木全賢のデザイン相談室

デザインコンサルタント木全賢(きまたけん)のブログ

中小企業のデザインのお悩み、なんでもご相談ください!!

デザインは癒し/楓岡ばね工業

2006年08月08日 | デザイナーとの付き合い方(相談室)

<写真> 楓岡社長とオリジナル商品


◆「デザインは癒し」 楓岡ばね工業(有)
35:【デザイン相談室】インタビュー01


 こんにちは!「工業デザイン相談室」木全(キマタ)です。デザイナーの実像・デザイナーとの付合い方・デザイナーとのトラブル回避法など書いていきます。御相談がありましたら、コメントをくださいね。

 記事の目次
 デザイン相談室の目次    デザインの考え方と運用について
 デザインのコツ・ツボの目次 商品企画とデザインワークについて
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身近なデザイン導入事例

 すみだ中小企業センターでの「デザイン導入セミナー」の準備の第2回目です。

 導入セミナーですので、やはり、導入事例報告があったほうが、説得力があります。でも、大企業の大成功の事例を報告しても、「そんな凄い話は自分達には関係ないさ」と、中小企業の方の琴線には触れないだろうということで、身近な墨田区の企業のデザイン導入事例を紹介することになりました。

 2つの会社にお伺いして、インタビューをしてきました。インタビューは次のような点を中心にさせていただきました。

1)御社の物語
2)商品を開発した経緯
3)デザイン導入のきっかけ
4)販路をどのように開拓したのか?
5)新規事業を始めた効果は?(社内的・社外的)
6)今後どのような展開を考えているのか?
7)あなたにとってデザインとは?


世界相手にオリジナルデザイン商品を売る小さなバネメーカー

 最初に訪問したのは、楓岡ばね工業有限会社です。社長の楓岡武之さんにお話を伺いました。

 楓岡ばね工業(有)は、昭和20年代に楓岡社長の父親が、機械一台で創業したバネ専門メーカーです。楓岡社長も父親の後姿を見ながら、機械工学を学び、二十代から跡を継ぎ、現在までバネ一筋でやってこられたそうです。

 もともと「ものづくり」が大好きで、企業の下請けとして、部品作りに徹し、自らの技術に自信を持ち、要求された以上の機能と寸法精度をいつも心掛けてきたという、これこそ職人の鑑のような楓岡社長が、今では、デザインと出会えて楽しいと考えています。そして、いまや、MOMA(ニューヨーク近代美術館)のミュージアムショップでオリジナルデザインのバネ製のカードホルダーが、販売されています。

 MOMA(ニューヨーク近代美術館)のミュージアムショップといえば、世界有数のデザインセレクトショップです。自らデザインした商品がMOMAのミュージアムショップで売られるのは、デザイナーの夢です。

 そのくらい凄いことをやられているのに、おごりもなく和やかに話される楓岡社長が、どのようにデザインと出会い、どんなことを思い、周りやご自身がどのように変わったか、インタビューさせていただきました。



出会いはまったくの偶然

 それは、まったくの偶然だったそうです。

 1999年に墨田区の異業種交流会「ラッシュすみだ」の集まりに参加した楓岡さんは、机について何気なく手作りのバネ製のキーホルダーを、机の上に置いたそうです。

 そのとき、たまたま隣に座っていた女性のデザイナー(おおたかともこ氏)がそのキーホルダーを目にして、開口一番

「このキーホルダー素敵ですね!これ、商品化しませんか?」

 ほんとうにこの一言からすべてがはじまったのだそうです。インタビューに答える楓岡さんも、当時を思い出し、あらためてこの一言の大きさ、デザイナーとの出会いを噛み締めているようでした。


販路確保は大変

 技術力のある楓岡さんですので、5/100mmの寸法精度もなんのその、試作品・商品はすぐに出来たのですが、そこからが大変だったそうです。製品を作っても、どこに売っていいか分からない。東急ハンズに採用されるまでに半年以上足繁く通ったそうです。ほかの販路もすべて同じ。

 そのときに楓岡さんは、「作った商品をちゃんと売らないと、職人でもデザイナーでもない」とつくづく思ったそうです。(まったくその通りだと思います。)

 販路確保に苦労しながらも、キーホルダーに続き、新商品の開発を続け、バネのカードホルダー(MOMAショップで販売中のもの)を開発。その販路開拓にも苦しんでいたところ、たまたま、青山のスパイラルに売られていたカードホルダーがMOMAショップの現地仕入担当者の目にとまり、そこからMOMAショップとの付合いが始まったそうです。

 それからも、いろいろな紆余曲折は、あったそうですが、元来「ものづくり」が大好きな楓岡さんは、苦労を励みに、「機能と寸法精度」優先の部品作りと「見た目と楽しさ」優先のオリジナルデザイン商品作りを、両立されてこられたそうです。いまでは、オリジナルデザイン商品の累積売上が6000万円を超え、年間売上の2割を占めるまでになったそうです。今年も、オリジナル置時計を開発し、そろそろ、店頭に並ぶようです。

 楓岡さんは、「部品作りとオリジナルデザイン商品作りはまったく違う世界。要求仕様通りに部品が出来れば満足感がある。いいデザイン商品が完成したときは、楽しい。どちらも捨てがたい。」


デザインは癒し

 そんな楓岡さんに最後に「あなたにとってデザインとは?」と聞いてみました。

 「デザインは『癒し』です。自分が作っている商品は文具。購入した人がこの商品を身近に置いて、ふと眺めたり触ったりしたときに『癒し』を感じてくれれば凄くうれしい。」

 「私にとってもこれらの商品は『癒し』だし、デザインはそういうものだと思う。」

 実は私は、この「あなたにとってデザインとは?」という問いにすぐに返事はいただけないんじゃないかと思っていました。一般の方にとって、なかなか答えられない質問です。でも、すかさず「デザインは癒し」と返事をもらいました。

 楓岡さんは、デザイナーとの幸運な出会いから、MOMAショップとの付き合いなどの実体験を通して、きっと、下手なデザイナーよりもずっと深くデザインについて考えられたのだろうと思い、中小企業とデザインのこんな素敵な出会いがあるのだろうかと感激してしまいました。

 下請けのバネメーカー仲間との軋轢もあったそうです。デザイン費用が高いと思うこともあるそうです。仕入先から早く新製品がほしいと催促されていているそうです。そして、新作のアイデアもあるそうです。

 デザイナーとの幸運な出会いがあったにしろ、その後の成果はやはり楓岡社長の努力とものづくりへの想いによるところが大きい。こんな素敵な中小企業があることは、現代のポエムかもしれません。


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