スポーツライター・オオツカヒデキ@laugh&rough

オオツカヒデキは栃木SCを応援しています。
『VS.』寄稿。
『栃木SCマッチデイプログラム』担当。

敵国を知ろうパート2~北朝鮮対イラン~

2005-03-30 22:07:53 | サッカー
『カリミ王朝の勃』

<北朝鮮>GKキム・ミョンギョン、DFナム・ソンチョル、チャン・ソクチョル、リ・ミョンサム、ハン・ソンチョル、MFアン・ヨンハッ、キム・ヨンジュン、キム・チョルホ(→リ・ヴァンチョン)、パク・ヨンチョル(→ムン・イングク)、FWキム・ヨンス、チェ・チョルマン(→パク・ソングァン) 

<イラン>GKミルザプール、DFゴルモハマディ、レザエイ、カエビ、ザレ、MFカリミ、ザンディ(→ニクバクト)、マハダビキア、ネコウナム、アラビ、FWハシェミアン

波乱は起こらなかった。

イランがアウェーの地で、順当に勝ち点3を積み重ねた。2得点に絡んだのは、新たに代表を牽引することとなったアリ・カリミだった。

カリミ王朝の勃興。

前王朝を長らく維持してきたアリ・ダエイは、日本戦で負った傷が癒えずにスタメンを外れていた。政権交代の瞬間をダエイは、静かにスタンドから見つめていた。

ホームでの2連戦。是が非でも勝ち点を奪いたい北朝鮮は、システムに変更はなかったものの、バーレーン戦からスタメンを3人変えてきた。DFラインにリ・ミョンサム、攻撃的MFにパク・ヨンチョル、FWにチェ・チョルマンを入れた。

ダエイを欠いたイラン。フォーメーションは4―3―3から、4―2―3―1へ。ワントップに日本戦2ゴールのハシェミアンを据え、その下にザンディ、カリミ、マハダビキアを並べ、ボランチにアラビを、左サイドバックにはザレを起用した。

キックオフが10分間も遅れた試合の序盤は、静かなものだった。北朝鮮は過去2戦の反省を生かし、立ち上がり早々の失点を防ぐために、両サイドは攻撃を自嘲し、守備に神経を割いた。引き分けでも御の字のイランは、カエビが鋭いオーバーラップを披露したが、短調にアーリークロスをゴール前に放り込むことが多く、それほど攻撃的意識が強いわけではなかった。両者ともに慎重だった。

ところが、徐々にではあるがイランが北朝鮮を押し込む。どちらかというと守備に比重を置くタイプの選手であるボランチのネコウナムまでもがゴール前に顔を見せ、DFラインを浅く設定し、試合開始の静けさが嘘のように、次々と北朝鮮陣内へと雪崩れ込んだ。

その攻撃の起点を構築したのはカリミだった。中央はザンディに任せ、自分は左サイドタッチラン際にポジションを取り、相手のマークを外しながら上手くボールを引き出し、中央にドリブルで切れ込み、右サイドのマハダビキア、カエビの攻撃参加を促すために、キープしながらタメを作った。カリミがボールに触れる機会が増えるに連れて、イランのエンジンのかかりが良くなった。

22分には得意のドリブルでカリミが突っかけ、北朝鮮のブロックにあったこぼれ球を後方に位置していたザンディがミドルシュート。ループ気味のシュートは飛び出していたGKの頭を越えるも、クロスバーをも超えてしまった。惜しくもゴールにはならず。

劣勢に回った北朝鮮は、アン・ヨンハッが中央にどっしりと構え、粘り強いDFでイランの攻撃を食い止めた。ひとりがドリブルしてくる選手にアタックし、必ずもうひとりがカバーに入り、綻びを生じさせないようにした。攻撃回数は圧倒的に少なかったが、28分には左サイドをスルーパスで抜けたチェ・チョルマンが角度はなかったがシュートを放ち、イランゴールを脅かした。堅守速攻の意識が、しっかりとチームに浸透していた。

シュートまで持ち込めたことで、北朝鮮にもリズムが生まれるかに思えた後半33分だった。先制点を不運な形で与えてしまう。

左サイドでボールを受け、内へ向けてドリブルを開始したカリミをアン・ヨンハッが、堪らず突き飛ばしてしまう。マハダビキアはゴール前の陣形が整わないうちにFKを蹴り込んだ。慌てた北朝鮮はボールをクリアーしようと、3人の選手が重なってしまった。イランの選手は誰もボールに反応していなかったのに・・・。ハン・ソンチョルの頭に触れたボールは、綺麗に自軍のゴールへと吸い込まれて行った。労せずしてイランは、得点を頂戴した。

3試合続けて先制点を相手に与えてしまったかっことなった北朝鮮は、精彩を欠いていたキム・チョルホに代えて、本来先発であるはずのムン・イングクを投入する。前半44分には右からのクロスを内に絞っていた左サイドバックのナム・ソンチョルが、胸トラップからゴールを伺ったが、GKミルザプールの好判断に阻まれた。

少ない好機をゴールに結び付けられずに、イランに1点のリードを許したまま北朝鮮は45分間の戦いを終えた。

大観衆で埋まった金日成スタジアムの歓声に応えるべく、北朝鮮は後半開始から猛攻を仕掛けた。

先ずDFラインを高く設定し、攻守の切り替えを素早く、攻撃時には両サイドバックを積極的に上げさせた。これにより実質的に最後尾は2バックとなった。

かさにかかった北朝鮮の攻撃に、さすがのイランも引かざるを得ない状況に負い込まれる。ハシェミアンを前線に残し、他の選手は自陣へ戻り、攻撃に備えた。

縦に、縦に、ボールをゴールへ最短距離で動かした北朝鮮。8分にはゴール前で得たFKを、キム・ヨンジュンが鋭い切り返しからカリミを振り払い左足一閃。意表を突いたサインプレーだったが、残念ながらシュートは僅かに枠を反れた。同点に追い付く絶好機を逸してしまう。

これで、北朝鮮の勢いは尻すぼみしてしまう。アタッキングエリアまではスムーズにボールを運ぶが、その先に進む、フィニッシュに至るために求められる技量が足りなかった。要所、要所でのトラップ、ドリブルミスを冒してしまった。

13分にはザンディにあわやのFKからゴールに迫られた。

それでも、ゴールを奪えば流れがもう一度、自分達の元へ傾くだろうと、一気にFWパク・ソングァン、リ・ヴァンチョンの2枚のカードを北朝鮮は切り、システムを3バックにシフトし、ナム・ソンチョルを中盤へ上げて、サイド攻撃の強化を図った。

しかし、ベンチの思惑とは異なり、北朝鮮の選手達はサイドを有効利用せずに、イランがガッチリと固めた中央からの攻撃を繰り返した。フィジカルに長け、人数を割いたイランの牙城を攻略することは、悲しいかな北朝鮮には不可能だった。尽く弾き返された。

34分にはバーレーン戦と同様に、前掛かりになっているところをカウンターで破られ追加点を献上してしまった。ネコウナムのシュートを導き出したのは、ハーフラインからドリブルで敵陣に侵入し、3列目からの上がりを待つタメを作ったカリミだった。

駄目押しとなる2失点目を喫した後に、ようやくリ・ミョンサンが左サイドからクロスを上げ始めたが、深くえぐってから、完全に相手を崩してから上げたわけではなかったのでゴルモハマディ、レザエイを中心としたイランDFは容易に対応できた。

40分にナム・ソンチョルがPエリア内で倒されたとして、PKを主張したが、猛抗議も実らず。試合進行を妨げた制裁として攻守の要キム・ヨンジュンがレッドカードにより、ピッチの外へと弾き出された。これで、ジ・エンド。

北朝鮮のイランを完全に押し込んだ後半最初の波状攻撃は、見事なものだったが、テクニックが如何せん不足したために、ネットを揺らすことは叶わなかった。3試合を終えて勝ち点0、ダントツのグループ最下位。ドイツへの道は、険しくなった。

一方のイランは2連勝で、一歩ドイツへと近付いた。コンディションは万全ではなかったものの、しっかりと勝ち点を手中に収めるあたりは抜け目がない。いよいよ勢い付いてきたか。カリミがリズムを掴み、ザンディもチームに馴染み始めた。8月まで日本の出場権争いがもつれると苦しくなってくるかもしれない。

アジア最終予選 北朝鮮0―2イラン 金日成スタジアム

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