クリテリウム・ド・ドフィネの最終ステージは大波乱の結果となった。TV放送が始まった段階では大きな逃げが決まっていた。総合3位のタランスキーが逃げに入っていたのには驚かされたが、タイム差は1分台で、最後の1級の登りでは捕まるだろうと見ていた。
ところが、マイヨジョーヌの周りにはアシストは誰もおらず、SKYのアシストも何人か逃げに乗っていたこともあり、プロトンのスピードがなかなか上がらない。モンターニュの登りでニーバリが仕掛けるが、コンタドールもフルームもあっさりと見送った。追走したのはマイヨブランのバンデンブロックだけだった。
がっちりフルームをマークしていたコンタドールも、ニーバリたちとのタイム差が1分近くになると、単独で飛び出した。これにSKYのアシストもフルームも全く反応できなかったのだ。
ゴールまで30kmほどを残した段階でコンタドールは大きな決断を迫られることになるのだが、 マークしていたフルームの調子が予想以上に悪く、判断が遅れてしまったのかもしれない。
単独で次々と前から落ちてくる選手を交わしながら勢い良く登って行くコンタドール。先頭とのタイム差が1分を切るあたりから、流石のコンタドールの脚色が鈍る。クルーシュベルの登りに入ってからは、全くタイム差が縮まらなくなってしまう。
前にいるのがタイム差39秒のタランスキー、59秒差のバンデンブロック、1分16秒差のニーバリなのだ。結果としてニーバリは捕まえたもののタランスキーからは1分6秒も遅れてしまった。
コンタドールとしては当面のライバルであるフルームやニーバリに先着することはできたが、思わぬ伏兵に足元を救われる格好になってしまった。ただ、レース後の表情も穏やかで、当初の予定通りの走りが出来たという満足感が現れていた。
一方のフルームはコンタドールから4分近くも遅れてゴール。総合でもトップ10入りも出来ない結果に終わった。完全にマークしていたフルームの予想以上の不調で追撃のタイミングが遅れてしまったことは確かだが、往年のコンタドールなら単独でもタランスキーを捕まえられたはずなのだ。そう考えると、今季好調のコンタドールといえどもやはり往年の力はないのかもしれない。
フルームのこの遅れは、単に落車による影響だけだとは思えない。昨日は超級の昇りでもここまで遅れることはなかったのだから。3週間のステージとはいえ、こんな日が1日でもあると、総合優勝争いからは脱落してしまう。やはり、今年のフルームは昨年の調子にはないように見える。
3強と云われたニーバリも今年は生彩を欠いている。ツール・ド・フランス本番までは3週間あり、ステージも3週間あるのだから、これから調子を上げればまだ間に合うという見方もあるが、ここ数年の傾向からは直前の大会で不調だった選手が本番で巻き返した例はないことも事実なのだ。
これはツール・ド・フランスの総合優勝を狙う選手はレース数を限定して来る傾向が強いので、本番の途中で調子を大きく落とすエースが少なくなったことが大きく影響しているのではと見ている。
従って、ケガなどがなければこの時期の調子がそのまま本番でも発揮されると見ると、この三人の中ではコンタドールが一歩リードしているといえるのかもしれない。問題はチーム力だ。いかに好調のコンタドールとはいえ、往年の力はないと見ると、アシストの力は不可欠で、ドフィネのようにエースが丸裸になるようだと、今夜のような結果になるケースも無くはない。ティンコフ・サクソがツール・ド・フランスへどのようなメンバーで臨むのかが最大の課題となるだろう。SKYもリッチー・ポートに昨年の勢いがないし、チームとしての勢いも昨年と比べるとかなり落ちている感じがある。SKYとしてはフルームの調子を戻すことが大きな課題だろう。
確かに今年は春先から若手の台頭はあるが、彼らがツール・ド・フランスを征するのはもう少し先になるだろう。となると、今年のツール・ド・フランスはコンタドールで勝てるような気がしているのだが・・・
王者コンタドールには常に不運の影が寄り添っていた。ツール・ド・フランスを初制覇した年に所属チーム(ディスカバリー・チャンネル)は解散を余儀なくされ、チームの母体共々アスタナへ移籍になるが、前年のヴィノクロフのドーピング問題の煽りを受け、主催者がツール・ド・フランスへの招待を拒否するという異例の事態に見舞われた。急遽出場したジロ・デ・イタリアで圧倒的な強さを見せて優勝するが、ASOがアスタナを招待することはなかったのである。
連覇のかかったツール・ド・フランスへの出場が叶わず、コンタドールはブエルタ・ア・エスパーニャへ出場すると、あっさりとWツール制覇を成し遂げてしまう。翌2009年にはツール・ド・フランスでは2度目のマイヨジョーヌを獲得し、初のUCIワールドランキング王者となるも、オフにランス・アームストロングの復帰が発表され、2010年はチーム内でエースの座を巡るゴタゴタに翻弄されることになる。
2010年のコンタドールは3月のパリ?ニースで3年ぶり2度目の総合優勝を飾り、4月のブエルタ・ア・カスティーリャ・イ・レオンでも総合優勝を手にしているのだから。前哨戦のクリテリウム・デュ・ドーフィネを総合2位で終えて迎えたツール・ド・フランスではライバルのアンディ・シュレックと激しいバトルを繰り広げ、第20ステージの個人TTでアンディを逆転し3度目のツール・ド・フランス総合優勝を成し遂げるのだが、ツール・ド・フランス閉幕から2ヶ月も経過した9月29日にコンタドールの広報担当者が、ツール・ド・フランス開催期間中である2010年7月21日に行われたドーピング検査結果で、クレンブテロールの陽性反応が出たことを明らかにしたのである。
1年半にも及ぶゴタゴタの末、コンタドールはCASの裁定を受け入れ2010年のマイヨジョーヌと2011年のマリアローザを剥奪されることになるのである。このクレンブテロール問題は複雑で、検出された量ははわずか50ピコグラム(0.000 000 000 05グラム)に過ぎず、直接的なドーピング効果は皆無であったが、「アンチドーピング規定に定められた処分の軽減もしくは取消しの条件(どのように禁止物質が体内に入ったかを証明できること)を満たさなかった」としてUCI及びWADAの主張が部分的に認められ、ドーピング違反とする裁定が下されたのである。
確かに禁止薬物が体内から検出されたことは事実であるが、「疑わしきは罰せず」という原則に照らせば不可思議な裁定に思えるのだが、より高度化されたドーピングを取り締まる為には、故意・過失を問わず禁止薬物摂取は有罪とするしかないというのが現状なのかもしれない。
自分のピーク時にこのような問題が立て続けに起これば、並みの人間なら精神的に破綻してもおかしくはない。トップ選手ですら一生にひとつ獲得できるかどうか分らないビッグタイトルを2つも剥奪されたのである。
しかし、2014年シーズンのコンタドールは一味違う感じがしている。過去のシーズンを見ても、コンタドールがツール・ド・フランスを総合優勝している年は、春先のパリ~ニースやバスク一周などのレースで総合優勝をしているのである。対して、昨年のコンタドールはツアー・オブ・オマーン 総合2位、ティレーノ?アドリアティコ総合3位、バスク一周総合5位という結果に終わっているのである。
今年のコンタドールは始動が2月のヴォルタ・アン・アルガルヴェと比較的遅く、ティレノが2戦目で、この後は3月24日~30日のヴォルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ(スペイン)へ出場し、アルデンヌ・クラシックを見送り、カタルーニャ一周からクリテリウム・ドゥ・ドーフィネからツール・ド・フランス本番へというスケジュールになっているという。
昨年はUCIポイントやスポンサーの意向などで出場レースが多過ぎた感があった。一時はスポンサーのティンコフ・バンクと手を切るとの発言もあったビャルヌ・リースだが、表面上はオレグ・ティンコフ氏のチーム買収で一段落しているように見える。これ以上のゴタゴタやトラブルがなくツール・ド・フランスを迎えることが出来れば、今年こそはフルーム対コンタドールのガチンコ対決が見られるに違いない。
ツール・ド・フランス2013が夜のシャンゼリゼで長く苦しい戦いを終えた。いつも想うことなのだが、グランツールの3週間はTV観戦をするだけでも結構大変なのだから、30度を越える猛暑の中をわずか2日の休養日だけで21日間を走り続けなければならない選手達にとっては過酷な日々に違いないと・・・
私も昨日30度を越える真夏日に100km越えのロングライドをして来たが、後半はバテバテなのだから、3千数百キロを駆け抜けた選手達にはこころからお疲れ様と言いたい、そして感動をありがとうと。
今年のツール・ド・フランスは昨年と同じチームが勝った訳だが、昨年のような退屈さは感じなかった。これはウィギンスとフルームの性格の違いによるものだろう。昨年は磐石を誇ったチームが、今年は早々に2名のアシストを失い、チーム力に翳りは見られたが、フルームとポートの2人の力が突出してした。
パリのポディウムの頂上には大方の予想通りフルームが立つことになった。今年のレースを見る限り、ウィギンスよりフルームの方が強かったと認めざるを得ない。早くもウィギンスの移籍話があるようだが、それも已む無しと思わせるほどフルームは強かった。2つのTTで2位と1位。加えて2つの頂上ゴールも征しているのだからそれも当然の成り行きかもしれない。1985年生まれの28歳ならこれから何年かはフルーム時代となりえる可能性はある。
ジロ・デ・イタリアでは1984年生まれのニーバリが強さを見せていた。苦手としていたTTを見事に克服して見せたニーバリとフルームの対決から今後は目を離せない。ツール・ド・フランスをスキップしたニーバリはブエルタ・ア・エスパーニャに参戦予定と聞く。ツール・ド・フランス後半に調子を上げ、表彰台をコンタドールから奪い取ったホアキン・ロドリゲスや好調なバルベルデ等が当面のライバルとなりそうだが、今年はツール・ド・フランスからの期間が短くなっているので、ツール・ド・フランス組はピーキングが難しいだろう。ニーバリのWツールは堅いのではなかろうか。
若手が台頭し始める中王者コンタドールは4位に沈んでしまった。本人は不調を口にしているようだが、最初のTTでフルームから2分近く遅れ、頂上ゴールでは1度もフルームに先着できなかったのは明らかに力の差だろう。コンタドールにしては珍しく、前半力をセーブしていたにも関わらず、見せ場が作れたのは第17ステージの山岳個人TTのみ。それも最初からディスクホイールを使用するという大きな賭けに出てのもだった。
このステージでは作戦が成功したかに見えたが、結局、そのツケを翌日以降に支払うことになってしまった。昨年のブエルタ・ア・エスパーニャ同様の奇襲作戦に出たが、フルームとSKY相手には全く通用しなかったということなのだ。ここまで力の差を見せ付けられると、コンタドールもひとりの過去の王者に過ぎない。
これまで28歳から32歳が自転車ロード選手のピークといわれたきたが、近年のグランツールの過酷なコースレイアウトなどを見ていると、選手のピークは短くなってゆくのかもしれないと感じている。勿論、ホイクトやオグレディーのように40歳を過ぎている選手達もいるのだが、それはあくまでもアシスト選手の寿命で、エース級の選手のピークは確実に短くなって行くだろう。
その結果、若手の選手達にはビッグチャンスが訪れることになる。今回のツール・ド・フランスでは総合2位のナイロ・クインターナやミカル・クヴィアトコウスキーというヤングライダーの活躍が目立っていた。ただ、若手に関しては新人賞の有力候補に名が挙がっていたT.J.ヴァンガーデレンやティボ・ピノーの例もあるので過信は禁物なのだが・・・
いずれにしても自転車ロードレース界はコンタドール、アンディ・シュレック時代からフルーム、ニーバリ時代へシフトしたことは間違いないだろう。勿論、それでコンタドールの過去の栄光が消滅してしまうことはないだろう。若干24歳の若さでマイヨジョーヌを獲得し、ジロ・デ・イタリアもブエルタ・ア・エスパーニャも征し、グランツール5勝は立派な王者の証でもある。おそらくコンタドールのピークは2009年~2010年だったのではだろうか。
今年のサクソ・ティンコフのチーム力はSKYのチーム力を上回っていたにも関わらず、ポディウムの表彰台をひとつも確保することができなかった。かろうじてチーム総合優勝だけは手に入れたが、この結果が来年の体制に微妙な影響を与えるかもしれない。また、BMCはエヴァンスからヴァンガーデレンへのエース交代ほ必死であろう。SKYのエースはフルームで確定なので、ウィギンスは古巣のガーミンへ戻る公算が高い。問題はリッチー・ポートがSKYに残るのかということだろう。ポートとフルームは共に1985年生まれの28歳なので、ポートがSKYでエースになれる可能性は極めて低い。今年の活躍で株が急上昇しているので、他チームでエースの座を約束されても不思議ではないのである。
個人的にはシュレク兄弟が抜けるTREKへコンタドールが移籍し、コンタドールが抜けるサクソ・ティンコフへポートが戻れば、来シーズンはさらに面白くなるのではと考えている。いずれにしてもこれからの選手の移籍からは目が離せないだろう。
勿論、今年はここまでフルームに完敗なので、個人の力だけでは逆転はほぼ不可能だと私も思っている。ただ、コンタドールには闘将と謳われたビャルヌ・リースが付いているのだ。昨年、リッチー・ポートを失ったが、今年はアスタナからロマン・クロイツィゲルを獲得、またニコラス・ロッシュも布陣に加えた。そして、最大の目玉はマイケル・ロジャースの獲得である。1979年生まれのロジャースは33歳のベテランで、2011・12シーズンはチーム・スカイに在籍し、昨年はウィギンスのマイヨジョーヌ獲得の立役者のひとりなのである。ビャルヌ・リースがロジャースを獲得した最大の理由は、まさにツール・ド・フランスのためと言って過言ではないだろう。
今年はツアー・オブ・カリフォルニア総合2位、ドフィネでは総合6位とチームにUCIポイントで貢献していることも確かだが、ツール・ド・フランスは全くの別物のはずなのだ。ドフィネではロジャースの表彰台を守るために、コンタドールがロジャースをアシストするというシーンも見られたが、ツール・ド・フランスでは絶対にありえないし、コンタドールの調子が余程悪くない限り、エースをクロイツィゲルで行くこともないはずである。
今、ビャルヌ・リースの頭の中を覗けたらさぞ面白いだろうなと思っている。ここまで完敗のコンタドールを本場でどう走らせるのか、チームをどこでどう機能させるのか、まさに監督の腕の見せ所なのだ。最大のライバルであったヨハン・ブリュイネールがあのような形でロード・レース界を去ることになった。ランス・アームストロングとヨハン・ブリュイネールのコンビに苦渋を舐めさせられてきたリースとしては、内心複雑なものがあるに違いない。
昨年のブエルタ・ア・エスパーニャのコンタドールのあの走りを見る限り、総合優勝は誰もが無理だと思っていたはずなのだ。しかし、たった1ステージの劇的な走りで創業優勝をもぎ取った、コンタドールとビャルヌ・リースのコンビは、今年のツール・ド・フランスでもきっと何かを見せてくれるに違いない。
コンタドールは調子がいいと前半からでもガンガン行きたいタイプの選手である。また、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャのような勝ち方はスカイ相手では無理であることはリース自身は百も承知であろう。とすれば、作戦は2つ。序盤から積極的な攻撃を仕掛け、スカイのチームとフルームに徐々にダメージを与えて行く作戦。もうひとつは全てを最終週のアルプスに全てをかけるために、前半はチームの力を温存する作戦の2つである。
しかし、TT能力を考えると、第11ステージのモン・サン・ミシェルではフルームとコンタドールのタイム差がかなり開いてしまうことになる。前半仕掛けず、このステージをフルームに楽に走られては、スカイにさらに楽な展開を与えてしまうことになる。仮に第15ステージのモン・ヴァントゥーの登りでコンタドールがフルームに差を付けたとしても、第17ステージの個人TTで再逆転を許すことは間違いないところだ。
ミラノ-サンレモでチオレックに苦杯を喫したペータ・サガンがさらなる成長を見せている。昨年のツール・ド・フランスで初出場ながらマイヨヴェールを獲得して見せた怪童が今季はクラシックハンターの称号も手にしようとしているのだ。
自転車ロードレース界でいう”クラシック・レース”とは、ヨーロッパ各地で開催されている ロードレースの形態の一つである「ワンデイレース(シングルデーレース)」(1日で競技を終了するレース)のなかで、特に長い歴史を持ち、高い格式を誇るレースを指す。ミラノ-サンレモ、ロンド・ファン・フラーンデレン、パリ-ルーベ、リエージュ-バストーニュ-リエージュ、ジロ・ディ・ロンバルディアの五つは、クラシックの中でも、とりわけ古い歴史があり、記念碑的なレースという意味合いを込めて、モニュメント (The Monuments) と呼ばれる。
今年のクラシックの初戦となったミラノ-サンレモではシルヴァン・シャヴァネルにかき回され、ファビアン・カンチェラーラを意識し過ぎて2着と苦杯を舐めることになったサガンだが、ゴール後の悔しい表情がとても印象的だった。この時のサガンの脳裏には勝てるはずのレースを落としてしまった悔しさで一杯だったのではないだろうか。逆に云うと力では負けないという自信の現れである。
続くE3ハレルベークではカンチェラーラの独走の前に1分以上のタイム差を付けられたものの、ゴールスプリントはトップで駆け抜け2位を確保。この日は勝負どころでのメカトラなどもあり、カンチェラーラの独走を許してしまったが、クラシック第2戦のヘント-ウェベルヘムではウィリーでゴールする余裕を見せての鮮やかな勝利を飾ることとなったのである。
カンチェラーラのリタイヤもあったが、23歳57日という史上2番目に若いチャンピオンの誕生は必然であった。残念ながらこのレースはTV中継がなく、勝利の美酒を共に味わうことはできなかったが、個人的にはとても嬉しい勝利となった。そして、この勝利を必然と感じさせたのが、続くデ・パンネ3日間最初のステージであった。
このレースは週末に行われるロンド・ファン・フラーンデレンへの調整という意味合いが強いレースだが、今年はマーク・カヴェンディッシュやトム・ボーネンというビッグ・ネームも顔を揃えていた。この第1ステージでサガンは自ら仕掛けてステージ優勝をもぎ取ってしまうのである。
繰り返されるアタックを傍観し続けたサガンは、残り30kmになりようやく動きを見せると、単独で波状攻撃のように仕掛けまくり、ついにはプロトンを分断し9名の先頭集団を形成し、スプリントで勝利をもぎ取るという完璧なレースを見せ付けたのである。
コンタドールがそうであるように、真の王者とは自ら仕掛けて勝つ力を持つもののことである。チームに守られて勝つことの多いロードレースにおいては例外的なことかもしれないが、こうした勝利こそが私たちファンを強く魅了して止まないのではないだろうか。勝負事には駆け引きも必要だが、近年のロードレースはその駆け引きが多過ぎて、時に退屈で味気ないものに感じてしまうことがある。
若干23歳のサガンにその王者としての風格が備わってきているように感じている。純粋なゴール前スプリントではマーク・カヴェンディッシュにまだ部があるようだが、自ら仕掛けて勝つ勝ち方を続けていけばスプリンターであってもクラッシックレースで勝てるだろうし、ステージレースでの勝利もまだまだ増えるはずである。ただ、自転車ロードレースで自ら仕掛けることは諸刃の剣でもある。仕掛けが不発に終われば惨敗もありうるからである。しかし、若いサガンには畏れずに果敢なチャレンジを期待したい。
純粋なゴールスプリントではカヴェンディッシュに、ロングスパートではカンチェラーラに一日の長がある。彼らを敵に回して勝つためには、怪童サガンの勝ちパターンが必ず必要になる。後手に回ると彼らの経験が大きくものをいうことになるのである。
週末には春のクラシック第3戦ロンド・ファン・フラーンデレンが幕を開ける。ここにきて調子を取り戻してきた観のあるカンチェラーラが当面のライバルになると見ているが、ミラノ-サンレモの時のようにカンチェラーラのロングスパートを待って仕掛けが遅れると、思わぬ伏兵に足元をすくわれることも起こりうる。カンチェラーラもサガン対策を講じている。ミラノ-サンレモでその片鱗が見えたような気がしている。サガン相手にロングスパートをしても付いて来られるだけなので、結局ロングスパートが出来ずに持ち込まれたゴールスプリントであわやのシーンを演じて見せたのである。E3ハレルベークではメカトラがあって、カンチェラーラのロングスパートを許してしまったが、ヘント-ウェベルヘムでは前述した通りの結果となった。
大本命で勝つことの難しさをミラノ-サンレモで十分に味わい、その悔しさをバネにヘント-ウェベルヘムを征したサガンのクラシック連勝に大いに期待している。その予兆がデ・パンネ3日間最初のステージにあった。続く第2ステージではカヴェンディッシュが勝ったが、この日も最終ステージもサガンは沈黙していた。狙ったレースを勝ち取る為には、時として死んだふりをして体力温存に勤めることも大切なのである。この辺りのメリハリがつけられるのはサガンが成長したのか、チームの戦略なのかは不明だが、少なくとも次のロンド・ファン・フラーンデレンまでは大本命であることは間違いがないと思っている。