ちょうど僕がメーデーのサウンドデモに参加していたその時間帯に、太平洋の向こう側、カリフォルニア州南部の砂漠地帯コーチェラ・ヴァレーで行われていたロック・フェスティバルにて、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンが7年ぶりのライブを敢行していた(現地では4月29日夜)。現地ツアーに参加した日本のファン(うらやましー!)のレポートが、ファンサイトで読める。
年内にあと3回ほどライヴ出演が決まっているだけで、ニューアルバムの製作の予定などは発表されていないが、どうやら期間限定的なものではなく、正式に活動再開することは間違いないらしい。
僕は昔の人気バンドのいわゆる「再結成」話には、まず興味を惹かれない。僕の知る限り、再結成して過去を上回るような作品なり活動なりを実現できた例が、ほとんどないからだ。結局「昔の方が良かった」「昔みたいには行かないよな」で終わってしまう。あるいは、下手に「円熟」してしまった分だけ、かつての個性が失われている場合も多い。それこそ、なんのための再結成だか、本末転倒というか、意味不明なのである(金のため、と堂々と宣言して再結成したセックス・ピストルズは、ある意味誠実だった)。思い入れのあるバンドであればあるほど、そういう場合の失望感も大きい。だから、自然と何の期待もしない、というスタンスをとる癖がついてしまっている。
だが、このたびのレイジについては、ちょっと趣が違う。
彼らの場合、「解散」したのではなく、ヴォーカルのザック・デ・ラ・ロッチャが一方的にバンドを飛び出してしまったことが、活動停止の原因だった。残されたメンバーは、別のヴォーカリスト──元サウンドガーデンのクリス・コーネルを迎えて、オーディオスレイヴという新バンドをスタートさせた。
クリス・コーネルは、疑いなく見事な歌唱力を備えた、シブいヴォーカリストだ。ただこの彼と“元レイジ”の3人が組み合わさってできたオーディオスレイヴというバンドは、質は高いけれど、ある意味すごくフツーのロック・バンドだった。こんな言い方、オーディオスレイヴの熱心なファンからは、ふざけるな!と怒られそうだが、僕にとっては真実なのだから仕方ない。
逆に言えば、レイジの魅力とは、「反体制」云々のポリティックな要素以前に、見るからにフツーでないところとフツーのところが、がっぷり四つに組んでいた姿にあった。それは、リフを中心に構成したヘヴィ・ロックの中にエフェクトを多用したミュージックコンクレートのごとき要素が入っていたり、歌が一貫してラップであったりという、ありそうでなかった取り合わせのせいだった。それが、オーディオスレイヴでは、コーネルという正統派のヴォーカルを迎えたことにより、ほとんどフラットに均されてしまったのである。それは新しいバンドというより、レイジ以前の「フツーのロック・バンド」に「後退して」しまった印象すらあった。あるいは境界越境型のレイジに対して、トラッドなロックにわざわざ領域を狭めている感があった。だから、そのオーディオスレイヴが終わって、レイジが再スタートと聞いても、やっと本来の仕事に戻るんだな、と思えてしまうのだ(それじゃコーネルの立場がないという話もあるけれど、彼は本当に才能のある人だから、他所でも活躍できると思う)。
それに、一方のザック・デ・ラ・ロッチャは、ソロ・アルバムを作ると言っておきながら、この7年間仕事らしい仕事をしていない(市民運動には地味にコミットしていたようだが)。こちらはより明白に、「やっと仕事を始める」という感じである。
そういうわけでレイジの場合、再結成と聞いても、「やっとそうする気になったか、やれやれ」という気持ちを抱くファンが(日本でも、海外でも)圧倒的なのではないかと推測できる。
そうは言っても、再結成の意義を証し立てることは、たやすいことではない。ただ昔のスタイルをそのまま踏襲したような新曲を量産するだけなら、待たせ続けたファンはもちろん、耳の肥えた他の多くの若いリスナーを納得させることはできないだろう。
レイジ不在の間にも、かの地のシーンは進化を遂げている。システム・オブ・ア・ダウンやマーズ・ヴォルタは、彼らの1歩も2歩も先に行ってしまった。まだ聴いていないが、トレント・レズナー率いるナイン・インチ・ネイルズの新作も、いよいよ素晴らしい出来だという。レイジにはレイジにしかないグルーヴや扇動力が健在であるとしても、そんな「昔取った杵柄」だけで勝負するようなことはやめてもらいたい。
ましてザックに対しては、2001年「9.11」以降のアメリカに吹き荒れた反動の嵐の中で、あいつは一番いてほしい時にいてくれなかった、という恨めしい思いを抱いている人だっているはずだ。彼がどんな「言葉」をもって、このブッシュ再選後のアメリカに切り込んでいくか、今こそ真価が問われる。
なーんて評論家みたいな口調でまとめつつ、やっぱ素直に嬉しいは嬉しいのだな。
僕が現時点で願うことは2つ、これまでのスタイルに囚われない斬新な曲をトライすること、それと、来日時にはコンサートだけでなく、フリーターのデモにも参加してくれること、である。この2つ目は、別にシャレで書いているわけではない。早くも最近、フロリダの移民労働者の組合を支援するイベントに、ザックとトムがそろって参加したという、意を強くするようなニュースが入ってきているからだ。
*コーチェラでのライヴ、感動的なオープニングの模様はこちら(曲は「Testify」)。