福岡タワーとの対話

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松本清張作『渡された場面』を読む

2019年05月25日 01時47分38秒 | 徒然随想
2019年5月25日土曜日、天候晴れ。午前1時30分現在時外気温23℃湿度68%、南東の風2.4m/s。
昨日は時間休をとって3時間早めに退社した。
午前午後の半休の他に、1時間単位で有休がとれる制度だ。

昨年購入した本を再読した。

松本清張著『渡された場面』である。

2018年1月に購入したkindle版である。

これまでに数回TVドラマ化され、ご存知の方も多いかと思う。
ネタバレだが、
佐賀県呼子町(現唐津市肥前町、作中では坊城町)の旅館「千鳥旅館」に一人の男性が投宿する。
小寺康司と言う作家である。小寺の係女中を務めるのは信子。
信子には唐津市の陶磁器店次男・下坂一夫という恋人がいて、下坂は同人誌「海峡文学」のメンバーでもある。
宿滞在中に小寺は数日間(2〜3日)外出し、宿を留守にした。
その間、掃除目的で信子は部屋に入る。
読みかけの新聞の下に数枚の原稿を見つけ、つい読んでしまう。
文面の内容に惹かれた信子は、恋人・下坂の文学の参考になればと思い、原稿を書き写す・・・

と行ったような流れであるが、
小寺が宿を発ったあと、ゴミ箱に捨てられた数枚の原稿(信子が書き写した原稿)を見つけた信子は、
それをハサミで細かく絶ち、風舞う玄界灘の岸壁から海に捨てる場面がある。

この場面、同じ松本清張作『砂の器』の中で、中央線を走る列車の車窓から、
細かく切り裂いた手紙(実際には布)を飛ばす“紙吹雪の女”を彷彿とさせた。
原作に有ったかは記憶に定かではないが、
見た同名の映画の中での1シーンとして印象的だった。

『渡された場面』の面白さは、福岡と四国の二つの殺人事件が、
繋がり無く平行に進んでいきながら、それが一つに合流するところであろうか。
複線区間の2つの線路が、単線区間で合流するのと同様に。

この作品は1976年に約半年間、週刊誌に連載されたものだが、
作中出てくる実名の地名(唐津、福岡、深江、宗像等々)は、この作品を身近なものとした。

福岡の殺人事件、作中に事件として扱われるのは最終局面であるが、
事件の加害者・下坂の動機はまことに身勝手極まるものだ。
概して素質がない人間ほど、人以上に素質が有ると勘違いし、
それらしく振る舞うもので、下坂もその類の人間だった。

そのことは下坂が書いた作品の中で、盗作した6枚の原稿の箇所と異なって描かれたことで
かえって目立ってしまい、読み手には作品全体の中で違和感を覚えさせてしまうのである。

下坂は、信子の他に福岡のバーの女性とも情事を重ね、
同時期に二人の女性が妊娠する。
最後はバーの女性を自分の連れ添いと選んだことで、
信子の存在がじゃまになった。

その信子を始末するために選んだ場所は偶然にも、連れ添いに選んだ女性の伯父伯母の住む、
家の近隣でも有った。

この作品は読み進むに連れ、人間の情欲とか自己中心的で身勝手な振る舞いを、
文学青年もどきの男に演じさせ、その男の犠牲者になった女性の悲劇を綴っている。

四国で起きた殺人事件でも同様に、身勝手なふるまいの犠牲者になったのも女性である。
作品全体に覆う鬼と化す人間の本性に、慄然とした思いは禁じ得なかった。

当方の青年時代、友人と競うように清張作品を読んだものだが、
今の時代でも、自己中や身勝手な性格の人間が起こす事件事故は後を絶たない。
新たな興味を持って清張作品に再び接しているが、この人の生い立ちから
読み返してみるのも面白いかも、と思っている。





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