以前の建物はなかなか敷居が高い印象でご遠慮していましたが,昨秋に完全改築されモダン・テイストの建物になり,ミュージアムもオープンしたとのこと,早速師走に出かけてきました.同館のサイトや,東京人2011年12月号に特集記事が掲載されているので,関心のある方はそちらをご覧ください.とくに展示品の一部は比較的まめに展示換えされるようなので,サイトの「新しいおしらせ」で確認すると共に,ときに案内が遅れることもあるようですから,遠隔からお目当てがあってお越しになる場合には直接電話で問い合わされたほうが良いかもしれません.また,こちらの名品に習熟されている方は別ですが,一般の愛好家の方には「文庫員ガイドツアー」 が週1回ほど午後2時からありますので,ぜひ学芸員の方と一緒に回られることをお勧めします.理由は後述します.
東洋文庫外観 オリエントホール
同館は三菱創業家の三代目・岩崎久彌の現文京区本駒込に位置する別邸跡に建てられた,アジア関連を中心とした100万冊に及ぶ書籍(漢書・洋書・和書・他)と地図のコレクションを収蔵する図書館です.所蔵品は基本的にモリソン文庫(オーストラリア人の新聞記者で中国に駐在したG・E・モリソンの24000冊,故にカンガルーのブックプレートが見開きに張られている)と国宝5点・重要文化財7点を含む久彌の蒐集品・岩崎文庫が中心で,ミュージアムにはその中から選りすぐりの作品が展示されています.
2Fからみたオリエントホール ロビンソンクルーソー漂流記
1Fエントランスを右に入ると,ロビーからミュージアムショップをぬけて大きなガラスのスライドドアがあり,その奥が展示室「オリエントホール」です.現在展示されている中では,「ロビンソンクルーソー漂流記」の初版と同年1719年ロンドンで刊行された本(なかなか表現が難しい)やアダム・スミスの「国富論」初版1776年刊本("an invisible hand"有名な「見えざる手」のくだりが展示されていて,確かに「神の」とは書かれていない)が目玉でしょう.
モリソン文庫
この左手の直線の階段を上がって左が「モリソン文庫」です.三層から成る壮麗な書庫の空間に目を見張ります.その目線の高さに10個ほどのガラス張り展示ケースがあって,その中には古今東西の貴重書の名品が展示されています.じつは友の会に入会したので同館には先月三回訪問しているのですが,私は和本については初学者で,かつ初回訪問時には知識不足もあり,左奥正面向きのケースにある「徒然草」光悦本がこの中では最も貴重であることを知らず,写真にも収めませんでした.
後でガイドツアーで学芸員の方に伺ったところによると,元和(1615-24)頃の製作で,雲母(キラ)摺りの見事な文様が鈍く輝く上に光悦自身の筆による草書を写した木版古活字で印刷されたという凝ったもので,印刷の不備があったところは,自筆で埋め立てあるそうです.その日は左頁が印刷,右頁は手書きでした.草書体にはつながった文字もあり,字の長さも異なるので,その古活字というのは大変イメージが沸きにくかったのですが,数文字を一つのブロックとしてあったりするらしく,それでは同じ言葉は同じスタイルにしたいというのがこの板のメリットだったのかと思って質問したのですが,同じ言葉を違うスタイルですってある部分もあるとのこと.結局,このようなつくり込みがどのようなメリットを意図してなされたのかは分からずじまいでした.どなたかご存知の方,ご教示いただければ幸甚です.現在は,同じ光悦本の「小倉百人一首」が展示されていますが,これも同じ装丁で色付きの料紙も使用されていて,伝承はこの一冊だけという逸品だそうです.
・・・明日に続く