が初めて100人を超え、第 1 波のピークを迎える。政府は特別措置法に基づく緊急事態宣言を出し(4 月 7 日)、人との接触を 7~8 割減らすことを要請、都道府県知事たちが飲食店・スポーツジム・ライブハウスなどに休業を要請し、全国的な大規模イベントの中止・延期を主催者に求める。
第2波(2020年7~8月ごろ) 接触を伴う飲食店などで若い世代から感染がはじまり、中高年層に広がり、感染経路も会食や飲み会が目立った。8 月 7 日新規陽性者が 1,605 人のピークを迎え、累積感染者 4万 4,362人になる。感染が拡大した自治体は酒類を提供する飲食店やカラオケ店に営業短縮を要請、政府の観光事業GoToトラベルがスタート(7月22日)。
第3波(2020年12月1日~2021年2月28日) 9月に入っても新規感染者が500人前後で推移し第2波の流行は「下げ止まり」だったが、11月上旬から再増加し、11月 14日に新規陽性者が 1,736人となるピークを迎え、累積感染者が11万7,385人となる。より広い地域と年代層に広がり、中高年特に重症化リスクの高い高齢者の数と比率が増加する。東京都では家庭内感染の割合が増える。さらに、クリスマス・忘年会・新年会などの年始年末の恒例行事や帰省により新規陽性者が一気に増え、政府は第 2回目の緊急事態を宣言し(1月7日)、飲食店に午後8時までの短縮営業を求める。東京都で1月7日に、全国で 1 月 8 日にピークになる(全国の累積感染者 26 万 7154 人)。第 3 波での入院患者数 22 万 477人、重症患者数 8,980 人、累積死亡者 1,051 人。新型コロナウィルス(イギリス型)の国内感染者が発生した。
第4波(2021年3月~6月ごろ) 3月下旬から大阪府や兵庫県で感染者が急増した。大阪府の感染者は東京都を上回り、変異ウィルスのアルファ株が猛威をふるい、4月28日と5月1日に新規感染者は1,260人と過去最多を更新した。政府は大阪・兵庫・宮城に予防的・集中的な対策を狙い「蔓延防止等重点措置」を適用し、4 月 25 日に東京・大阪・兵庫・京都に 3 回目の緊急事態を宣言した。ゴールデンウィークを見据えて飲食店には午後8時までの営業短縮を求め、酒類やカラオケを提供する飲食店には休業を要請し、大型商業施設にも休業を要請し、大型イベントは原則無観客を求めた。
第5波(2021年7月1日~9月30日) 東京都は新規陽性者500人前後の「高止まり」だったが、7月に増加し再び1,000人に近ずき、7月28日に新規陽性者が初の3,000人台になり、8月13日には5,908人と過去最多となる。全国でも8月13に初めて20,000人を超え(感染者107万人)、8月20には過去最多の2万5,995人になる(累積感染者123万1,941人)。政府は東京都に3回目の緊急事態を宣言、大規模イベントは上限5,000人・収容率50%以下での開催要請が維持された。しかし、東京オリンピックは緊急事態宣言の下で「異常開催」された。デルタ株が猛威をふるい、急激に感染者が拡大した。65 歳以上の高齢者はワクチン接種のおかげで新規陽性者に占める比率は減少したが、若年層の感染が拡大した。東京都のモニタリング会議は「都市部の医療が危機的状況に陥り、緊急医療や予定手術等の通常医療を含めて医療提供体制は深刻な機能不全に陥っている」、と警告した。
第 6波(2022年 1月 1日~3月 31日) 1月からオミクロン株(BA.1&BA.2)により新規感染者が拡大しはじめ、1月18日には初の3万人を超え(累積感染者190万6242人)、2月3日に初めて10万人を突破し累積感染者は 292 万 680 人になる。厚生労働省の専門家組織「コロナ対策アドバイザーボード」は3月2日に、「デルタ株に比べて世代時間が2日短縮、倍加時間と潜伏期間も短縮」しており「再感染リスクや二次感染リスクが高く、感染拡大の速度も非常に速いことが確認されている」、と説明した。政府は1月21日から「蔓延防止等重点措置」対策を東京や愛知など13都県にも追加し、1月27日から大阪・北海道・福岡などの8道府県に追加し、2月12には計36都道府県までに拡大した。この措置は徐々に解除され、3月21日にはすべて解除された。
第7波(2022年 7月1日~9月30日)オミクロン株はBA.5が主流となり、新規の死亡者が増え776人以上となり、その8割近くが70歳以上の高齢者で、累積死亡者が8月31日に3万9604人となった。厚生労働省は、「入院治療が必要な患者への対応の強化や、療養中に病状が悪化した際に医療機関の紹介などを迅速に行えるよう健康フォローアップセンターの拡充や情報提供を進める」という方針をだした。
第 1 波から第 7 波にかけての感染者と重症患者の傾向として、① 夏季と冬季に感染が拡大し、②波の規模は拡大傾向にあり、③ 第7波では感染が拡大しているが、重症患者は第6波より少ない傾向にある。
入院患者の傾向は、① 第 5 波以降は同規模であるが、第 6 波以降 60 歳以上の占める割合が増加、② 第7波では特に80代以上の割合が約半数を占め、10歳未も微増している。
死亡者の傾向は、① 第 7 波でも新規感染者が以前の波より増加し死亡者も増加したが、死亡率は低い傾向にある、②第7波では10代以下で10名が死亡し、過去最多となった。
Ⅱ 第8波の現状
8波の現状 2022 年11月から新規感染者が増えはじめ、12月末に最初のピークを迎えた。東京都では 2022年12月 27日にピークとなり感染者が 1万 7,000人強となり、正月明け後の 3連休後に再び増加し、2023年1月17日に1万5,500人程度まで増えたが、その後は減少の傾向にある。その原因として、厚生労働省の専門家会議は報告されていない感染者(「隠れ感染者」)の存在を示唆し、テレビ朝日 NEWS は実際の感染者は 1.5~2 倍と予測した。しかし第 8波の特徴として死亡者が増加し、2022 年のピーク 3 万6,000人を越えインフルエンザの死亡者の 12.5倍となり、感染者の半数以上が 1年後も後遺症が残っていた。そしてコロナ死亡者のうちで60歳以上が97%を占め(先月から1月10日まで)、施設の職員の感染が原因でクラスターが増加し、第7波のピーク数に近づいた。その後の死亡者は「高止まり」状態で推移している。WHO はオミクロン株「XBB」の感染力は強いが、重症化の度合いは変化していないとしている。
第8波の特徴と原因 死亡者が過去最多となり、28 日には月間1万人を超えた。死亡者が増加した原因は、① 全数把握をしなくなったせいで「隠れ感染者」がいる、② 12 月中旬から死亡率の高い高齢者の感染が増加したことなどである。ピーク・アウトしそうだが、緊急医療の逼迫は続くだろう。
想定した以上に拡大した原因は、① 冬季の流行傾向、② 年始・年末による接触機会の増大と行動制限が全くなかった、③ オミクロン対応のワクチン接種が低い(1月初旬で国民全体の36%の接種と高齢者約 6 割の接種)、となる。神奈川県では 5 歳以下の基礎疾患がない未就学の女子が死亡したり、高齢者施設のクラスターは減少傾向だが依然として高い。都内の大学病院のコロナ病棟ではスタッフが感染し欠勤が相次いで看護師が不足し、確保されている病床は 7 割りほどである。「重症用ベッドはほぼ満床」だと報じられた。
今後の予想 流行を長期化させている新たなリスク要因として、① 中国での爆発的増加(北京大学調査では1月初旬までに9億人が感染)、② 1月中旬までにアメリカで感染者の約4割に検出されたウィルスXBB.1.5はヒトの免疫を逃避し、かつ人の受容体に結合しゃすく、感染力が高い、③ インフルエンザの流行によって発熱外来などが逼迫する(ただしウィルス同士が干渉して一方の感染を抑えるという説もある)、が指摘されている。
春から段階的に「コロナ感染症を 2 類から 5 類に移行」することが政府や専門家会議で決められ、患者濃厚接触者の外出制限が見直され、医療提供体制や公費支援が見直され、マスク着用などの感染症対策も見直され、ワクチン接種は進めることがはじまることになった。専門家会議の中には慎重な意見も存在するようではある。注視して監視していく必要がある。
その後、第9波(2023年夏)・第10波(2023年冬)・第11波(2024年夏)になっている。