スポーツライター・オオツカヒデキ@laugh&rough

オオツカヒデキは栃木SCを応援しています。
『VS.』寄稿。
『栃木SCマッチデイプログラム』担当。

予習?:対佐川印刷SC戦@栃木SC通信

2008-04-12 00:54:29 | 栃木SC
※メンバーが大幅に変わっているために参考にならない可能性大

高橋高前監督が突然の辞任(解任に限りなく近いものだが)。J2昇格の切り札として招聘された柱谷幸一新監督が実質、指揮を執り始めたのは7月からだった。就任当初から優勝ではなく、現実的な「4位以内」という目標を掲げることで足並みを揃え、挑んだ戦いは残り2試合を残した、11月18日に終止符が打たれた。
 
投げかけられた問いに対する迅速な答えが返ってこない。様々な思いが交錯していたことは想像に難くない。言葉は途切れ、会見場は静寂で覆われた。しばしの沈黙後、ようやく口は開かれた。

「チームの環境や状況など説明を受け、理解して(チームに)入った。置かれた状況の中で最大限のことをやる。変えられることはいい方向に変えよう、と思いやった。なかなか勝ち切れない。勝ち点を積み上げられない。順位が上がらない。応援してくれたサポーターには申し訳ない気持ちで一杯です」

普段は勝敗に関係なく、些か温度に欠ける嫌いはあるものの、冷静に淡々と言葉を並べていく柱谷監督だが、さすがに「J2かJFLか」の審判が下されたことで声に力はなかった。目は虚ろであり、憔悴していた。課せられたミッションを履行できなかったことで自責の念に駆られ、サポーターをJへ連れて行けなかったことを激しく悔いた。
 
前日の試合でFC岐阜は勝利し、勝ち点を57にまで伸ばした。これにより、栃木SCの3位以上は消滅。昇格圏内ギリギリの4位に滑り込むための椅子は僅かにひとつだけとなった。上に4チームが位置するも「数字の上での可能性」は消えていなかった。一縷の希望を頼りに、対佐川印刷SC戦に臨んだ。
 
4―4―2の栃木SCは、GK原裕晃、4バックを石川裕之、山崎透、谷池洋平、片野寛理が組み、ダブルボランチを米田兼一郎と久保田勲が務め、左ワイドに小林成光、右ワイドに高安亮介が入り、上野優作と横山聡が2トップに起用された。
 
開始早々にFKを頭で合わせた谷池のシュートは枠外へ飛ぶが、出足は悪くなかった。石川と片野の両サイドバックは高位置に顔を出し、横山聡は旺盛な運動量でボールを呼び込んだ。ここ数試合で先発の座を確かなものとしつつある高安は持ち前の攻撃性を存分に活かす。前からのフォアチェックも効果的であり、コースが限定されたことで後ろは守り易かった。コレクティブな守備で佐川印刷の行く手を阻む。

攻守で優位に立ち、両サイドから攻め立てるも、相手も必死の守りで凌いだことで好機を生み出せない。攻勢もややペースダウンした時間帯。山崎の信じ難いバックパスを大坪博和に掻っ攫われる。ここはGK原が捨て身のセーブで逃れるが、今にして思えばこのワンプレイが失点の伏線だったのかもしれない。つまり、一瞬、切れてしまう集中力。これが敗因。

窮地を脱してから数分後、上野が左足を一振り。ゴール右下へと吸い込まれるようにミドルシュートが決まる。谷池のロングフィード、高安の落としとお膳立ては完璧であり、立ち上がりから果敢にゴールに迫っていた上野の気持ちがシュートには込められていた。
 
怪我の功名。負傷した高橋弘章がアウト、代わりに辻本茂輝がDFラインに入ったことで、佐川印刷の3バックは安定感を手にする。辻本は「2トップにボールが収まらないように潰すこと」(佐川印刷・橋本雄二監督)を実行に移し、主にマークしていた横山聡をピッチから消した。
 
リードを得てからが拙かった。連動した守備機能が低下し、高い位置で取れていたボールが取れなくなる。流れが少し傾いたところでショートカウンターを浴びる。東純一郎から大坪と渡り、あっさりとゴールネットを揺らされた。前半34分、試合を振り出しに戻される。

「しっかり立て直して、うちのペースにできていれば・・・そのままの流れで行ってしまった」(米田)
 
前半の悪しき流れを後半も引き摺る栃木SC。5バック気味にサイドを強化した佐川印刷に正面からぶつかってしまう。インパクトプレイヤー深澤幸次を投入。深い位置までボールを運ぶことには成功した。そこからが問題だった。クロスを入れるが中との呼吸は合わず。崩してもフィニッシュに至れない。また、意固地なまでにサイドに固執したことが柔軟性を殺いだ。
 
再び米田。

「攻撃のバリエーションが不足し、単調になっていた。ちょっとした工夫が必要だった」
 
外、外。その意識はマイナスに作用した。内側から攻略する発想に乏しかった。
 
セカンドボールへの反応の遅さ、プレスの機能不全、攻め切れない攻撃。悪循環が逆転ゴールの呼び水となる。谷池と深澤の間に潜り込んだ金井龍生がGKの頭越しにループシュート。「サイドにつけてからのカウンターが決まった。上手くプラン通りに運べた」と橋本監督。堅守速攻の策にはまる。石川は言う。「はめられたというよりも、はまってしまった。自滅した」。
 
上野に代えて山下芳輝、片野を削り小原昇を入れ、3トップにしてパワープレイを仕掛けるが水泡に帰す。蹴っては跳ね返される。巻き戻しと再生を繰り返しているだけだった。
 
1―2の敗戦。

「前節で修正できたと思っていたが、リードして勝ち切れない。そういうゲームが続くということは、本当の強さの部分はまだまだ未熟。弱さがある。積み重ねがチームの成長に繋がる。同じメンバーでやってきているのに継続性が足りない。チームが纏まりつつあっただけに勿体無い」
 
攻めるのか、守るのか。課題は前節のジェフリザーブズ戦で解消され、意思の統一は図られたはずだったが、それは上野が指摘したとおり一過性のものだった。

「厳しいゲームをものにしていく強さ。1―1のゲームを勝ち切る泥臭さ、粘り強さが足りない」
 
上野同様に昇格の味を知る谷池は、そう語った。
 
より具体的に柱谷監督は、備わっていない要素を列挙した。掻い摘んで記す。

先ず組織としては強固な守備も1対1となると露呈する脆さ。2失点はいずれも個の強さの欠如によるものだった。次に試合運びの巧拙。確実なビルドアップ、左右に揺さぶるポゼッションとサイドチェンジ。状況に応じたチームとしての対応力と判断力の低さが勝ち点を喪失させた。アドリブが利かないのだ。

個が伸びれば、組織も充実する。理屈は単純だが、易々と事は運ばない。現時点で監督の去就を含め来季の体制は白紙だそうだが、2つを突き詰めなければ同じ轍を踏むことは必死。来季の開幕まで時間は限られている。気が付けば今季が終わろうとしているように、来季もすぐそこまで迫っている。有効に時間とお金を使っていかなければならない。今季のような蹉跌を味わうのは一度で十分だ。

JFL後期第15節 栃木SC1―2佐川印刷SC 観衆3386人 @栃木県グリーンスタジアム

〈佐川印刷SC〉GK川本良二、DF高橋弘章(→辻本茂輝)、山本健二、松岡真吾、MF金井龍生、小寺一生、中森大介、中井義樹、東純一郎(→大槻絋士)、FW大坪博和、町中大輔(→吉沢秀幸)

〈栃木SC〉交代:高安(→深澤)、上野(→山下)、片野(→小原)



『少々、粗雑なくらいが丁度いい』

後半に放ったシュート数が公式記録によれば、1本もなかったことを伝える。すると、驚いた表情で聞き返してきた。

「後半のシュート、0ですか?チャンスはなかったと思っていましたけど・・・」
 
米田兼一郎は首を傾げた。

不思議がるのも無理はない。厳密には、打っているからだ。途中交代の深澤幸次が、そして米田自身が。後半33分、Pボックス内でルーズになったボールを左足で叩いた。DFにブロックされるも、それはゴールを意識した紛れもないシュートだった。が、カウントされることはなかった。

記録員によりシュート数に多少の変動があるにしても、栃木SCが拙い攻撃を重ねたことは動かし難い事実である。フィニッシュに持ち込めなかったことが問題であり、その原因を米田が語る。

「攻撃のバリエーションが不足し、単調になっていた。ちょっとでも工夫ができていれば・・・。相手が3―5―2でサイドでの優位性があったのだから、サイドチェンジを使うべきだった。何回かできていたが、センタリングやシュートで終われなかった」
 
1点のビハインドを背負っていた栃木SCは、後ろを3枚に減らして前線に人数を割く手を講じる。好守からの速攻をゲームプランとしていた佐川印刷SCは、守備への意識を更に強めた。引きこもった相手に対し、厚みを持たせることで嵩に掛かって連続攻撃を行う。一方的な展開も好機を作り出せない。緩急の乏しさだけが際立った。

谷池洋平に「前で潰して、後ろはカバーするから」と伝えた石川裕之。手薄になった最終ラインでカウンター攻撃を耐え凌ぐ。抜群のカバーリング能力を発揮し、味方の反撃を待った。小林成光、久保田勲、深澤はゴールライン寸前の深部にまで侵入できた。しかし、肝心の詰めが甘かった。それだけに、「勿体無い」と歯痒さを感じ、「3、4回サイドをえぐってもシュートにいけないのは、後ろとしては堪える。(攻守交代した際の)準備はしているが、シュートで終わるのと終わらないのでは、気持ちが違ってくる」と、守る側の複雑な心情を吐露した。

DFの視点から石川は付け加える。

「シュートを打たれると相手は嫌な気持ちになるし、綻びも出てくる」

単に押し込むだけではなく、一回の攻撃を完結させることの重要性を強調した。表現こそ異なるが、要旨は米田と同じである。1本のシュートが敵に脅威を与え、警戒心を抱かせる。同時に守備陣は呼吸を整える機会を得られ、アラート(機敏な、警戒する)な状態を再び作り直せる。そう考えると、試合を進める中でシュートするという作業は殊の外、大きなウエイトを占めているといえる。

シュートを打ち切る大切さ。それは上野優作の先制点から伝わっていたはず、だった。左足からの強烈なミドルシュートはゴール右隅に突き刺さる。ボールを受けた際、前方にDFは3枚もいた。状況は万全とはいえなかった。味方を活かすことに徹している上野。パスを選択するのではないかと思われたが、しかし果敢にゴールを狙った。些か無理な体勢であろうとも、強引に打ち切った積極性が実を結んだ。

得点力不足、決定力不足は万国共通の、サッカーチームが抱える最大の悩みである。有効な解決策は容易に見出せない。“難病”のようなものである。シュートは無闇矢鱈に打てばいいものではない。一理ある。精度が要求されるのも当然である。だが、栃木SCは極端にシュート数が少なく、決定率が高いとは言い難い。ならば、質よりも量を優先させるべきだ。困難な状況、体勢不十分でも、ゴールが視界に入れば打つ意識。ポゼッションが上手くなり、組織的な守備の完成度が増そうとも、サッカーの基本であり、形勢を逆転させられる、ゴールが生まれないことには勝機は手繰れない。精度の議論をするのは、二の次である。綺麗に崩すことを考えるよりも、先ずは相手に立ち向かっていく気概を見せ付けなければならない。

少々、粗雑でも打ちまくる。それくらいが栃木SCには、丁度いい。


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