今回は、金持ちと貧乏人が、お互いに相手をやり込める問答です。
問答なので、金持ち(上欄)、貧乏人(下欄)でやりとりになっているはずですが、はっきりしないのも多いです。番号をふっておきましたので、金7vs.貧7のように対応しているものを突き合わせてみてください。
いつものように四分割して、右上から順に。
かねもち
びんぼう人 せりあい問答
◎かねもちの太平楽
金1・きん"/\ハせかいのまわりものじやとへらず口いふびんぼうにんのくせ
(金銀は世界の回りものじゃと減らず口言う、貧乏人のくせに)
金2・かねしだいのよのなかてかけめかけハじゆうじざい此世からのごくらくじや
(金次第の世の中、手掛け妾は自由自在、此の世からの極楽じゃ)
金3・しよく人やはたらきどハ年中くハず二はたらいたところが高が一文目しや
(職人や働き奴は年中喰わずに働いたところで高が一文目じゃ)
金4・なんぼへんねしおこしてもちゑやさいかくでかねハできぬものじや
(なんぼへんねし起こしても、知恵や才覚で金はできぬもんじゃ)
【へんねし】ねたみ
金5・からだがたつしやでもかねがなけねばいきているかひがないわい
(体が達者でも、金がなけね(れ)ば生きている甲斐がない)
金6・まへ/\ハ人もいか?ふたがじせいがわるいゆえなんぎするといふかいしよなし
(前々は人もいかふたが、時世が悪いゆえ難義するという甲斐性なし)
金7・よあそびやあさねばかりしてゐるのがびんぼうにんのこうふつじや
(夜遊びや朝寝ばかいしているのが貧乏人のこうふつじゃ)
金8・しやくせんのことハりのくふうに日をくらしめうとけんくわハかりするのらつぼ
(借銭の断りの工夫に日を暮らし、夫婦喧嘩ばかりする野良壷)
金9・人にそんかけぬらくヽいふてゐるびんぼうにんぜにはらわぬを手がらにするのか
(人に損かけぬらくら言うている貧乏人銭払わぬを手柄にするのか)
【ぬらくら】のらりくらり
金10・子どもばつかりたくさんで一生じゆつないめをして居るびんぼうにんめ
(子供ばっかりたくさんで、一生術無いめをしている貧乏人め)
【術無い】なすすべがなく困り果てている
金11・ねんちうしちおいてぎちくしてゐるのハこのよからのがきどうじや
(年中質置いて偽蓄?しているのは、この世からの餓鬼道じゃ)
金12・かねかつて人をたをすものハかほハ人でもこヽろハちくしやうどうせん
(金借って人を倒す者は、顔は人でも心は畜生同然)
金13・もめんのせんだくものでいつしやうくらすもほめられたことでも有まい
(木綿の洗濯物で一生暮らすも誉められた事でも有るまい)
金14・なんぼながいきしてもくふやくわすでハやつとうんのよいのでもあるまい
(なんぼ長生きしても、食うや食わずでは、やっと運の良いのでもあるまい)
金15・びんほうにんハきらくなといふハまけおしミのへらずぐちじや
(貧乏人は気楽なと言うは、負け惜しみのへらず口じゃ)
金16・びんほうにんのひずんかきいたいのハみるのもなか/\ゐじましい
(貧乏人の疥癬患痛いの見るのもなかなかいじましい)
金17・一文や弐文のぜににつまつてうろ/\するのハこのよにすんでゐるかひかあるか
(一文や弐文の銭につまってうろうろするのは、この世に住んでいる甲斐があるか)
金18・わずかなぜにもふけによるひるはたらいてゐるのハさながらちゑがなさそふな
(わずかな銭儲けに、夜昼働いているのはさながら知恵がなさそうな)
金19・手のひらほどなうらがしやにすんでゐるのハ井のうちにゐるかいるどうぜん
(手の平ほどの裏貸し家に住んでいるのは、井の内にいる蛙同然)
【裏貸し家】裏通りや路地にある貸し家
金20・ひんすりゃとんすと弐百や三百の銭て五十両も百両もとりたがるさんやうなし
(貧すりゃ鈍すと弐百や三百の銭で、五十両も百両も取りたがる算用無し)
福の神 きん"/\がこころのままになるとてもみやうがをおもひあだにつかふな
(金銀が心のままになるとても、冥賀を思い徒に使うな)
◎びんぼう人のへらず口
貧1・がきどうぜんにしてかねのバしてもむすこのだいにハこじきするぞよ
(餓鬼同然にして金伸ばしても、息子の代には乞食するぞよ)
貧2・じひもなさけもしらずよくばつてかねためるハこのよからおにのきやうがいじや
(慈悲も情けも知らず欲張って金貯めたるはこの世から鬼の境涯じゃ)
貧3・たることをしつてきまヽにくらすがふくじんのおしゑじやわい
(足る事を知って気ままに暮らすが副神の教えじゃわい)
貧4・人ハいのちがものだねたつしやでさへゐれバかねハひとりできるわいやい
(人は命が物種、達者でさえいれば金はひとりできるわいやい)
貧5・なりあがりのくせにぼん/\いヽなまたなりさがるぞよ
(成り上がりのくせに、ぼんぼん言いな、また成り下がるぞよ)
貧6・いゑをたんともつて風のふくばんハあんじてながらのよよふねぬたわけ
(家をたんと持って、風の吹く晩は案じてながらの夜、よう寝ぬタワケ)
貧7・あさはやうおきてほうこう人をいぢりまわしてやつき/\いふがたのしミかい
(朝早う起きて奉公人を弄り回してやっきやっき言うが楽しみかい)
貧8・つかふたりへるハぜにかねとしれやいきよろ/\したらかミこ一まいニなるぞよ
(使うたり減るは銭金と知れや。きょろきょろしたら、紙衣一枚になるぞよ)
【紙衣(かみこ)】紙で作った衣服
貧9・せかひハいろとさけずぼらでくらすかといつしやうのとくをしらぬかいや
(世界は色と酒、ずぼらで暮らすかと一生の徳を知らぬかいや)
貧10・子もないのにむしやうにかねのばししんだあとたにんにしてやらるヽおおばか
(子も無いのに無性に金伸ばし、死んだあと他人にしてやらるる大馬鹿)
貧11・かねもつて人にそんかけられて青なつてゐるのがなんぼうもある
(金持って人に損かけられて青なっているのがなんぼうもある)
貧12・かねかしてびんぼうにんをゑじめるハこのよのおにじやぞ
(金貸して貧乏人をいじめるはこの世の鬼じゃぞ)
貧13・なんぼきぬずれでも一生かねにつかわれてゐるけすほうこう人じや
(なんぼ衣擦れでも一生金に使われている下司奉公人じゃ)
貧14・かねがあつてもきぐろふしてゑてとんしするハうんのわるい第一じや
(金があっても気苦労して、えて頓死するは運の悪い第一じゃ)
貧15・かねもちハくらひものがすぎるゆへわかじにしたりしつやミがおほひ
(金持ちは喰らい物が過ぎるゆえ、若死したり疾病みが多い)
貧16・とかくあほうやかたわものやまひものヽおほひかねもちのこせがれ
(とかく阿呆や片輪者病者の多い金持ちの小せがれ)
貧17・かうまんなおうへいづらハ人ににくまれてぼつらくのもとじやぞ
(高慢な横柄面は人に憎まれて没落の元じゃぞ)
貧18・はなみゆさんにのりがきてせつきばらひにあをいかほをするなよ
(花見遊山に乗りが来て、節季払いに青い顔をするなよ)
【乗りが来る】調子に乗る
【節季払い】盆や暮れなど年に2~3回、まとめて支払いをする方法。江戸時代、一般化した。
貧19・大きなうちにすんでもないしやうでからくりくめんハしゆらどううじや
(大きな家に住んでも、内緒でからくり工面は修羅道じゃ)
【からくり】やりくり
貧20・あるがうへにもほしがのてめるこんじやうとこヽろにおぼへがあろふかな
貧乏神 くハらくのたねぞと○てちへ○・・・・○
(苦は楽の種ぞと〇て知恵○・・・・○)