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ロシアの選挙介入から日本は民主主義を守れるか? ついに「日本語の壁」が突破され、参院選でその脅威があらわに! 

2025年08月11日 09時57分33秒 | 社会

ロシアの選挙介入から日本は民主主義を守れるか? ついに「日本語の壁」が突破され、参院選でその脅威があらわに! 

Yahoo news  2025/8/11(月)  週プレNEWS 取材・文/木村正人 写真/時事通信社

 

KGB(現FSB)将校として、東ドイツでベルリンの壁の崩壊を目の当たりにした経験を持つプーチンは「西側の価値観」に対する警戒心が極めて強い

 

先の参院選期間中、数千~数十万のフォロワーを抱える「親露」の政治系インフルエンサーや、主に参政党を支持する発信を拡散していたボット系のXアカウントが相次いで凍結された。また、東京選挙区で当選した候補者が、ロシアの政府系メディア「スプートニク」に出演していたことも話題となった。

外国勢力の介入がどんな規模で行なわれたのか、日本側の特定の候補者や政党にはなんらかの意図があったのか/なかったのか、そのことが結果にどう影響したか。それらを検証することは簡単ではない。

しかし、欧米ではすでに日常化しているロシアや中国の情報工作が、ついに「日本語の壁」を本格的に越えつつあるのだとすれば、日本は対策を急ぐ必要がある

以前からロシアの工作の脅威に直面しているイギリスを拠点に活動するジャーナリストの木村正人氏が、欧米の現状をリポートする。

* * *

■プーチンの〝宣戦布告〟

東西冷戦下の1982年、ソ連国家保安委員会(KGB)少佐スタニスラフ・レフチェンコが日本国内での特務を暴露した「レフチェンコ事件」を見ればわかるように、西側に対する情報工作は旧ソ連・ロシアの常套手段である。

第2次世界大戦前夜のスパイ活動では、ロシア生まれのドイツ人リヒアルト・ゾルゲと朝日新聞記者・尾崎秀実が暗躍した「ゾルゲ事件」が有名だ。

80年代末のソ連崩壊から2000年代初頭にかけて、「ロシアは同盟国とはいかないまでも、少なくとも友好国にはなる」と西側は高をくくっていた。まさに〝平和ボケ〟の時代だった。

羊の皮をかぶったロシア大統領ウラジーミル・プーチンが最初に牙を見せたのは、06年に英ロンドンで起きたロシア連邦保安局(FSB)元幹部アレクサンドル・リトビネンコ氏の暗殺事件だ。致死性の放射性物質ポロニウム210が民間航空機でロシアから持ち込まれ、市中のホテルで使われた。

翌07年のミュンヘン安全保障会議で、プーチンは「米国はあらゆる面で国境を踏み越えている。北大西洋条約機構(NATO)の拡大は、相互信頼のレベルを低下させる深刻な挑発行為だ」と怒りをあらわにした。今にして思えば、ロシアの庭先に土足で入り込んだ西側に対するプーチンの〝宣戦布告〟だった。

そして08年、ジョージア(旧グルジア)紛争が勃発。親欧米政権に対するプーチンの露骨な介入、実力行使だった。

ロシアは外交をゼロサムゲームととらえている。西側に損害を与え、西側の価値観を貶めることはすべてロシアの利益になると考えている。

ネット空間では、自由と民主主義をバックボーンとする西側に対し、ロシアの情報機関や国家メディア、トロール(組織的な偽情報拡散)部隊が激しい「価値の戦争」を仕掛けている。

プーチンにとって何より恐ろしいのは、自由や民主主義といった西側の価値観がロシア社会に浸透し、ベルリンの壁が崩壊したように自分の権力基盤が一夜にして壊れてしまうことだ。

■影響力工作と偽情報の拡散

他国の選挙への干渉が活発になったのは、14年にウクライナのクリミアを強制的に併合して以降である。英下院情報・安全保障委員会は、20年にまとめた報告書でこう指摘している。

「14年以降、ロシアは他国の民主的な選挙に影響を与えようとする試みを含め、さまざまな分野で自国の利益をゴリ押しするために悪意のあるサイバー活動を行なってきた」

報告書の分析を見ると、ロシアによる「偽情報の拡散」と「影響力工作」は別々に行なわれるが、互いに密接に絡み合ってもいる。

選挙における影響力工作偽情報の拡散を伴っていたり、違法な資金提供、選挙制度の妨害、敵性国家に対するハック・アンド・リーク(ハッキングと情報漏洩)を含んでいたりする。

偽情報の拡散は特定の結果を狙うだけではなく、「不信感の醸成」や「社会の分断」という漠然とした目的のためにも行なわれている。

こうした工作には国家メディアの「RT」(旧ロシア・トゥデイ)や「スプートニク」が使われる。極端な歪曲報道、SNSボットやトロール部隊を動員した自動投稿や扇動コメントの書き込みが多数確認されている。

スコットランド独立を問う14年の住民投票でRTを通じて行なわれた影響力工作が、ソ連崩壊後、ロシアが西側の民主化プロセスに介入した最初の例とされる。

独立を唱えたスコットランド民族党(SNP)のアレックス・サモンド元党首はその後、RTで政治トークショー番組の司会を務めたロシアに英国を分裂させる意図があったことは容易に想像できる。

■英国のEU離脱と米トランプ政権誕生

欧州連合(EU)残留か離脱かを問うた16年の英国の国民投票でも、RTやスプートニクはEU離脱派や反EU、欧州懐疑主義の記事を多数掲載した。投票結果は「EU離脱」だった。

上述の20年の英下院委員会報告書は「ロシアは英国の民主主義を弱体化させ、政治を腐敗させるため長期にわたる巧妙な活動を展開してきたが、歴代政府は見て見ぬふりをしてきた」と、政府の不作為を厳しく批判した。

16年当時、ロシアの干渉は民主主義への脅威とはまだ認識されておらず、英国政治は石油・天然ガスの巨大利権を握るプーチンとオリガルヒ(新興財閥)、国際金融都市ロンドンの腐敗にどっぷりと漬かっていた。

モンテネグロで起きた16年のクーデター未遂事件には、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)が関与していたと報じられた。NATO加盟を数ヵ月後に控えた国への大胆すぎる介入だった。

同じ16年、ドナルド・トランプ米大統領が初当選した米大統領選では、ロシアのハック・アンド・リーク工作があったことを米情報機関が公式に認定した。西側の危機意識は一気に高まった。

翌17年のフランス大統領選直前には、エマニュエル・マクロン陣営関係者のアカウントを標的にしたハック・アンド・リーク工作をロシアが行なった疑惑も報道された。

ロシア政府につながる団体がフランスの極右政党「国民戦線」(現・国民連合)に対し、クリミア併合を支持した見返りに条件のいいローンを提供した疑いも浮上した。

■あからさまな嘘でも繰り返せばいい

ロシアとEUの間にあるバルカン半島は〝草刈り場〟と化している。

23年のセルビア議会選では、大勝したアレクサンダル・ブチッチ大統領率いる与党セルビア進歩党に対し、野党勢力が選挙不正の疑いがあるとして抗議活動を展開した。

しかしロシアは、抗議活動は国の憲法秩序を覆そうとする試みだと非難するセルビア政府の立場を声高に支持し、「野党勢力が西側と共謀してセルビア進歩党の勝利を妨害している」と主張。セルビア政府は警告を発したロシア情報機関に感謝の意を表した。

旧東欧圏のハンガリーやスロバキアでも、プーチンは巧みに影響力を広げている。

ロシアが偽情報を拡散させたり、選挙などの政治的イベントに干渉しようとしたりする動機はさまざまだが、すべては外交上の目標に収斂する。特定の選挙や政治的事案において、ロシアが望む結果に誘導する。あるいは、クリミア併合など特定の出来事において、ロシア支持の言説を流布する

あからさまな嘘であっても繰り返せば、少なくとも「本当のことは誰にもわからない」という不信感や懐疑主義を植えつけられる西側の政治的主張を貶めて信頼を失わせ、社会の分断や過激化を助長するのが狙いである

■ハイブリッド戦争の脅威への対抗措置

英下院委員会報告書は、英情報局保安部(MI5)が、ロシアのような敵対的な外国勢力のエージェントから英国を守るために使える法律を整備するよう勧告した。21年の統合レビュー(国家戦略)では、「外国の脅威は増大・多様化し、自らの目的を推し進める上でますます積極的になっている」と指摘された。

本物の戦争には至らない「ハイブリッド戦争」も安全保障・経済・民主主義・社会の結束を脅かす恐れがあるとして、政治介入、選挙干渉、偽情報、プロパガンダ、破壊工作、暗殺・毒殺、サイバー攻撃、知的財産の窃取を脅威と位置づけた。

23年には、外国からの敵対的な活動の脅威に対処し、国家の安全と利益を保護するため、スパイ活動を犯罪類型化する国家安全保障法が制定された。

破壊活動、禁止区域への立ち入り、外国による干渉、国家の脅威活動に関連する準備行為が罪に問われるようになり、令状なしで逮捕・拘留する権限、国家による脅迫行為を量刑の加重要素として考慮する権限も付与された。

外国政府のために働く者に対しては、政治ロビー活動の申告を義務づける2層構造の外国影響力登録制度を創設。申告を怠れば刑事犯罪になる。指定が必要ではない「政治的影響ティア」は最大2年の禁錮、ロシアやイランなど指定された「強化ティア」は最大5年の禁錮刑。中国も指定するかどうかについては議論が分かれている。

■国政調査権を持つ国会で調査を

22年、ロシアによるウクライナ全面侵攻を受け、英メディア規制当局のオフコムは英国におけるRTの放送免許を取り消した。偽情報を拡散するロシアの国家メディア、SNSプラットフォーム、プロパガンダ担当者、ニュースキャスター、政権報道官にも制裁措置が講じられた。

23年には、違法なコンテンツや活動からユーザーを保護することを目的にオンライン安全法が制定され、外国による干渉が禁止された。SNSのプラットフォームや検索エンジンは、国家が支援または連携した英国への干渉を目的とする偽情報を特定し、最小限に抑えるなど、積極的な予防措置を講じなければならなくなった。

しかし、情報工作の脅威はロシアだけではない。

英米両政府は昨年3月、中国が政治家、ジャーナリスト、学者、何百万人もの有権者の個人情報を標的に大規模な世界的サイバー攻撃を仕掛けているとして制裁を発動した。

英国選挙管理委員会のシステムが中国国家関連組織に攻撃され、高度標的型脅威グループ31(APT31)が英国議員に対し偵察活動を行なっていたとして、APT31のフロント企業と個人2人が制裁リストに加えられた。

米司法省も中国に対する批判者、米国企業・政治家を標的にしたコンピューター侵入罪で中国在住の国家関連ハッカー7人を起訴した。7人はAPT31の一員として、中国国家安全部のために活動していた

北方領土問題を抱え、ロシア産天然ガスに依存する日本はロシアとの対話を重視してきた。そのため敵対路線に転換した欧米に比べ、対応が遅れた面は否めない。また、トランプ政権が中露分断のため対ロシア融和にかじを切る気配を漂わせる中では、日本には慎重な対応が求められる。

ただ、いずれにせよ、まずは国政調査権を持つ国会で外国勢力による偽情報工作を真剣に調査しなければならないことは言うまでもない。

 

木村正人(きむら・まさと) 在ロンドン国際ジャーナリスト、元産経新聞ロンドン支局長。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(共に新潮新書)など。


トランプ政権を裏から操る”危険な新右翼たち”とは? 日本人が知らないアメリカの思想潮流に迫る

2025年08月08日 15時01分50秒 | 社会

トランプ政権を裏から操る”危険な新右翼たち”とは? 日本人が知らないアメリカの思想潮流に迫る

2025年06月27日 デイリー新潮

トランプ大統領

 トランプ大統領は、いったいどこへ向かおうとしているのか。矛盾した方針を掲げ、朝令暮改を繰り返す姿からは、その方向性がまったく見えてこない。

写真(左)イーロン・マスク NORAD and USNORTHCOM Public Affairs/Wikimedia Commons、(中央)ドナルドトランプ Gage Skidmore/Wikimedia Commons、(右)ピーター・ティール Dan Taylor/Wikimedia Commons

 しかしトランプ政権を裏から支えているブレーンたちに注目すると、にわかにその内実が浮かび上がってくる。政権には「第三のニューライト」と呼ばれる右派の思想家たちが多く参画し、彼らのあいだで激しい綱引きが行われている結果、政権の方針も激しく揺れ動いているのだ。

 では、「第三のニューライト」とは、どのような人びとなのか。アメリカ思想の研究者で、神戸大学教授の井上弘貴さんの新刊『アメリカの新右翼 トランプを生み出した思想家たち』(新潮選書)から、一部を再編集して紹介しよう。

 【アメリカを乗っ取った「危険な思想」の正体を明かす!】トランプ政権による国家改造の成否に関わらず、リベラル・デモクラシーへの不信感は決定的なものとなっている。左右両極の間で起きた思想戦争の内幕を追いながら、テック右派から宗教保守、ネオナチなどの思想家たちが、なぜリベラルな価値観を批判し、社会をどのように作り変えようとしているのか、冷静な筆致で読み解く

 

戦後の「ニューライト(新右翼)」の台頭

 戦後のアメリカでは、前世代を乗り越える新しい右派「ニューライト」の台頭する時期が2回あった。

 最初は戦後の時期である。1955年に『ナショナル・レヴュー』誌を創刊したウィリアム・F・バックリー・ジュニアやフランク・S・マイヤーらは、その他の保守の潮流との競合に打ち勝ち、主流の座を獲得していった。

  かれらはニューライトと呼ばれ、ニューディールを同時代的に批判したオールドライトたちを継承して、個人の自由と権利をなによりも擁護するリバタリアニズムの立場を採るとともに、カトリック信徒だったバックリー・ジュニアが典型であるように、個人を超えた道徳秩序の存在を信じた。またかれらは強固な反共主義者でもあり、孤立主義の傾向が強かったオールドライトとは一線を画して、東側の共産主義陣営との妥協なき対決を求めた。

 要するに、リバタリアニズムと伝統主義とも呼ばれる道徳主義を反共主義によって結びつけた融合主義(フュージョニズム)という思想が、戦後「第一のニューライト」が掲げた立場だった。

レーガン政権の誕生を後押しした「第二のニューライト」

保守派から見るリベラリズム「革命」3つの波 VS 「反革命」の構図

 「第二のニューライト」は1964年のバリー・ゴールドウォーターを共和党の大統領候補とした選挙戦を画期として登場し、1970年代にかけて隆盛を極めた。ポスト公民権の時期、アメリカ社会の既存の価値観の見直しや懐疑が進んだ反動として、キリスト教に根差した伝統的価値観の復権を掲げる社会保守が台頭した。

「第一のニューライト」のなかの道徳主義をより強めた潮流が、「第二のニューライト」だった。かれらは、「第一のニューライト」の論者たちや、そこに合流していったネオコンが帯びていたエリート主義の傾向に批判的であったものの、戦後保守の正統な座を奪おうとすることはなかった。「第一のニューライト」たちは変わらず健在であり、それは1980年代のレーガン政権のもとで最盛期を迎えた。ネオコンと対立したペイリオコンの人びとや、あるいは極右の諸集団や陰謀論的な人びとのように、主流とは相容れない傍流は引き続き脇へと追いやられていた。

トランプ政権の誕生と「第三のニューライト」

 しかし今日、状況は大きく変化しつつある。主流と傍流の区分を壊す尖兵として、白人ナショナリズムの潮流から生まれたオルトライトが、トランプの登場にあわせて表舞台に躍り出たが、その後を継ぐかたちで、国外の動きとも連動した「第三のニューライト」が台頭している。この「第三のニューライト」をめぐっては、現在は複数の潮流が競合する状況にあり、最終的にそれがどのような形態をとるか、予測不能の部分が多い。

 「第三のニューライト」を形成している潮流のひとつは、ナショナル・コンサーヴァティズム(国民保守主義)、略してナトコンと呼ばれる論者たちである。ナトコンの代表的人物として知られているのが、アメリカで教育を受けたイスラエルのシオニスト、ヨラム・ハゾニー(1964?)である。ハゾニーは仲間たちとナトコンの普及をはかるための団体「エドマンド・バーク財団(The Edmund Burke Foundation)」を2019年に設立し、アメリカ国内とヨーロッパで国際会議を継続的に開催してきた。

アメリカ保守の歴史(オールドライトからニューライトまで)

 国民国家からなる世界こそが最良であると考えるハゾニーは、リベラリズムに依らずに、聖書の宗教、つまりユダヤ教とキリスト教の伝統と価値に立脚した「保守民主主義」の確立を掲げている。ハゾニーの力点は主にナショナリズムに置かれてはいる。だが、国民国家を支える政治的原理を構想する際にリベラリズムに頼る必要はないと主張する点で、ポストリベラル右派と共同歩調をとっている。

 そのハゾニーは、2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃後、イスラエルによるガザ侵攻が続くなか、イスラエル擁護の論陣を張ってきた。2024年2月、ハゾニーは渡米し、ノートルダム大学で講演をおこなっている。講演の主題は大学キャンパスでの言論の自由だった。ハーバード大学をはじめとしてアメリカの各地の大学でイスラエルにたいする学生の抗議活動が続いているが、言論の自由を隠れ蓑として反ユダヤ主義がアメリカに蔓延している。口調こそ淡々と穏やかだったものの、このようにハゾニーは非難した。

 ハゾニーに言わせれば、言論の自由が、言論の自由を破壊するために、あるいは「名誉と相互尊重の交換の可能性」を排除するために利用されている場合には、それは何らの役割も果たさない。現在のアメリカ各地の大学キャンパスで起きていることは、ネオマルクス主義の左翼による扇動にすぎないとハゾニーは断じた。イスラエルによるガザ攻撃の仕方に疑問が呈されるなか、ハゾニーは強硬な態度を崩していない。

「ポストリベラル右派」とは何か

 ピーター・ティールや、イーロン・マスクのようなテックビジネスを牽引する人びとが紡ぎ出している思想も、今後「第三のニューライト」の形成に影響をおよぼすことが予想される。そしてオルトライトの置き土産である極右思想も、これまでよりも表舞台に姿をあらわしている。ナトコン、トランプに傾倒するシリコンバレーの有力者たち、極右主義、これらに加わるのがポストリベラル右派である。

 ポストリベラル右派の代表的な論者として、ノートルダム大学のパトリック・J・デニーン、ハーバード・ロースクールのエイドリアン・ヴァーミュール(1968?)、在野のロッド・ドレアやソーラブ・アーマリらの名前を挙げることができる。かれらは過去のニューライトと同様に、キリスト教保守が中心を占めており、とりわけカトリックが多い(上記のなかではドレアのみ、現在は東方正教会である)。

 ポストリベラル右派たちは、ふたつの点で従来のニューライトと隔絶している。まず、過去のニューライトとは異なり、アメリカの体制それ自体にたいする批判を強めている。今日の急進的なリベラルや左派と全面的に対峙するためには、保守は古典的自由主義を含めたリベラリズム全般と手を切るべきであるというのがポストリベラル右派の主張である。アメリカの建国の礎とも言えるジョン・ロック以来の古典的自由主義からの離脱を求めるところに、旧来の保守と一線を画すかれらの特徴がある。

 つぎに、かれらポストリベラル右派は、市場や企業に明確な敵意を抱いている。以前のニューライトとは異なり、かれらにとって道徳と市場との調和は自明ではない。社会的正義の推進とマーケティング戦略を結びつけたグローバル企業は、自分たちの敵であるリベラルの味方である。そうであれば、従来のニューライトとは異なり、今や企業さえ味方につけた左派との文化戦争に立ち向かうため、自分たちは国家権力にもっと全面的に依拠すべきである。かれらはそう考えている。

「オルバン首相率いるハンガリー」に心酔する右派たち

 そのようなポストリベラル右派にとって、理想の国家はいまやアメリカではなく、キリスト教の価値観を擁護した政策を推進する東欧の国ハンガリーである。 ポストリベラル右派は、ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相に共感をもって言及するだけでなく、実際にオルバン自身と関係を構築している。

  たとえば、デニーンは過去にハンガリーを訪れ、オルバンと個人的に会談している。ハンガリー政府のサイトの発表によれば、デニーンはオルバンとの会談の際、ハンガリーでの家族をめぐる政策を賞賛し、家族の価値を前提としたローカルな共同体の重要性を述べた。そのような共同体を強化するのが国家の責任だという点についても、両者は合意したという。

 ドレアもまた2021年から、ハンガリーのブダペストに設立された、フィデス(オルバンが党首を務める与党・青年民主連盟の略称)が資金を出している保守系シンクタンクのドナウ研究所の客員フェローとして滞在し、ハンガリーとオルバンを肯定的に論じる多くの論考を発信した。

 ドレアは現在もブダペストに定住しており、『ジ・アメリカン・コンサーヴァティヴ』誌を離れ、オンラインの『ザ・ヨーロピアン・コンサーヴァティヴ』誌への寄稿を始めている。従来とは異なる新しい右派の台頭と、新しい右派同士が互いに連携する動きが、大西洋を横断するかたちで水面下で起きている。

※本記事は、井上弘貴『アメリカの新右翼 トランプを生み出した思想家たち』(新潮選書)の一部を再編集したものです。


アップルを成長させた40兆円超の対中投資は「重大なリスク」になっている

2025年08月08日 14時05分32秒 | 社会

アップルを成長させた40兆円超の対中投資は「重大なリスク」になっている

Yahoo news  2025/8/4(月)  Forbes JAPAN  Steve Banker

 

アップルは年間2億2000万台以上のiPhoneを販売している。その約9割が中国で製造されていると推計されており、アップル製品に使われる多くの部品も中国で製造・調達・組み立てられている。同社は4〜6月期に堅調な業績を報告したが、先行きは不透明だ。アップルの中国依存と米中間の緊張が高まっているためであり、関税はこうした地政学的な対立の一端を示している。

最高経営責任者のティム・クックはアナリスト向け業績報告会で、前四半期に関税が8億ドル(約1179億円)の追加コストを生み、次四半期にはさらに11億ドル(約1621億円)押し上げる可能性があると述べた。

しかし、関税によるコスト増だけが問題ではない。アップルが育成してきた中国企業は、いまや同社と競合し得る製品を生み出しているパトリック・マギー著『Apple in China』によれば、アップルは2016年に「今後5年間で2750億ドル(約40兆5200億円)超を中国に投資する」と約束し、その額を実際に上回った。

アップルが中国で構築した高度なサプライチェーンは、ファーウェイをはじめとする中国企業に活用されているファーウェイのMate XTはiPhoneより高価ながら魅力的な機能を備える端末だ。アップルがこれらの機能に追いつくのは2027年まで難しいと見込まれている。かつてデザインで市場をリードし、高い利益率を享受していたアップルは、深刻な競争に直面している

アップルはなぜここまで大きな賭けをしたのだろうか。リスク管理の基本は「卵を1つのかごに盛るな」である。著者であるマギーは、200人を超える主にアップル社員への取材を通じ、この「秘密主義で有名な企業」がたどった経緯を明らかにしている。

■アップルのサプライチェーンの歴史

歴史的にアップルは、自社工場を複数地域に分散させていた。1983年にはカリフォルニア州フリーモントに高度自動化工場を開設し、初代Macintoshを生産。1980年にはアイルランドのコークにも工場を構え、後に欧州市場向けにカスタマイズされたMacintoshを製造した。これは投資を分散してリスクを抑える典型的な手法であり、当時のアップルはその原則を理解していた。

だがやがて、自社工場を持たず外部に製造を委託する契約製造モデルが台頭すると、アップルもこれを試行し、成功を収めた。企業はコア・コンピタンスに集中すべきだという理論のもと、アップルはデザインに注力。当初は米国企業と協力し、米国内の工場を用いていたが、台湾企業のFoxconn(フォックスコン)が米国勢を上回る能力を示し、最終組立のシェアを拡大した。

それでも、世界の異なる地域に工場を持つ契約製造業者を使用して、効果的なリスク管理を実践することは可能だ。フォックスコンはアップルの要請で、中国に加えて世界の他の地域での製造を実験した

アップルはサプライヤーをわずかな報酬で働かせることができた

しかし、労働に対して非常に厳しい監督者であるフォックスコンは、中国本土の施設以外では、同レベルの品質、コスト、そして拡張性を達成するのに苦労した。その結果、フォックスコンは中国を拠点とする生産に依存することを決定した。フォックスコンが競合他社よりも優れた結果を出すにつれて、同社はアップルのビジネスにおけるシェアをますます拡大していった。

■調達におけるアップルの戦略

アップルはWin-Winの調達や両者が互いの成功にコミットする関係性を重視するアウトソーシングを信じていない。著者は、iPhoneが世界で販売されるスマートフォンの20%未満しか占めていないにもかかわらず、業界利益の80%以上を獲得していると指摘する。「他のどの市場にも、これほどの支配力を持つマイノリティプレーヤーは存在しない」

「この数字が議論される際には、それはアップルのブランドアピールのおかげだと考えられてきた」。しかし、これは完全には正しくないと著者のマギーはいう。アップルはサプライヤーをわずかな報酬で働かせることができたのである。デザインにおけるリーダーであるアップルの最先端機能は、他の電子機器OEM(相手先ブランドによる生産)が模倣するとサプライヤーは考えるようになった。そして、彼らはアップルの競合他社との契約を獲得する有力候補となり、それらの契約ははるかに高い利益率をもたらすと考えたのだ。

台湾の委託製造業者であるフォックスコンが、最初にこの結論に達した。彼らはこのモデルに大きく賭けた。そしてこの賭けの結果、世界最大の委託製造業者へと成長した。

■契約製造への異なるアプローチ

企業は価格、幅広い製品ラインナップ、サービス、あるいは市場をリードする機能など、さまざまな方法で製品を差別化できるアップルは常にデザインの最先端に立つことで差別化してきた。これが、アップルにとって根本的に異なるサプライチェーンを生み出すことになった。

アップル製デバイスの競合他社は、年間に数十種類ものモデルを少量ずつ販売している。これらの企業が採用する追随型の戦略は、許容範囲の広い標準化された部品を使うことに基づいている。

「しかしアップルは異なっていた」とマギーは述べている。「アップルの製品ポートフォリオは徹底して簡素化されてた。2015年でもアップルは1年に2種類の新しいiPhoneしか発売しておらず、アップルは高級モデルを手づくりのように仕上げながら大量生産していたサプライヤーを選ぶ際、アップルは価格ではなく品質を重視した。その品質を実現するために、アップルはデバイスを作るための新しい製造プロセスを考案する必要があった。しかしアップルが新しいデザインを選択するまでは、こうしたプロセスは存在していない。それ故にアップルは、サプライヤーとより密接に協力しなければならなかった

「今後5年間でアップルが中国依存を有意に低減する方法はない。それは不可能だ」

このサプライヤー密着モデルには、サプライヤーが使用する設備の設計や購入も含まれていた。これは、契約製造業者が顧客企業より優れた製造能力を持つと主張し、発注元が生産管理から手を引く標準的な契約製造とは大きく異なる。

アップルは適正な価格を確保するために、サプライヤーに対して異例の統制を行った」とマギーは説明する。「アップルは作業員の賃金や寮の費用から、材料表や機械の費用に至るまで、サプライヤーの運営コストのあらゆる詳細にアクセスすることを求めた」。アップルはサプライヤーに代わって部品を調達することもあった。「実際には、アップルのほうがサプライヤー自身よりもその運営コストを詳しく把握していることが多かったのだ」

フォックスコンが中国での生産に集中すると、その周辺にサプライヤーの産業クラスターが形成されたアップルの技術者は、こうしたサプライヤー──さまざまな部品で競合するサプライヤーも含む──に対して、大規模で品質の高い生産を行う方法を教えた。

■中国政府による国内製造の支援

フォックスコンが中国での製造に集中した理由は、中国の労働者の賃金が低いからだけではない。中国政府が輸出主導の生産を多方面で補助し、促進したことも大きな要因だ。

米国や欧州で新工場を建設しようとすると必要な建築許可の取得やその他の規制への対応に何年もかかることがある。しかし中国では、当局が数カ月でこれを実現させた中国はフォックスコンや一部のサプライヤーに工場用地を無償で提供し、道路などのインフラを彼らの負担なしで整備した。初期には、フォックスコンのような企業のために新しい工作機械を政府が購入したことさえあった。

各地には必要な労働者が不足していたが、中国は国内の貧しい地域から労働者を動員することを支援した。労働時間や残業、環境規制に関するルールは存在するものの、中国はこうした厄介な規制を厳格に適用するよりも、高度な製造基盤の構築を優先した。

■アップルは中国に取り込まれた

マギーは、アップルが中国での生産から脱却するのは極めて難しいと結論づける。必要な技術を持つサプライヤーは他地域には存在せず、中国政府が自国のサプライヤーに国外で生産することを許可する保証もない。

中国政府は多様化の試みを痛みをともなうものにすることもできる。北京はこの点を示すために他企業に対してさまざまな戦術を用いてきた。電力供給が突然1日数時間に制限されることがある。原材料が工場に届く前に停止されることもある。

マギーは「今後5年間でアップルが中国依存を有意に低減する方法はない。それは不可能だ」と断じている。


真壁昭夫 ギリシャの二の舞か…「現金給付」「消費減税」バラマキ政策が招く“悲惨すぎる末路”とは?

2025年08月08日 12時34分53秒 | 社会

真壁昭夫 ギリシャの二の舞か…「現金給付」「消費減税」バラマキ政策が招く“悲惨すぎる末路”とは?

Yahoo news  2025/8/6(水) ダイヤモンド・オンライン

 

 「現金給付」や「消費税の減税」で私たちの生活は本当に良くなるのだろうか?財源確保には国債を発行せざるを得ないが、国債増発は金利上昇を招き、住宅ローンの金利上昇を招くだろう。中小企業の経営悪化、倒産の増加も心配だ。何より最大の影響を受けるのは、政府の利払い負担だ。利回りがその国の成長率を上回り始めると、雪だるま式に利払い費用が増えて財政赤字が急拡大することを絶対に忘れてはいけない。今の日本に本当に必要な政策とは、いったい何か。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫

 

 バラマキ政策へ突き進むのか わが国の将来を憂う

 7月20日の参議院選挙で、自民・公明両党は過半数(125)の議席を維持できなかった。これにより、自公連立政権は衆議院に続き、参議院でも少数与党になった。

 参院選の主な争点は、「物価高への対応策」だった。自民党は2万円の現金給付を主張し、野党は主に消費税率の引き下げ(減税)を主張した。与野党ともに家計に対する支援が主体で、言ってみれば、経済のパイを増やすことではなくパイの分配に力点を置く政策が目立った。

 これから連立政権がどのような形になるかは見通しづらいが、自公がどの政党と連立を組むにしろ、恐らく、消費税率の引き下げが実施される可能性は高いだろう。問題は、消費税率を引き下げて、本当に日本経済は改善に向かうか否かだ。

 消費税率を引き下げると、一時的に国内の個人消費は盛り上がるかもしれない。しかし、その効果は一時的なものにとどまる可能性が高い。消費税の減税もある意味で“バラマキ”政策であり、わが国の財政状況が一段と悪化することは間違いない。

 財源の当てなく減税を実行すると、国債に頼らざるを得ない。長期的に見ると、わが国の財政破綻の懸念は一段と高まる。そうなると、長期金利はさらに上昇し、国の利払い負担は増える。国債の格下げのリスクも上昇するはずだ。

 かつてギリシャが陥ったように、わが国の財政破綻が現実味を帯びてくることも考えられる。それは国が破綻するということ。誰も、それが現実になってほしいとは思わないはずだ。

 それを防ぐためには、わが国経済の成長力を高めて、借金に頼らないで国を運営することが必要だ。日本に本当に必要な政策は、しっかりした成長戦略だ。参院選で、各党の主張にそれが見られなかったことに憂慮する。この国は本当に大丈夫だろうか。

 

各党の「分配重視」に不安しかない… 消費税率の引き下げ効果は期待できる?

 参院選で、与野党ともに家計への支援政策を大々的に打ち出した。背景には、足元の個人消費を取り巻く環境の厳しさがある。しかし、それらの政策は主に今ある経済のパイの分配に過ぎない。全体としてパイを増やす政策ではない。

 近年、わが国の名目賃金は緩やかに上昇した。ただ、給与増は主に夏と冬のボーナスが増えたことが寄与している。そのため、春と冬のボーナス時期に実質賃金(名目賃金から物価上昇率を差し引いた値)がプラスになるものの、安定的に賃金が物価上昇ペースを上回る状況にはなっていない。一般庶民の生活は苦しさを増している。

 「家計のゆとりを生むために減税や給付を」といった主張で、与党も野党も有権者の支持を獲得しようとした。自民党は2万円の現金給付を主張したが、有権者の支持を増やすことはできなかった。一方、野党は主に、国民民主党や参政党が議席を伸ばした。

 国民民主党は、「手取りを増やす夏」と参院選のスローガンを打ち出した。その内容は、所得税の非課税枠(年収の壁)の引き上げ、30歳までに絞った所得税減税など。消費税は、実質賃金が持続的にプラスになるまで一律で5%に引き下げる公約を掲げた。

 参政党は、消費税の段階的な廃止や社会保険料の見直しを公約に掲げた。そして、現在46.2%程度の「国民負担率」を35%以内に引き下げると主張した。国民負担率とは、税と社会保障の負担の合計が、国民所得の何割であるかを示す。その他には、立憲民主党も食料品の消費税率を1年間に限りゼロにする減税策を提案した。

 こうした流れがある一方、減税の財源をいかに確保するか、具体的な方策を示した政党はほとんど見当たらなかった。消費税率を一時的に引き下げた後、どうするかも明示されていない。そもそも消費税を引き上げたのは、国民から広く社会保障関係費を負担してもらうことにあった(社会保障と税の一体改革)。

 消費税率を引き下げると、どれほどの効果が、どれほどの期間、期待できるのか。そうした議論は、ほとんどなされていない。

 もし減税に突き進むなら、そうした検証は必要なはずだ。これまでの消費税率導入や変更の経緯を振り返ると、比較的短期間で、消費増税に慣れる傾向が見られる。消費税率に慣れてしまうと、個人消費の水準は徐々に元に戻る可能性が高い。そうした議論がなされないまま、パイの分配重視の政策主張が相次いだことは不安に思える。

減税や給付の財源確保で国債発行 →金利上昇で住宅ローン、中小企業に打撃

 今のところ、物価上昇による税収の上振れで財政赤字の拡大は抑えられている。一方、国の債務残高はGDP(国内総生産)の240.0%に膨張している(2023年の値、財務省)。減税や給付の財源を確保するために、政府は国債の発行を増やすだろう。少子化対策や年金、医療、介護対策、防衛費の積み増しやインフラ修繕の側面からも国債増発へのプレッシャーは高い。

 国債の発行・流通市場では、需要と供給などに基づいて金利水準が決まる。年初以降、わが国の国債市場で長期(10年国債の流通利回り)、超長期(残存年数10年超の国債の流通利回り)は上昇傾向だ。

 参院選後、長期金利には一段と上昇圧力がかかった。7月23日、10年債の金利は1.6%まで上昇。実に17年ぶりの水準だ。バラマキ政策による財政悪化懸念に加え、日米関税交渉も金利上昇に影響した。

 金利が上昇すると、さまざまな悪影響がわが国経済に及ぶ。まず、住宅ローン金利の上昇による家計の利払い負担が増えること。最近、変動金利の上昇を警戒して固定金利に乗り換える人は増えているが、今の状況が続くと、長期金利の上昇により固定金利の水準は一段と高まるリスクがある。

 中小企業の資金繰りにも、マイナス影響が及ぶ可能性は高い。人手不足に加えて、銀行の融資金利が上昇することにより、中小企業の経営体力はさらに低下するだろう。

 東京商工リサーチによると、本年1〜6月期の倒産件数(負債額1000万円以上)は前年同期比1%増の4990件だった。金利上昇によって倒産件数が増える可能性はある。

 金利が上昇すると、最も大きな影響を受けるのは政府の利払い負担だ。利回りがその国の成長率を上回り始めると、雪だるま式に利払い費用が増えて財政赤字が急拡大する恐れがあることを絶対に忘れてはいけない。

 足元、わが国の潜在成長率は0.6%程度とみられる。バラマキによって一時的に個人消費が上振れたとしても、それは長続きするだろうか?

 景気停滞リスクの高まりから、政府が補正予算で追加の給付策などを実施すると、どうしても国債増発に頼らざるを得ない。そうなると、金利はさらに上昇し、利払い費用が増大して財政赤字は一層拡大する。こうした負の連鎖が起こる可能性は高まる。

 

バラマキ経済・財政政策が続くと 日本も財政破綻、ギリシャの二の舞いに

 財政赤字と国債発行残高が増えると、国の信用力は低下し、国際的な主要信用格付けで日本は格下げされるだろう。格下げにより、投資家の中には日本国債を購入できなくなるところも出てくる。一部の政府系ファンドは、信用格付けがA(シングルエー)格以上でなければ投資できないルールを定めているからだ。

 財政悪化・格下げにより金利が急騰し、財政破綻に陥った国は多い。今から15年前、ギリシャは国債を発行できなくなり財政破綻した。バラマキ型の経済・財政政策が続くと、わが国がギリシャの二の舞いになることも考えられる。

 その意味で、今後の政策運営は財政破綻のリスク上昇要因になり得る。そのリスクを低下させるためには、どうしても経済成長を実現する必要がある。GDPをパイに見立てると、わが国経済は人口減少で縮小均衡に向かうだろう。

 だからといって成長は不可能というわけではない経済成長は労働、資本、全要素生産性(いわゆるイノベーションによる部分)の3つの要素からなる。人口減少によって労働力は減少するが、企業が先端技術を導入するなどして生産性を高められれば、GDPは増えるはずだ。そのためには日本人ひとりひとりが新しい価値観、チャレンジ精神を持たなければならない。

 今の日本に必要な政策は、成長戦略だ。自動車の自動運転や省人化投資促進のための規制緩和や、税制面優遇によるインセンティブ付与、さらには労働市場の流動性を高めるためのマッチング、学び直しなど枚挙にいとまがない。その中でも、世界経済の成長を牽引するAI関連分野の底上げは急務だ。

 しっかりした成長戦略を策定し、それを着実に実行する。旧来の規制やルールを、現在に合ったものに改革する。それにより、GDP=パイを大きくする。そうした中で、世代ごとの社会保険料負担を見直し、一般会計予算に占める社会保障関係費の圧縮も必要になるだろう。ただし、それは痛みを伴う改革だ。

 痛みを避けて、近視眼的マインドな分配偏重の政策を続けると、いずれ財政の持続性は失われる。このままでは日本経済は良くならない。わが国の行く末を憂うばかりだ。


自民も都ファも立憲も「実質与党」の残念な現実…都議会のひどすぎる“馴れ合い構造”

2025年08月08日 11時09分37秒 | 社会

自民も都ファも立憲も「実質与党」の残念な現実…都議会のひどすぎる“馴れ合い構造”を新人女性都議が覚悟の暴露

Yahoo news  2025/8/8(金)  みんかぶマガジン

東京都議会議員 さとうさおり氏

 

 2025年6月の東京都議会議員選挙で、都民ファーストの会、自民党という二大勢力の候補を打ち破り、無所属で奇跡的な当選を果たしたさとうさおり氏。その異色の経歴の原点には、「貧乏子だくさん」の家庭で育ち、19歳で月500時間労働の末に過労で倒れたという壮絶な過去がある。

 大手監査法人での安定したキャリアを捨てて政治の道を選んだ彼女が掲げるのは、都政の「ブラックボックス」の解明と徹底した減税だ。既存政党の論理に縛られず、たった一人で都議会に乗り込んだ彼女は、停滞する都政にどのような風穴を開けるのか。その逆転戦略と覚悟の全貌に迫った。短期連載全4回の第3回。(取材日:7月23日)

 

巨大な都庁と戦うための逆転戦略「無所属のほうが…」

――それはひどい話ですね。納税者として、自分のお金がどう使われたか分からないというのは。

 

 おっしゃる通りです。ちなみに、私が活動の拠点としている千代田区では、過去に不正があった反省から、補助金の支出先は全て公開しています。つまり、やろうと思えばできるんです。国ですら公開している。それなのに、なぜ東京都は「忙しいから」「支払い先が多いから」という理由で公開できないのか。それは単なる言い訳に過ぎません。

 

――ただ、さとうさんは無所属の1人会派です。大きな会派に所属している議員と比べて、やれることに制約があるのではないでしょうか。どうやって政策を実現していくおつもりですか?

 

 まず、当選1期目の1年生議員という点では、大きな党に所属していても、自分のやりたい法案をすぐに通せるわけではありません。むしろ、党の方針に逆らえず、賛成したくない議案にも「丸」をつけなければ除名されてしまう、といった党議拘束に縛られます。それならば、1年生のうちは何でも自由に発言できる無所属の立場のほうが、むしろやれることは多いと考えています。

 

本当の野党は消滅? 都議会のひどすぎる“馴れ合い構造”

――なるほど。

 

 それに、議会の大きな議題だけでなく、日常的な行政の多くは、議員と都庁の職員さんとの話し合いの中で決まっていきます。実は選挙期間中も、都の職員さんが「自分はこういう者です」とこっそり身分を明かして、街頭演説の場に会いに来てくれました。彼らも「上から降ってくる仕事だからやっているが、こんなの無意味だと思っている事業がたくさんある」「でも、自分たちの立場では言えない」と。そうした現場の職員さんたちの声を私が拾い上げ、議会の議論の俎上に載せていく。その地道な作業で、仕事は進めていけると信じています。

 

――情報公開という点では、小池知事も就任当初は「黒塗りの公文書をやめる」と宣言していましたが、結局あまり変わっていないという印象です。

 

 何も変わっていないと思います。黒塗りだったインクがもったいないから、白くなっただけ。実態は同じです。彼女はもはや、かつて批判していた自民党と一体化していますから。都議会を見渡しても、自民、公明、都民ファースト、そして立憲や国民民主党まで、大きな方向性では連携しており、本当の意味での「野党」がほとんど消え失せているのが現状です。

 

「予算が多すぎて使い切れない」の裏で…減税を阻む最大のカラクリ

――先日、SNSで「財政委員会に入れない」という趣旨の投稿をされていましたね。あれはどういうことなのでしょうか。

 

 都議会の常任委員会は、議案を専門的に審議する非常に重要な場で、議員は必ずどこか一つの委員会に所属します。私が訴えている減税などの政策について質問・議論するためには、国で言えば財務省や国税庁にあたる部署を所管する「財政委員会」に入る必要があります。しかし、委員会のポストは会派の議席数に応じてドント式で配分されるため、1人会派の私には議席が回ってこないんです。

 

――委員会に入れないと、質問すらできないのですか?

 

 本会議で質問する機会はありますが、無所属議員に与えられる年間の質問時間は、たったの13分です。4回ある定例会を全て合わせて、です。これでは実質的な議論は不可能です。だからこそ委員会での質問が重要なのですが、その機会が閉ざされている。さらに、予算や決算を審議する特別委員会にさえ、1人会派は参加できない。このような運用をしているのは、全国の地方議会でも東京だけです。このおかしな慣例を変えるために、都民の皆様に「おかしい」という声を都議会に届けてほしいとお願いしたのです。

 

――東京都は莫大な税収がありますが、減税は可能だとお考えですか?

 

 絶対にできます。都庁の内部からは「予算が多すぎて使い切るのが大変だ」という声が聞こえてくるほどです。

 

立ち入り禁止の“廃墟”に年間1億円 都内に眠る「無駄な資産」

――ただ、減税するとなると、必ずカウンターとして言われるのが、「財源はどこにあるの」という話です。当然、使うのは大変と言いつつも現状で予算は使っているわけですから、どこかを削減しなきゃいけないということになると思うのですが、どこを削減すればいいとお考えでしょうか?

 

 まず、都庁のプロジェクションマッピング事業や、各地の噴水など、本当に必要かどうか疑問な事業を見直すべきです。さらに私が注目しているのは、活用されずに眠っている「遊休資産」です。過去に予算をかけて作った施設や備品が、今はお蔵入りになって、どこにも貸し出されず、売却もされず、ただ維持費だけがかかっている。そうした資産が都内にはたくさんあるはずです。

 

――例えば、どういうものですか?

 

 かつて林間学校などで使われていた「少年自然の家」などが、老朽化して危険だという理由で立ち入り禁止になっているのに、年間1億円もの維持費がかかっている、といったケースです。

 

 なぜ売却したり解体したりしないのかと問うと、「あれは当時の住民の方が寄付してくださったものだから、気持ちとして残したい」といった、法律では測れない「情」の部分が絡んでくる。こうした、誰もが無駄だと分かっていながら、削ると誰かの票を失うかもしれないという「しがらみ」に縛られた予算を、一つひとつ丁寧に削っていく。そこから財源は生まれるはずです。

 

もう“バラマキ”はいらない 減税と福祉を両立させる「行政のOS革命」

――さとうさんは、政治家を志した原点として「女性が働きやすい社会の実現」を挙げておられます。こうした福祉政策を手厚くすれば、当然、行政の支出は増えることになります。これは、さとうさんが掲げる「減税」と矛盾しないのでしょうか?

 

 そこは、政策のやり方を変えることで両立できると考えています。例えば、育児政策について言えば、今の政策は「子ども1人あたり5,000円給付」といった、現金を配る「ストック型」の支援が中心です。しかし、私はそうではなく、日々の生活の流れに沿った「フロー型」の支援、つまり運用の仕組みを変えることにもっと予算を使うべきだと考えています。

 

――フロー型の支援というと、具体的には?

 

 例えば、保育園の利用方法をもっと柔軟にして、父親の職場近くの園と母親の職場近くの園を日によって使い分けられるようにしたり、学童保育の預かり時間や対象学年を拡大したり。こうした、親の手が足りない部分を具体的にサポートする仕組みです。

 

現金給付の非効率を断罪「現金を渡してもパチンコに…」

――現金給付を減らし、その分を仕組みの改革に回すということですね。

 

 そうです。結局、お金を渡しても、それが本当に有効に使われているか分からないケースがあります。私自身が貧困家庭の出身だから分かりますが、お金の管理が苦手な家庭に現金を渡しても、残念ながらパチンコなどに使われてしまい、結局、月末には生活が苦しくなるということが実際に起こります。これは生活保護だけでなく、あらゆる補助金で同様の問題が起きている可能性があります。

 

――なるほど。

 

 ですから、現金給付という形ではなくサービスそのものを「現物支給」するようなイメージです。政府が、かつての地域社会や祖父母が担っていた役割、つまり「実家」のように子育てや介護を手伝う。その仕組みを作るためにこそ、予算を使うべきです。そうすれば、全体の支出を増やさずとも、より実効性の高い支援が可能になると考えています。