『考古学者といじめっ子達』
アメリカの地に埋められた「年間最多安打記録」という遺物をイチローは掘り起こしている。その様は素手と刷毛(はけ)を用いて慎重に、土器や石器を採掘する考古学者に似たものがある。
イチローは刷毛をバットに持ち替え、1920年に打ち建てられたジョージ・シスラーの不滅の記録、シーズン257安打に挑む。丁寧に一本一本、安打を重ねることで大記録の実像が徐々に、我々の眼前に姿を現 . . . 本文を読む
『バカンスは終わらない』
不意に差し出した左に右フックを合わされた。大男が一瞬、ピタリと止まる。意識を飛ばされた。ハッと我に返り、必死にパンチを打ち返すもダメージは残っていた。手とヒザが同時にマットに付く。
2ラウンド1分過ぎにジェロム・レ・バンナはダウンを喫した。
序盤、バンナは冷静に見えた。なぜなら元ボクシングヘビー級王者のフランソワ・ボタに対して、無防備にパンチの打ち合いを挑まずに左右 . . . 本文を読む
『咆えた』
打球を目で追いながら、1塁ベースに到達しようとした時だった。
「入れぇ」
松井は咆えた。打球に思いを乗せた。ワンボールからの2球目。ペドロ・マルティネスが投じた内角低目のストレートをすくいあげた。6回表の出来事。
気持ちが込められた打球はフェンウェイ・パーク独特の右中間に迫り出している、レッドソックスのブルペンへ突き刺さった。試合を4対4の振り出しに戻す、貴重なホームランだ . . . 本文を読む
『新旧王者の明暗くっきり』
高く上がった太ももが振り下ろされる。足はしっかりと地面を捉え、後方へ蹴り上げられた。足の運びに無駄はない。
隆起した上半身を、加速がついた下半身が前方へと推し進めた。力強い。
スタートから飛び出した若き王者は勢いそのままにゴールへ辿り着いた。ジャスティーン・ガトリンは唯一の9秒台を叩き出した。ただし、十分な余力を残して。ゴール前でブレーキをかけ、流した。そして . . . 本文を読む
『虎視眈々と、猛々しく』
横長な瞳のせいだろうか。
猛禽類(ワシ・タカなど)のように鋭い眼光があるわけでも、肉食獣の如き荒々しさも感じられない。獲るよりは、獲られる。むしろ魚類に属する顔立ち。でも奥底には猛々しいまでに、強いものがあるように思えた。
互いに様子見の1ラウンドが終わり、突入した2ラウンド。川嶋はしたたかだった。ダッキングでパンチをかわし、カードを固めながらフアレスの左を打つタ . . . 本文を読む
『迷走に終始符』~栃木SC対横河武蔵野FC~
〈栃木SC〉GK原、DF高野、遠藤、横山、MF堀田、岸田(→石川)、只木、高木(→松本)、FW松永(→若林)、茅島、佐野
〈横河武蔵のFC〉GK井上(元コンサドーレ)、DF立花、田上、西口、MF石本(→上野)、池上(→末吉)、金、高橋(→原島)、尹、FW村山、小林
遠くを見詰めていた。
「5連敗だかんなぁ・・・」
拡声機を片手に、いや拡声 . . . 本文を読む
『闘莉王の陰に隠れて』~過去コラム~
アテネ世代に引けを取らずに、シドニー世代も輝いている。
今節も攻撃の柱である田中達也は怪我の為に先発を外れた。それにより浦和は1トップにエメルソン、その下に攻撃的MFの山瀬と長谷部の2人を並べて試合に臨んだ。
まずは最近、停滞していた浦和の両サイド、右の平川に左のサントスが果敢にサイドラインを駆け上がり新潟を押し込んだ。そしてエメルソンが前半4、11分 . . . 本文を読む
『エメルソン第一主義』~過去コラム~
アテネ五輪代表ではスタメンをはることもある山瀬を、所属チームの浦和ではしばしばベンチへと追い遣る存在。それが長谷部誠だ。
なぜに山瀬ではなく二十歳の長谷部なのか。その答えはエメルソンにある。
開幕当初は以前から浦和に巣くっていたエメルソン依存症を改善するために、弱点であった左サイドにサントスを補強し、右の山田と両サイドからの攻撃を展開することを目論ん . . . 本文を読む
迫力には欠けるものの、それが生きる道なら快く受け入れよう。
スポーツ手術の権威であるフランク・ジョーブ博士の提案により、野茂英雄はトルネードを封印した。常にランナーがいなくともセットポジションからキャッチャーミット目掛けてボールを放った。グニャッと腰がひねられることはなく、淡々と何時ものポーカーフェースでピッチングを続けた。
以前よりも球威は落ちていたが、その分だけ神経を使うようになった。スト . . . 本文を読む
『クローザーのコントラスト』
3対3のまま試合は9回へ突入した。
ヤンキースは絶対的守護神のリベラをマウンドへ送り出した。しかし先頭打者にヒットを、続く打者にも連打を浴びる。たちまちノーアウト1、3塁のピンチを招く。
だが幾多の修羅場を潜り抜けて来たクローザーは動じない。例え前日に打ちこまれていたとしても。過去を引きずらない。
三振、セカンドゴロでツーアウトまで辿り着く。最後は相手の . . . 本文を読む