スポーツライター・オオツカヒデキ@laugh&rough

オオツカヒデキは栃木SCを応援しています。
『VS.』寄稿。
『栃木SCマッチデイプログラム』担当。

シュクラン。モハメド・サルミ―ン~日本対バーレーン~

2005-03-31 01:31:03 | サッカー
〈日本〉GK楢崎、DF宮本、中沢、田中、MF加地、サントス、中村(→稲本)、中田英寿、福西、FW鈴木(→玉田)、高原

〈バーレーン〉GKアリ・ハサン、DFマルズーク、モハメド、フセイン、MFサルミ―ン、ドサリ、ババ、イーサ、M・フバイル(→ナセル)、FWアリ、サルマン(→タレブ)

お世話になったら、感謝の意を述べなくてはならない。シュクラン(*アラビア語で、ありがとうの意味)、モハメド・サルミ―ン様。

後半27分、日本へ待望のゴールをもたらしてくれたのは、バーレーンの背番号10モハメド・サルミ―ンだった。

右サイドでボールを持った中村がルックアップした。数分前に鈴木と交代した玉田がクサビをもらいに下がる。クサビを受けた玉田を倒したのは、サルミ―ンだった。

右からのFKを中村はファーサイドへ。中沢が競合ったボールのこぼれ球を、宮本がジャンプ一番で中へ折り返す。高原のバイシルクシュートは空振りに終わる。万事休すかに思われた次の瞬間だった。サルミ―ンが見事に自軍のゴールへとシュートを放った。CKに逃れようとしたが、背後から中沢のプレッシャーが掛かっていた為に、足元に狂いが生じたのだろう。痛恨のオウンゴール。

ジーコ監督は常々、シュートのコツを「ゴールにパスを送るように蹴ること」と公言している。それを体現したのは日本選手ではなく、バーレーンの選手だった。サルミ―ンのシュートは、ジーコの教えに倣ったものだった。

日本はアウェーでのイラン戦を「想定の範囲内」ではあったものの、落としてしまう。一気にグループ首位から3位に転落してしまった。更に、直前にイランは北朝鮮を退け、勝ち点を7にまで伸ばした。ホームのバーレーン戦では、是が非でも勝利が求められる。

重圧の掛かる大一番にジーコ監督は未成熟な4―4―2をあっさりと捨て去り、昨シーズン熟成した、選手達が自信を持って戦いに挑める3―5―2へとシステムを戻した。ただし、ボランチには今までにほとんど代表において試したことのない中田英寿を据えた。イラン戦の4―4―2と同様に、ぶっつけ本番の要素は多分に強い。この起用が吉と出るか凶と出るのか。衆目が集まった。

勝ち点4でイランと共に首位に立つバーレーンは、北朝鮮戦からシステムを変えず。3―5―2を採用してきた。出場停止のユセフ、ジャラルの代わりにサルマンとババを補充した。

日本がポゼッションではバーレーンを凌駕しながらも、ゴール前に築かれたマルズーク、モハメド、フセインの牙城を崩せずに、前半は苦しんだ。

先発に復帰したトップの鈴木は、クサビを受ける動き、裏をしたたかに伺う動き出しでバーレーンDFにジャブを打ち込むも、相棒の高原は精彩を欠いた。ボールを収められずに、フリーランニングの質も悪く、ボールを持てばこねくり回し、シンプルに味方にボールをさばけなかった。

それゆえに日本は拙攻を繰り返した。高い位置でボールを奪っても、トップの動きがいまいちだったために、出し手が受け手を探すシーンが目に付いた。最短距離、つまり縦に素早くボールを運びたかったが、必ず横パスが1、2本入ってしまうために攻撃が遅れた。パスを躊躇っている間に、バーレーンに引かれては攻撃を跳ね返され続けた。また、2列目以降の選手も攻撃参加することを自嘲せざるを得なかった。

23分から9本連続で得たセットプレーからも、好機を演出することが出来なかった。ニアサイドはしっかりとケア―され、ヘディングに長ける中沢も力及ばず。バーレーンが構築した壁は狡猾で、中村が蹴る前にジリジリと間合いを詰めた。何度も中村のキックが壁に引っ掛かったことが、それを如実に示している。ひと工夫あれば、バーレーンゴールを脅かせたかもしれない。勿体無かった。

攻撃は拙かったが、最も警戒すべきバーレーンのカウンター対策は、しっかりと行われていた。セットプレー後にバーレーンボールになった際に、しっかりサイドへサイドへと相手を追い込むDFを敢行し、ディレイさせては、縦にボールを配給することを防いだ。そのために前半は一本もカウンターを食らうことがなかった。練習の成果が生かされていた。

どちらとも譲らずに相手のストロングポイントを消しあった一進一退の攻防が、45分間、緊張感を保ったまま繰り広げられた。

ホームで勝ち点3を獲得したい日本は、後半開始から仕掛けた。キックオフのボールを相手陣内の深いところに蹴り込み、サントスを走らせた。サントスの居た左サイドからの攻撃は、前半たったの3回だけだった。対面のマルズークを狙い打ちにすると口にしながら、攻め込んだ回数は極端に少なかった。それを強化しようと、チーム全体の意志表示に感じられた。

時間の経過と共に、日本は左サイドを起点に攻撃を組み立て始める。バーレーンが前半よりも若干、前掛かりになったことも幸いした。11分には左サイドPエリア外から鈴木が放ったシュートを、GKが弾いたところに高原が詰めた。勢い付き、嵩にかかって攻め込む態勢が整った。

しかし、12分にハーフライン付近で福西が主審と接触し、一瞬だけ日本の集中力が途切れた折に、バーレーンにカウンターを浴びる。アリにボレーシュートを打たれるも、サイドネットを突き、事無きを得た。が、シュートに至るまで数十秒。改めてカウンターの威力を目の当たりにし、注意を払うべき代物であることが分かった。

気の緩みに突け込まれ、失点する危機を回避した日本は、左サイドからの攻撃に拍車をかける。中村が相手に読まれていてもサントスを使った。愚直までのサントス勝負に打って出た。15分、20分とサントス絡みからフィニッシュまで持ち込んだ。ゴールが徐々に近付く。バーレーンは日本のサイドを食い止めようと手を打つが、水の泡だった。

流れを掴んだところで日本は、鈴木アウト、玉田イン。そして、交代後間もなくサルミ―ンが先制点?を生み出した。

その後の日本は、はっきりとしていた。イラン戦の同点後に攻めるのか、或いは守るのか意志の統一が図れなかったが故に招いた逆転弾の教訓を生かした。無理に追加点を奪いに行こうとはせずに、コーナーフラッグ付近、タッチラン際で相手を上手く焦らしては、ファールをもらい時間を稼いだ。

試合終了間際にナセルに2度ほどシュートを打たれるも、GK楢崎が正面でがっちりとセーブし、勝利の笛がスタジアムに響き渡った。

勝利が絶対条件と、精神的に苦境に追い込まれながらも、形はどうであれ勝ち点3を確実に手にした。1と3ではこれからの展開が大きく異なってくる。これは予選突破をする上で大きい。ジーコ監督が選手の意見を聞き入れシステムを従来の形に戻したこと、サルミ―ンがゴールを決めたことに、ややシニカルにまだジーコ監督の悪運が尽きていないことに感謝しよう。

シュクラン・ジャジーラン(*アラビア語で、たいへありがとうの意味)。

さて、懸念された中田だが、中村との上下動で攻撃に幅を持たせるよりも、チームのバランスを最大限重視してプレーしていた。序盤はパスミスや、相手にかわされるシーンもあった。だが、段々と試合に解け込み始めると、先ずはカウンターを防止するためにバーレーンの選手を潰し、次に波状攻撃を受けないようにセカンドボールを拾うことを心掛けた。余裕が出てきても決して目立とうとはせずに、中村が動きやすいようにポジショニングをとっていた。後半は自分が下がり、福西を前目に配置させた。完全に黒子に徹していた。派手さはなかったが、堅実なプレーが光っていた。及第点の出来だったのではないだろうか。守備においては・・・。

アジア最終予選 日本1―0バーレーン 埼玉スタジアム2002

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