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心のたねを言の葉として

「隠者の許由(きょゆう)と巣父(そうほ)」の話

2021-09-29 04:03:48 | 言葉

「隠者の許由(きょゆう)と巣父(そうほ)」の話



       (一)

中国古代の伝説上の帝王、尭(ぎょう)の時代のこと。高名な賢者にして隠者の許由(きょゆう)は、その人格の廉潔さは世に名高く、当時の尭帝がその噂を聞き許由(きょゆう)に国を禅譲(ぜんじょう=天子がその位を世襲としないで、有徳の人にゆずること)しようとして言った「月と太陽が出て世の中を明るく照らし出しているのに、松明(たいまつ)を灯したままでいても意味はありません。すでに恵みの雨が降っているのに、あくせく田に水を引いているのは徒労というほかありません。今や、あなたがいらっしゃるのに私が今の位に付いているのは無意味、徒労そのものです。国政をお任せいたします」

(参考)

①帝王尭・・・古代中国の伝説上の聖王。暦を作り、徳をもって理想的な仁政を行った。後を継いだ舜(しゅん)とともに後世理想の天子とされ、その政治は「尭舜の治」と称される。

       (二)

すると許由は答えて言った「あなたが国を治めになられ、すでに立派に治まっています。私があなたに代わってその位に付いたとて、名誉職で実質何の変りもないのです。私は美名を求めない。鷦鷯(みそさざい)は森林に巣を作るが、それは一枝に過ぎない。土龍鼠(もぐらねずみ)は渇きをいやすために川を求めるが、飲むのは一腹の水だ。私と国の関係はそのようなもので、天子の富貴はあなたのものです。貴方は今のままで安心し、帰って休んでいればいいのです。私は政治に関わってもなすこともない。料理人が料理をしないからと、神主が祭器を踏み越えて来て、包丁(ほうちょう)を握ることはないのです」と。そして、この後(のち)、許由は「汚らわしいことを聞いた」といって、潁川(えいせん)の水で耳を洗った。又、許由が潁水(えいすい)で耳を洗っているのを見て、やはり尭帝から天下を譲ろうと言われた伝説の高士、巣父(そうほ)は、そのような汚れた水を牛に飲ませることはできないとして、牛を引いて帰っていったという。

(参考)

①高士・・・志が高くりっぱな人格を備えた人物。人格高潔な人。又は、世俗を離れて生活している高潔な人物。

②巣父(そうほ)・・・中国古代の伝説上の隠者。樹上に巣を作って住んだという。

 

「許由巣父図」(狩野永徳)



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