先回のブログで、江戸時代の土佐派画家、土佐光孚の能画『江口』を紹介しました。今回は、同じく能『江口』の土人形です。
幅 13.4cm x 奥行 5.7cm x 高 14.0cm 。昭和。
花魁姿の江口の君が、白象に乗っている人形です。白土に、控えめな彩色が効果的です。
俗にまみれた女郎の身ながら、仏法の真理を説き、解脱して普賢菩薩となり、象に乗って西の空へ消えて行く所です。能『江口』では、淀川の舟遊びの船が象となり、江口の君は次第に透明で崇高な普賢菩薩の姿に変わっていきます。もちろん、能舞台ですから、大げさな仕掛けや変わり身の演出はありません。かわりに、観客の側が、演じられる舞台から、象に乗って去って行く江口のイメージを自分の中に創っていくことになります。
相良人形のこの品は、そのような『江口』にうまくマッチしていると思います。特に、相良人形の特色である三角眼でややうつむき加減の表情が、薄幸の女郎から気高く崇高な菩薩へと変身していくさまを良く表していると思います。
この品の作者、相良隆は、江戸時代、寛政年間に、米沢(山形県)で始まった相良焼の7代目、戦中に途絶えた相良焼を、戦後復興させた人物です。
能の土人形では博多人形が有名ですが、写実的な博多人形とはまた異なり、相良人形は、能の奥深さを素朴な姿形の中に秘めていると言えるのではないでしょうか。