木全賢のデザイン相談室

デザインコンサルタント木全賢(きまたけん)のブログ

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工業デザイナーはどこにいる?

2010年06月01日 | デザイナーとの付き合い方(相談室)



◆工業デザイナーはどこにいる?
67:【デザイン相談室】第67発


 こんにちは!
 デザインコンサルタントの木全(キマタ)です。一般の方に向けて工業デザインのエッセンスについて書いたり、デザイナーとの付合い方などについて書いています。御相談がありましたら、コメントをくださいね。コメントによるご質問には基本的に無料でお答えいたします。

 株式会社ビートップツー (木全が取締役を勤めています)

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工業デザイナーはどこにいる?

 多分、一般の方は工業デザイナーに関する情報をほとんど持っていないと思います。それには理由があります。

 家電製品をはじめ身の回りの商品はほとんど工業デザイナーによってデザインされていますが、それぞれの商品をデザインした工業デザイナーの名前が公表されることはめったにありません。

 海外や日本の有名デザイナーが係わった携帯電話や液晶テレビなどの商品が話題になることはありますが、それも数えるほどです。

 日本の工業デザイナーは、半数以上が企業に在籍し、ほぼ匿名です。ユーザーレベルで任天堂のWiiやソニーのPSPのデザイン開発に係わったデザイナーの名前を知っている人はいません。

 工業製品は企業内部の企画・設計・ソフト開発・製造・販売・アフターフォローなど、それこそ無名の大勢の人々の力によってできあがっており、他の部門の方と同じようにインハウスデザイナーも「この商品は俺のデザインだ」などと喧伝するのはおこがましいと考えています。

 少し脱線しますが、かつて無名だからこそ創造性の神様がおりてくると唱えた人がいました。日本民藝館を設立した柳宗悦(やなぎ むねよし)です。無名の職人達が、毎日同じものを作り続けていくうちに伝統が生まれ、その伝統が真の創造性を生む。それが「民藝」だと柳宗悦は考えていました。

 柳宗悦の思想には、無名の市井の人たちが真面目に生きて、真面目にモノを作っていけば必ず救われるという宗教的な背景があるのですが、インハウスデザイナーに限らず日本の製造業の方たちも、なんとなくそのような考え方を持っているように感じます。

 日本の場合、大企業も中小企業も含めて、そこに在籍する人たちが「この商品は俺が作ったのだ」と声高に言わない背景には、そういう職人気質の思想があるのかもしれません。


工業デザイナーが発信しにくい理由

 そのような背景に加えて、フリーランスデザイナーの場合は、法律的にも営業的にも、自分がデザインしたものを発表しにくい、現実的で切実な理由があります。

 デザイナーと企業が仕事をする際に、必ず機密保持契約を結びます。これは、開発している商品に関して、お互いに業務秘密を守るための契約ですが、この機密保持契約があるために、その商品が発売されているようないいタイミングで「この商品は俺のデザインだ」と公表できない場合があります。

 また、営業的にも公表しにくい場合があります。

 たとえば、オーディオが得意なデザイナーA氏がいたとします。大体そういうデザイナーはオーディオが好きです。デザイナーA氏も普段からオーディオ製品や業界動向に注目していますし、技術的な知識もありますので、時流にあったセンスのいい商品デザインを開発します。オーディオメーカーからすればうってつけのデザイナーです。

 さて、デザイナーA氏がオーディオメーカーX社の商品開発に係わり、商品が発売され、契約が終了したあとに、数年前にA氏のほうから営業をかけていたオーディオメーカーY社から新しい仕事のオファーがあったとします。

 そのとき、A氏がX社の仕事をしたことを公表してしまうと、同業他社のY社が発注を躊躇してしまう可能性があります。たとえ運よくY社の仕事が取れたとしても、それも公表してしまったのでは、今度はX社からの再受注が難しくなる可能性があります。このような場合には、X社に対してもY社に対しても、どこのメーカーの仕事をしているか、公表しないほうがデザイナーA氏は円滑な営業活動ができるのです。


工業デザイナーは縁の下の力持ち

 フリーランスデザイナーはいろいろな企業と付き合う可能性があります。契約にあたっては一業種一社の原則がありますので、同時期に同一業種の二社と契約することは、道義上しませんが、時期が違えば、同業他社と付き合っても問題ありません。このようなわけで、自分の仕事を公表しないほうが営業戦略上、有利になる場合があるのです。

 このあたりのニュアンスは、下請け受注型の中小企業であれば、ご理解いただけると思います。フリーランスデザイナーも受注型の中小企業、零細企業の一員なのです。

 フリーランスの工業デザイナーが、営業上の切実な理由で情報を発信しないわけですから、一般の方から見れば、いったいどこに工業デザイナーがいるのかわからなくて当然です。工業デザイナーは得体が知れないと思われても仕方ないかもしれません。

 でも、内情は受注型の中小零細企業に過ぎません。下請けだから、情報発信ができず、姿がみえないだけなのです。つまり、中小企業が「縁の下の力持ち」だというのと同じ意味で、身の回りのほとんどの商品をデザインしていても、それを公表できない工業デザイナーも縁の下の力持ちなのです。



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