CYCLINGFAN!!

自転車をこよなく愛し、自分の脚と熱いハートで幾つになっても、可能な限り、どこまでも走り続けます~♪

ポガチャルの強さの秘密(2)

2024-07-25 10:08:55 | ツール・ド・フランス
 おそらく最大酸素摂取量の高いヴィンゲゴーはVAM値がかなり高い選手なのだと思います。高地にも強くTTでも速いのはその証左でしょう。怪我明けだったヴィンゲゴーはVAM値が上げきれず、最後に失速したのはおそらくはトレーニング不足だったからでしょう。

 単なるパワー(W)数ではピュアスプリンターにはかないませんが、登りにはパワーウェイトレシオという出力を体重で割った数値が重要となります。このVAMという数値は体重が加味されていないのですが、出力の高い選手が必ずしもVAMが高いとは限らないので、パワーウェイトレシオに近い数値なのかもしれません。
 昨年末にジロとツールのWツールを狙うことを目標に掲げたポガチャル。当時はツールに勝てなかった時の保険と考えていた人も少なくなかったでしょう。ただ、ポガチャルには自信があったのだと思います。シーズンインを遅らせ、今季初戦のストラーデ・ビアンケを圧勝した時から、今年のポガチャルは一味違う感じがしていました。
 おそらくシーズンオフに高地トレーニングの時間を増やしたのだと思います。その結果心肺機能が高まりVAM値が上がったのでしょう。シーズンインしてからも出場するレース数を限定し、ジロ・デ・イタリア制覇後は全くレースに出場せずツールに備え高地トレーニングと休養に当て、見事に28年ぶりのジロとツールのWツールという偉大な記録を成し遂げたのです。

 今年のニースの表彰台にコルナゴのバイクを持って上がったポガチャル。休養日の記者会見でも機材の進化について語っていましたが、近年は選手が機材に助けられている感が強いのかもしれません。それでも自転車のエンジンはあくまでも人間ですから、選手の身体能力の向上が無ければ機材の進化に人間が置いていかれることになってしまいます。
 ポガチャルは機材の進化、特にタイヤの進化に触れていましたが、より安定したパンクの少ない少し太めのタイヤが、彼の積極果敢な走りを支えたことは間違いないでしょう。最終日のTTも「(パートナーで自転車選手である)ウルシュカ(ジガート)が嫌がるほど何度も試走した」と語るコースでしたが、ここをこのスピードで走るの、曲がるのといったシーンが幾度もありました。自分の技術は勿論、タイヤを含めた機材への信頼感が無ければこんな走りは出来ません。

 ポガチャルの強さばかりが目立ってしまった今年のツールですが、敗れたとはいえヴィンゲゴーもまた強かった。特にプラトー・ド・ベイユでのマッチレースは素晴らしかった。ヴィンゲゴーのタイムもパンターニの記録を上回っていたのですから。ポガチャル自身、ツールを初めて勝った時には自分が負けるなんて考えていなかったはずです。連覇でその気持ちが益々強くなっていったとしても不思議ではありません。そんな鼻っ柱はヴィンゲゴーという最強のライバルの登場で見事にへし折られたのです。それも2年続けて…
 本人は相当悔しかったはずです。負けず嫌いで、常に勝利を渇望するポガチャルなら尚更でしょう。おそらく自分に欠けている部分をヴィンゲゴーに突き付けられ、それを克服するために、高地トレーニングをTTバイクでしたのではと思わせるほどの進化を見せてくれました。

 レース後のインタビューでヴィンゲゴー、エヴェネプール、ログリッジとの4人で新しい時代を築いて行くと語り、それに新しい選手も加わるだろうとも付け加えていました。ライバルがいてこそより強くなれるというのはここ1・2年でポガチャル自身が実感して来たことなのだろうと思います。
 



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ポガチャルがオリンピック欠場を表明

2024-07-24 10:21:46 | ツール・ド・フランス
 4年に1度のスポーツの祭典とされるオリンピック。アスリートなら誰でも一度は夢見る舞台ですが、先日3度目のマイヨジョーヌを獲得し、あのパンターニ以来となる同一年のジロ・デ・イタリアとのWツールを達成したタディ・ポガチャルが疲労を理由にオリンピックを欠場することが23日に発表されました。

 欠場の理由が「疲労」と聴いてわが耳を疑いました。ライバルが不在のジロ・デ・イタリアはほぼ調整の状態で勝利し、その後はレースには出場せず、回復と高地トレーニングに費やし、ツールは2日目にあっさりマイヨジョーヌを獲得してしまいます。その後、タイム差無しのゴール順位の関係で1度はカラパスに譲ることになったものの、第4ステージの勝利ですぐに取り戻します。
 その後は、全ての山頂ゴールを征しステージ6勝で3年ぶりにマイヨジョーヌを獲得することに成功しています。それも、本気で踏み込むシーンは限定的で、超省エネ勝利に見えたほどだったのです。ポガチャルにしては我慢に我慢を重ね、最小のエネルギーで勝てる瞬間を見定めていたように見えました。開幕前はビッグ4と言われていましたが、蓋を開ければポガチャル1強だったのです。
 このままオリンピックに行っても勝てるのではと思っていたら、最後のインタビューで「次の目標はアルカンシエル」と答えいたのには驚きました。この段階でポガチャルはオリンピックの辞退を決めていたのでしょう。

 辞退の本当の理由は「疲労」ではなく、スロベニアのオリンピック委員会への不満だという意見もあるようです。パートナーのウルシガ・ジガードがスロベニア代表に選ばれなかったことにポガチャルはかなり憤りを示していたというのです。ウルシガ・ジガードは、2024スロベニアロードとタイムトライヤルの2冠を制しているのですから、ポガチャルの憤りも分かります。
 近年のオリンピックは商業化が進み、東京五輪のその後が大変なことになっていたのはご承知のことと思います。オリンピックの開催時期が秋から真夏に変更されたのも、アメリカのTV局の圧力だと言われています。気温の最も高い真夏にスポーツの祭典を行う不都合は多々あるにも関わらずです。アスリートファーストを掲げながら、アスリートに過酷な環境で競技を強いるIOCには、私も大きな不信感を持っています。

 その中で起きた選手選考の不可思議はスロベニアだけではありません。ツールでポガチャルと熾烈な戦いを見せていたヨナス・ヴィンゲゴーもデンマークのオリンピック代表から漏れてしまっているのです。こちらはトラック競技との兼ね合いというデンマークらしい理由のようですが、ロードレースファンとしては納得し難いものがあります。
 そもそもオリンピックが真夏開催になって以来、ツールとの兼ね合いが問題になっていました。今年はポガチャルが初めからオリンピックに興味を示さず、ヴィンゲゴーも代表から漏れていたため、総合争いにはほとんど影響はありませんでしたが、山岳賞と総合敢闘賞を受賞したカラパスは、東京五輪の金メダリストですが、エクアドルの代表からは漏れていた選手でした。また、フランスがオリンピック代表を意図的に遅らせた結果、序盤でフランス人の活躍が目立ったことも事実です。

 ファンデルプールはオリンピックを意識し過ぎたあまり調子が上がらないままツールを迎え、その煽りを食う形になってしまったのが、昨年のマイヨヴェールのフィリップセンでした。自らの斜行での降格もありましたが。3勝の内2勝が完璧なファンデルプールの発射台の結果でした。ファンデルプールの調子がもう少し良ければ、ギルマエのマイヨヴェールは無かったと思っています。このようにオリンピックとツールの間隔が無いことは4年に一度、ツールに影響を与えることになるのです。
 流石に今年のオリンピックはパリ開催なのでA.S.OもIOCと協力し、シャンゼリゼゴールをニースでの個人TTに切り替えるなどしていましたが、ツール期間中にオリンピックを意識する選手がいることをA.S.Oは快くは思っていないはずです。
 今回のツールでビッグ4と呼ばれた中でオリンピックの代表に選ばれているのはレムコ・エヴェヌプールとプリモシュ・ログリッジの二人だけです。ただ、レムコはタイムトライアルがメインで、ロードのエースはワウト・ファンアールトになるはずです。ポガチャルの欠場でリトアニアのエースはログリッジで間違いないでしょう。
 ただ、ワンデイレースのオリンピックはステージレーサーよりワンデイレーサー向きで、ワウトのライバルはファンデルプールになるのでしょうか?ただ、ツールの走りを見る限り調子はあまり良く無さそうです。
 ポガチャルの欠場ですっかり興味が失せてしまったオリンピックですが、それを夢見て挑む選手達には心から声援を送りたいと思います。日本人としては新城選手の健闘を願っています。
 



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ポガチャルの強さの秘密(1)

2024-07-22 11:45:46 | ツール・ド・フランス
 今年のツール・ド・フランスの最終日はオリンピックの関係でパリ・シャンゼリゼのパレードランではなく、モナコからニースまでの33.7km個人タイムトライアルで幕を閉じることになりました。あのグレッグ・レモンが総合大逆転をして以来のことだそうです。

 そして、その主役も個人TTの世界チャンピオンのエヴェネプールでも、ツールを連覇中のヴィンゲゴーでもなく、今年のジロ・デ・イタリアの勝者タディ・ポガチャルでした。これで、今年のツールは6勝目となり、マリア・ローザに続きマイヨジョーヌも手にすることに成功したのです。

 昨年は個人TTでヴィンゲゴーに1分38秒という圧倒的な差を付けられたポガチャルでしたが、あれ以来TTに特化したトレーニングもしてきたのか、ジロのTTでも現アワーレコードホルダーのフィリッポ・ガンナと1勝1敗。最初のTTではエヴェネプールに敗れたものの、流石にグランツールの最終日のTTは、ここまで脚を残せていたポガチャルが圧倒的な走りで勝利しました。

 ヴィンゲゴーが万全の状態なら接戦になっていたかもしれませんが、ポガチャルの準備がライバル達を上回っていたことも事実でしょう。高所に弱い、暑さに弱いと言われ続けたポガチャルですが、彼の中でこれまでの敗因を分析し、ひとつひとつ課題をつぶして来たように感じています。
 それを裏付けるのがENVEのレポートでしょう。今年、ジロの後の高地トレーニングにホイールとハンドルを提供しているENVEが帯同し、データを取っていたのです。その高地トレーニングにポガチャルが選んだのはアルプスのイゾラ2000でした。おそらく、クイーンステージの舞台となるシム・ド・ラ・ボネットの試走もしていたはずです。

 この時、ENVEが予測していたのがプラトー・ド・ベイユの所要時間が 43~44 分というものでした。これは推定VAMが1,750~1,850 Vm/hというものです。VAM とは 1 時間あたりに登る垂直メートル数の推定値だそうです。VAM は垂直方向の速度と考えることができますが、登りの長さと勾配に大きく影響されます。たとえば、急勾配の短い登りでは、高い VAM となりやすい傾向があり、一般的に1,500 Vm/h を超えるとどのような地形でも高い数値とされています。ほとんどのアマチュア ライダーは 300 ~ 600 Vm/h 程度になり、ワールドクラスのライダーのVAMは 1,800 Vm/h を超え、特に長い登りや暑い中、高地など過酷な場所での登りではVAMの差が大きくなるそうです。
 ちなみにポガチャルの2022年ツール・ド・フランス中のガリビエ峠のVAM:は1,492 Vm/hと決して高いものではありませんでした。それが今年のガリビエは推定VAMが 1,700~1,800 Vm/hで、ガリビエの登坂と下りでエヴェネプールに45秒、ヴィンゲゴーには50秒というタイム差を付けマイヨジョーヌに袖を通すことになったのです。
 驚くべきはプラトー・ド・ベイユの登坂で、ENVEの推定タイムを大幅に更新し38分代の歴代新記録を叩きだしているのです。VAMはおそらく2000Vm/hを越えていたはずです。これはポガチャルが2022年には確かに高所に弱さがあったのに、今年はそれが完全に克服されている証左でしょう。
 



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ポガチャルのWツール制覇を考える(12)

2024-07-21 15:13:29 | ツール・ド・フランス
 1998年のマルコ・パンターニ以降、あのクリス・フルームもアルベルト・コンタドールもなし得ることが出来なかったジロとツールのWツールが怪物ポガチャルによって成し遂げられようとしています。ジロとツールの間が短いことや気温差やコースレイアウトの違い等、様々な理由から近年は不可能とされてきたのですが、ポガチャルがそんな偉業をいともあっさりと成し遂げることになりそうです。
 最終日の個人TTを前に非常に厳しいアルプスのステージだったにも関わらず、ポガチャルは余裕の連勝で終えることになりました。この日も逃げを容認しようと思っていたというポガチャルでしたが、クイックステップがエヴェネプールの総合2位狙いで積極的に前を牽いた結果、最後の1級クイヨール峠で逃げグループを捕まえてしまいました。

 エヴェネプールのアタックは失敗しヴィンゲゴーにタイム差を付けられる結果になってしまいましたが、エヴェネプールの時代は必ず来るはずです。今年がツール初出場で、マイヨブランは確実にしているのですから。ただ、未だポガチャルとヴィンゲゴーの壁はかなり厚いのも事実で、この二人がいるレースでは3番手であることは明らかです。ただ、TTに強く、今回のツールでは登りで大きく遅れることも無かったので、この二人との差は年々少なくなくなってくるでしょう。

 ただ、今のチームではツール・ド・フランスを征するのは難しい。UAEにはアユソやデル・トロなどの若手がいるので、彼らがポガチャルの後継となって行くのでしょうが、ログリッジが移籍したヴィスマはクスやヨハンネセンがいるとはいえ。ヴィンゲゴーの後釜にエヴェネプールを考えても不思議ではありません。エヴェネプールもここまで来るとクイックステップにいてもクラシックは勝ててもグランツールには手が届かないことは分かったと思います。今年のツールでもまともなアシストはランダひとりしかいなかったのですから。来シーズンのエヴェネプールの移籍に注目です。

 それにしてもこれだけ厳しいアルプス2連戦を最小限の力だけで勝ってしまうポガチャルの強さには脱帽です。一昨年はチーム力の差でヴィンゲゴーに敗れ、昨年は骨折明けのツールで調整の失敗があり、3週目にバッドデイを迎えてしまいました。チームはメンバーを揃え、ポガチャルは過去の失敗から学び、常に攻撃的な姿勢を見せ続けたポガチャル。ジロで6勝、ツールでも5勝、これでブエルタに出場すればどんな記録が生まれるのでしょう。

 流石にトリプルツールを狙うことは無いでしょうが、予測不能なポガチャルのことですから、オリンピックの結果次第でブエルタも走ると言いかねないのです。ただ、UAEには今回はコロナで早期リタイヤしたアユソがいるので、普通に考えればアユソでブエルタを狙うというのがチームの計画のはずです。
 今の調子ならパリ・オリンピックでの金メダルも夢ではないでしょう。ジロの時からどこか力をセーブしながら走っている感じがしていました。今回のツールも全開で走ったのはプラトー・ド・ベイユだけだったように見えました。今日の個人TTはオリンピックのトレーニング程度に考えているかも知れないのです。
 2位ヴィンゲゴーとは5分以上、3位エヴェネプールには8分以上のタイム差があるので、無理をする必要は全くないのです。ツールからオリンピックまで時間が無いので、既にオリンピックの調整に入っている可能性すら考えてしまうのです。エディ・メルクスの再来と呼ばれ注目されていたポガチャルですが、ヴィンゲゴーの登場でツールで連敗を喫していたのですが、その敗戦から多くを学び成長した姿が今のポガチャルの強さなのかもしれません。

 ただ、今でもスイッチが入ると補給を忘れてしまうというポカもある選手で、今年もアシストがボトルの水をポガチャルにかけているシーンが目立っています。そこは年齢を重ねるにつれて改善されるはずです。2020年にツール初優勝した時はいったいツールを幾つ勝つのだろうという期待が高まりましたが、ヴィンゲゴーというライバルが登場し、苦い敗戦を味わうことで、ポガチャルもさらに強くなって行きました。
 5月にポガチャルがジロを圧勝して以来ずっとポガチャルのWツールの可能性について考えて来ました。この記事を書き始めた当初から2008年のコンタドールの例をあげながら、その可能性は高いと言ってきましたが、それが今日実現します。今年のポガチャルの強さは異常といえるレベルに達しているようです。昨年のツールの敗戦がポガチャルをより強くしたのでしょう。
 昨年、Wツールを狙うと宣言した時にはそれなりの自信があったのだろうと推測しています。レース数を抑え、ジロを圧勝、そこからもレースに出ずに調整に当て、回復とアルプスでの高地トレーニングを経てツールに入り、アルプスでの厳しい山岳は全て勝っているのは偶然ではないでしょう。1週間後にはオリンピックのタイムトライアルが、10日後にはロードレースが待っています。ポガチャルはロードレースに出場予定です。
 ツールを早目に去ってしまったログリッジは東京五輪の個人TTの金メダリストですが、パリ五輪には出場しないようです。アシストもモホリッチとトラトニック、メズゲッツという強力なメンバーですから、今のポガチャルの調子なら金メダルも手に入れられるかもしれないと思っています。幸い今年のオリンピックはパリですから、東京五輪のような長距離移動がないのも有利に働くはずです。Wツールに加えてオリンピックの金メダルまで手にしてしまいそうです。
 


 
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マイヨジョーヌの行方(5)

2024-07-20 11:50:01 | ツール・ド・フランス
 ツール・ド・フランスのクイーンステージも終わってみればポガチャルの強さばかりが際立つ結果に終わりました。このステージでもタイム差を付けられてしまったヴィンゲゴーは「総合優勝を目指す戦いは終わった」とコメントし敗戦を受け止めていました。言葉だけでなく走りを終え、ハンドルに項垂れかかる姿にも敗戦を覚悟せざるを得ない苦しさが滲んでいたように見えました。

 4月の大きな落車での怪我を乗り越え、第11ステージではゴールスプリントでポガチャルを下し涙していたヴィンゲゴーでしたが、怪我明けのぶっつけ本番で勝てるほどマイヨジョーヌは甘くなかったということでしょう。
 ヴィスマのチーム戦術は予想通り前待ち作戦で、逃げに3名のメンバーを送り込み、その中にはエースアシストのヨハンネセンが含まれていたのです。最初の超級ヴァルス峠(距離18.8km/平均5.7%/標高2,109m)の山頂をカラパスがトップ通過しマイヨ・アポア獲得へ一歩近づきます。最初は逃げに乗れなかったカラパスをEFのチームが懸命に働き、なんとかカラパスを逃げ集団に送り届けた結果でした。

 このステージ最難関標高2,802mの超級シーム・ド・ラ・ボネ(距離22.9km/平均6.9%)を迎え、逃げ集団は4分以上のタイム差を持って登り始めます。ここの頂上でマイヨジョーヌの行方が決まるので、ヴィスマが攻撃するものと思っていたのですが、ヨハンネセンを逃げに乗せたヴィスマは攻撃の手札が無く、アタックの無いまま集団で山頂を越えることになりました。この段階でポガチャルのマイヨジョーヌはほぼ確定となりました。後は安全に長く危険な下りを走り切るだけ。ポガチャルの回りにはアダム、アルメイダを含め4人のアシストがガッチリとガードして下りを終えました。超級でポイントが倍になるシーム・ド・ラ・ボネの頂上はカラパスがトップ通過し、アポア・ルージュを現実的なものにしました。
 3分51秒遅れでイゾラ2000に入ったプロトンは、UAEのソレルからアダムに牽引が引き継がれ、先頭とのタイム差を縮めながら集団を7名まで絞りこみます。ポガチャルはイェーツの他にアルメイダがいる一方で、エヴェネプールランダを残すのみ、ヴィンゲゴーにいたってはチームメイトがひとりもいない戦いを強いられます。この状況でも前待ちのアシストが下りてこないのには驚きました。チームはヨハンネセンでのステージ勝利に切り替えていたのです。
 それを見越したポガチャルが残り9kmでアタック。ヴィンゲゴーはついて行けずエヴェネプールにつきイチ状態でレースを終えることになりました。これでポガチャルの1998年のパンターニ以来のジロとツールのWツールがほぼ確実なものになりました。

 それにしても今年のポガチャルの強さは異次元の感じがします。昨年のヴィンゲゴーの個人TTの走りも異次元でしたが、マイヨジョーヌはポガチャルの失速によるものでした。今年のポガチャルの5分3秒というタイム差はポガチャルが自らアタックして得たものなのです。ジロ・デ・イタリアを調整にしたというのも妄想ではない気がしています。
 加えて、今年のUAEは山岳アシストが完璧な仕事をしています。この日も無理に逃げに乗る事をせず、落ち着いてポガチャルの周囲をガードし、最初のボネット峠でポリッツが速いペースを刻み次々とヴィンゲゴーのアシストを次々と振り落として行きました。最初の逃げに乗っていたラポルトも早々に遅れ、逃げにヴィスマが2人いるものの、イゾラ2000の麓ではUAEのアシストが4枚に対しヴィンゲゴーは丸裸になっていたのです。
 シバコフ、ソレルと牽き切りアダムが牽引を始め、アルメイダを残した状況でポガチャルがアタック。逃げていたメンバーをひとりまたひとりと抜いて行き、ステージ勝利のために送り込んでいたヨハンネセンを一機に抜き去ると余裕のポーズでゴールに飛び込んで来たポガチャル。ソレルを欠くアシスト陣でしたが、アルメイダの脚を温存しても勝ってしまうポガチャルにはもう脱帽するしかありません。

 マイヨ・アポアはこの日の超級の頂上を2つともトップ通過したEFのカラパスがポガチャルから奪い取ることに成功しました。今日も1級山岳が3つ残っているので安心はできませんが、どこかひとつでも山頂を取れればマイヨ・アポアを確実にできるでしょう。落車の怪我が心配されたギルマエもこの日も無事にゴールしていましたので、途中でリタイヤすることはないでしょう。マイヨブランはエヴェネプールで確定です。注目は総合2位に挙がれるか、ヴィンゲゴーがこの調子ならTTで遅れることも十分にあり得ます。TTの世界チャンピオンのエヴェネプールなら2分というタイム差は十分に逆転可能でしょう。
 高地に対する不安や気温の高さに対する不安など、開幕前には不安視されていたポガチャルですが、シーズンインを遅らせ、レース数も絞り、ジロを調整に当て、本番はツールと昨年から決めていたのかもしれません。ただ、計画は出来ても、それを実現できるかは別物なのですが、昨年のツールの敗戦がポガチャルをさらに強くした感じがします。負けず嫌いのポガチャルにとって、昨年のバッドデイがよほど悔しかったのでしょう。今のポガチャルを誰が止められるのでしょう。それほど今のポガチャルの強さは異次元です。
 今日も厳しい山岳が続きますが、安全圏の5分というタイム差を考えながらのペース配分で良いので、戦い方は楽になると思います。逃げは容認しヴィンゲゴーとエヴェヌプールマークでレースを消化するだけで良いのですから。
 



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