面白古文書『吾妻美屋稀』の4回目、『歌舞伎狂言穴さがし』です。歌舞伎の穴を突いています。
上段の右から順に見ていきます。
新版 歌舞妓狂言穴さがし
・質に入た宝物をうけもどすに利足出したを見たことなし
(質に入れた宝物受け戻すに、利息出したを見たこと無し)
・やつこのそうじに竹ぼうきではいても塵取が有たことなし
(奴の掃除に竹箒で掃いても、塵取りが有ったこと無し)
・末社たいこが大さハぎの酒もり二作り身すひ物のでたことなし
(末社太鼓が大騒ぎの酒盛りに、造り身、吸物の出たこと無し)
・茶見世の女子が手桶さげて水くミに往てもどつた事なし
(茶店の女子が、手桶提げて水汲みに来て、戻った事無し)
・此通りちうしんとかけ出しポント切連ぬといふことなし
・長持ちの内にかくまハれて居るものが小べんに出たことなし
(長持ちの内に匿われている者が、小便に出たこと無し)
・寶の剣の身をすり替るにドノ鞘へでも合ぬことなし
(宝の剣の身をすり替えるに、どの鞘へでも合わぬこと無し)
・むほん人の絵姿ハ黒し外の着もの見たことなし
(謀反人の絵姿は黒し、外の着物見たこと無し)
・勅使上使の贋ものハしたに木綿どてら着て居ぬことなし
(勅使、上使の贋者は、下に木綿の褞袍(どてら)着ていぬこと無し)
・しゆりけん打とパツト立のろし木の根もとへ仕掛たをミた事なし
(手裏剣打つとパッと立つ狼煙、木の根元へ仕掛けたを見た事無し)
・お家の伯父伍ハいつでも敵やく押領のわる工みせぬハなし
(お家の伯父御は、いつでも敵(かたき)役、押領の悪巧みせぬこと無し)
・敵もちの浪人が大切までに出世せすに居たことなし
(敵持ちの浪人が大切りまでに出世せずにいたこと無し)【大切】歌舞伎の興行で一日の演目の最後につける一幕。
・若とののほうらつに太夫のあげ代梻ふたことなし
(若殿の放埓に、太夫の上げ代払うたこと無し)
・宮寺の場へ参詣の仕出しがさいせん上て拝んだことなし
(宮寺へ参詣の仕出しが、賽銭上げて拝んだこと無し)
【仕出し】劇中で、通行人や群衆など、最も軽い役。
・大盃で大ぜいが呑でもてうしのつぎ目を仕たことなし
(大盃で大勢が呑んでも、銚子の継ぎ目をしたこと無し)
・世話場の門口にしやうじ入れたり簾戸をはめたことなし
(世話場の門口に、障子入れたり、簾戸(すと)をはめたりすること無し)
【世話場】町家・農家などの日常生活を演じる場面。
【門口】家の入口
・松の木のうへにてつぽうを持た忍びものしゆびよふやつたことなし
(松の木の上に鉄砲を持った忍び者、首尾よくやったこと無し)
・欠落して来た女郎をかくす押入に物の入てあつたことなし
(欠落(かけおち)して来た女郎を隠す押入に、物の入れてあったこと無し)
・銀箔のお月さんハいつでも丸いかけた月のでたことなし
(銀箔のお月さんは、いつでも丸い、欠けた月の出たこと無し)
・落人ハ笠と杖ばかりを持て路銀の用意あつたことなし
(落人は、笠と杖ばかりを持ちて、路銀の用意あったこと無し)
・サアすつぱりおやりなさんませとべつたり居るものをころしたことなし
(サアすつぱりおやりなさんませとべったり居る者を殺したこと無し)
【べったり】尻を落として座るさま。
・一トかせ切れた手おひ上着の肩をぬがぬといふことなし
(一(ひと)かせ切れた手負い、上着の肩を脱がぬと言うこと無し)
【かせ】刀で切る回数を表わす
・むほん人のほろぶるハかゞり火に丁ちん昼であつたことなし
(謀反人の滅ぶるは篝火に提灯、昼であったこと無し)
・顔見世の中かたは後室バかり男あるじが有た事いつもなし
(顔見世の中かたは後室ばかり、男主が有った事いつも無し)
完全制覇とはいかなかったまでも、赤は最小で済みました