今年のジロ・デ・イタリアがローマで幕を閉じました。優勝候補のログリッジとアユソのリタイヤもあり、21歳のデルトロとベテラン32歳のカラパスにサイモン・イエーツの三つ巴で第20ステージに入ったのですが、どうにも後味が悪い結末が待っていました。

7年前の忘れ物を取り戻したサイモン・イエーツを称賛する声が多いことも承知しています。ただ、ステージ勝利が無いサイモンが最後の山岳でライバルに5分近い大差を付けて大逆転のマリアローザを獲得したことに納得出来ない自分がいるのです。前日のクイーンステージでもデルトロとカラパスに遅れをとっていたサイモンがマリアローザをたった1ステージで手にしたのですから。

コッレ・デッレ・フィネストレ(登坂距離18.5km/平均勾配9.2%)の麓でカラパスがアタックしそれに反応したのはデルトロだけという状況で、サイモンとの差を広げて行くのかと思いきや、この二人が牽制状態でペースが上がらず、サイモンに交わされ逆にタイム差を広げられても、二人の牽制が続きました。

確かに1時間もの長い登坂を考えれば無理は出来ないのは分かりますが、総合2位から3位へ落ちるカラパスはともかく、マリアローザを失うデルトロが動かないのには失望しました。チームとしてはここで無理をしてヤングライダーまで失うことは出来ないと考えたのかもしれませんが、デルトロはおそらくポガチャルに叱られるのではないでしょうか?第17ステージで勝利した後に「失うものは何もない」と答えていた選手なのです。ならば、全力でマリアローザを守りに行く走りをするべきだったのではないでしょうか。

何よりチームがおかしかった。総合TOP15に4名の選手がいて、チーム総合でも断トツのUAEがフィネストレのカラパスのアタックにデルトロだけが付いていく状況というのが不思議でならないからです。マイカでもアダムでもマクナルティでも良いからカラパスのマークに付けることは出来なかったのでしょうか?あるいは、カラパスを行かせてチームでカラパスを追うという選択肢もあったはずなのです。さらに遅れてアタックしたサイモンにも誰もマークに入っていません。

この段階でEFはカラパス一人だったのです。一方、サイモンには逃げていたワウトが前にいて、フィネストレの下りでサイモンに合流した時点でゲームオーバーでした。UAEは逃げにもアシストを送り込めない展開で、カラパスのアタック一発で崩壊。それも誰も付いて行けないポガチャルのアタックではないのです。マリアローザのアシストなら何十分遅れようとライバルはマークするのはロードレースの鉄則でしょう。

ポガチャルというスーパー・エースがいるチームで、個々の能力は高いのにチームとしての纏まりに欠けるというのが最近のUAEチーム・エミュレーツの印象です。ポガチャルがいればアシストが最後まで仕事をしなくても勝手に勝ってくれることに慣れてしまっているのかもしれません。チームとしてはここまで40勝を挙げながら、マリアローザはヴィスマ・リアースバイクというのは、一昨年までのUAEのようです。ワールドランクは1位なのに3大グランツールは全てユンボ・ヴィスマに持っていかれた年でした。

ログリッジがチームを離れ、昨年こそ3大グランツールは未勝利に終わっていますが、今年はサイモン・イエーツをジェイコから獲得し、エースナンバーはワウトに背負わせて、チームとしてマリアローザを獲得して見せたのは流石です。万が一ポガチャルがツールでヴィンゲゴーに敗れるようなことがあれば、再びヴィスマが3大グランツール全制覇ということもあり得ます。
結果からみれば、サイモンのステージ優勝こそありませんでしたが、ワウトの1勝にコーイが2勝と勝利数でもUAEを上回ったヴィスマ。選手層では劣るチームが戦術で勝利するというのがヴィスマというチームなのです。とにかくグランツールには強さを発揮するのです。ポガチャルでしかグランツールを勝てないUAEとは大きな違いでしょう。

そんなことを考え鬱々としていたのですが、良い面に目を向けると、イサーク・デルトロという新星の実力が証明されたことは大きな喜びです。昨年のツアー・ダウンアンダーでいきなりステージ優勝をしていた選手でしたが、まだ線が細くひ弱な印象の残る選手でした。ところが、今季は同年代のモルガドやヤン・クリステンともに勝利を重ね、フアン・アユソというエースを押しのけてグランツールの総合2位という素晴らしい結果を残したことは事実なのです。

これでチーム内ランクもアユソを越える2位に上がり、育成面からツールはスキップすると思いますが、ブエルタではエースナンバーを背負っているかもしれないのです。そして、いよいよ今週末にはスーパーエースのポガチャルが久々に登場します。