真似屋南面堂はね~述而不作

まねやなんめんどう。創業(屋号命名)1993年頃。開店2008年。長年のサラリーマン生活に区切り。述べて作らず

『サイゴンハートブレーク・ホテル―日本人記者たちのベトナム戦争』 (平敷安常さん)

2011-02-27 | 読書-エッセイ/小説etc
サイゴンハートブレーク・ホテル―日本人記者たちのベトナム戦争
平敷 安常【著】
講談社 (2010/12/09 出版)

第1章 異色のジャーナリストたち
第2章 韓国から来た孤高の名カメラマン
第3章 私のロバート・キャパ像
第4章 戦争カメラマンの雑感
第5章 カメラマン・放送記者の仲間たち
第6章 日本人記者群像
第7章 記者たちの戦争症候群

前作
キャパになれなかったカメラマン <上><下> ― ベトナム戦争の語り部たち
の続編ね。

先日のテレビ番組
「叫び声が聞こえる~ジャーナリストたちのベトナム戦争~」
は、本書の取材旅行でもあったようだ。
旧友等を訪ねる旅にテレビカメラが同行したのだな、ふむ。 

アメリカ在住の著者が手紙やメールで昔の戦友(同業者)に問い合わせを送り、回答を得る手法は前作と同じ。
この手法、意外といいかも。

相手は、面会するよりもじっくりと、自分と向き合って回顧することができるみたい。
誠実で快活らしい著者の人柄もあるのだろう。

さらに、著者はアメリカのテレビ局のテレビカメラマンという立場だったので、日本の記者やスチールカメラマンからは、もろに競合するわけでもないということで、同業者ということではライバルではありながら、ワンクッションあるような…というのもよかったかも。

日本の大手マスコミ各社は、記者たちに、「これはアメリカの戦争なのだから、命を危険にさらす価値はない。安全には十分配慮せよ・・・」などと言っていたようだ。
といいつつ、インパクトのある従軍記事の連載物などが載ると購読部数が増えるので、ベトナム戦争の記事は経営的には極めて重要。

で、記者たちには無言の圧力が?
または、(無言どころではなくて)「分ってるだろうな」みたいな?

若手の最初の海外特派員がサイゴン、というパターンが多かったようだ。
ここで認められて将来が開けるかどうか、いきなり正念場、という立場に立たされた記者たち。

さらに、カメラマンから言わせると、記事は現場に行かなくても書けてしまったりするが、写真はそうはいかないのだぞ、と。
著者によると、実際、著者とサウンドマンが激しい戦闘に従軍して迫力ある映像を撮って帰ってきたら、支局で酒盛りしていた記者たちがその映像をもとに臨場感ある原稿を書き、自分の名前で送稿したこともあったようだ。

記者自身が現場でどうのこうのと書けばうそになるが、巧みに表現して、読者が勝手に誤解するように仕向けることは可能でOKというわけか。
捕虜になった時用の身分証明書というものがあって、記者のは大佐待遇で願いたい旨の記載があり、カメラマンのは少佐待遇と、差があった由。

「解放区入り」で競うマスコミ各社。
仲介役の取り合いでトラブルも。

ん?解放区って何か、って?
南ベトナム領内で、ベトコン(解放勢力=共産勢力)が支配していた地域があってね、そう呼ばれたの。

サイゴン陥落に伴う有名な写真を取ったオランダ人カメラマンHugh van Esの逝去に際して。
以下の写真はサイゴン陥落の前日、アメリカ大使館近くのフランス文化センタービル屋上から米軍へりが脱出する南ベトナムの人たちを避難させる光景です(古森義久さん)
じつはCIAの寮だったみたい。

これが、当初、「大使館屋上」と伝えられ、すっかり定着してしまったという、一例。
当時のサイゴンのアメリカ大使館の屋上から大使以下のアメリカ人とベトナム人「協力者」をヘリコプターで脱出させる作戦

BBC:In pictures: Hugh Van Es

The Guardian, Wednesday 20 May 2009
Obituary: Hugh van Es
Dutch photographer who took the iconic image of fleeing Americans during the fall of Saigon
"The photograph has usually been assumed to be of the US embassy, but in a newspaper article a few years ago, Van Es wrote: "If you looked north from the office balcony, towards the cathedral, about four blocks from us, on the corner of Tu Do and Gia Long, you could see a building called the Pittman Apartments, where we knew the CIA station chief and many of his officers lived."

テレビ番組にもご登場、本書にも詳細ご紹介があった今城氏。
フォトジャーナリスト 今城 力夫(いまじょう りきお)

ほんとだ、「レクイエム・・・」日本版の訳者は大空氏だった。
『レクイエム ヴェトナム・カンボジア・ラオスの戦場に散った報道カメラマン遺作集』1997年
編:ホースト・ファース  
編:ティム・ペイジ  
訳:大空 博

本書でベトナム経験の記者たちが、その後海外特派員ポストを歴任するなどしつつ社内で栄進し、なかには早期退職して大学教授を務めたりして、70歳になってそれも引退して悠々自適…というパターンありと知る。
また、新聞社で要職(最終は副社長)を歴任され、系列のテレビ局の会長ポストを経て引退…というケースも。

著書の紹介もあったので、そのうち読んでみようかと思うなど。
本書では、「社会部長の後、管理部門やテレビ業界も経験する」と記されている「牧記者」、じつはこんな華麗なるご経歴。

テレビ業界参入時の紹介記事だね
記者時代の経歴も含めてきちんと書くとこんな

前者は、記者時代の社会部一筋云々など全く無視していて、「親会社で役員ポストを歴任したエラい人です」としか言っていない。
後者は、著書の紹介なので、社会部の記者出身だと強調。

で、平敷さんのは、ホントにさらりと、「社会部長の後、管理部門やテレビ業界も経験する」だからね。
「ジャーナリストからサラリーマンの世界に転じて栄達したが、お役目を終えてまたジャーナリストに戻ってきた」という整理ね。

もしかして、ご本人の指定があったのかもしれないと思うなど。
「一社会部記者として書いてくれ」とか何とか?
で、リクエスト通り「牧記者」と記載する平敷カメラマン、だったりして?

だとしたら、なかなかいい話っぽい鴨。
全くの想像だけど。

キャパ「倒れる兵士」のヤラセ疑惑の件。
著者の結論は、安全と思われるところで兵士にステージ(まあ、やらせですわな)を頼んで、それに応じた兵士が颯爽と突撃するところを撮影していたところ、何処からか狙撃されてしまい、ちょうどシャッターを切った瞬間に当該兵士に命中し即死…というもの。
「ヤラセのつもりでスタートして、結果としてはヤラセでなくなった」という、命懸けのヤラセ案件か。

新たな疑惑も?
nytimes 17 Aug 2009
New Doubts Raised Over Famous War Photo

記載があった、プエブロ号事件の米乗員中指立て写真事件。
USS Pueblo-Sailors Giving the Middle Finger?
「ハワイの幸運のサインなのだ」とか何とかいう説明で通そうとするが…。

THE DIGIT AFFAIR

情報収集目的の艦船や航空機が捕まってしまう、といえば(話は逸れている・・):
2001年の海南島事件、覚えてる?
Hainan Island incident April 1, 2001

じつは、冷戦期にも、電子偵察機を北朝鮮に撃墜されて泣き寝入りということがあった。
EC-121 shootdown incident 15 April 1969
出発地は厚木だよん。

捕まった乗員が写真等を取られる際の密かな抵抗、といえば:
プエブロ号乗員の中指立ては露骨だが、1991年湾岸戦争の際にも、イラクに撃墜された英米パイロットがイラクのテレビに不本意ながら出演を強要されて、「イラクの皆さんごめんなさいハンセイしてます(棒読み)」みたいなことを言わされたことがあった。

その際、(殴られて)顔にあざを作ったパイロットたちが、「嫌々出てるんだからね!」と密かにアピールしていたな。
イラク側スタッフの英語の訛りを真似て、自分の通常のアクセントではない表現で、母国語とは思えない風に棒読み丸出しで強要された原稿を読んだりしたのだっけ。

大森実氏の件
これ、そっけなさすぎじゃない?

65年9月、日本人の全国紙記者で初めて北ベトナムのハノイに入り、現地からベトナム戦争の実態を報道し、高い評価を得た。しかし、その報道姿勢、特に、米軍が病院を爆撃していることを北ベトナム側の撮影した映像のみをもとに報道しているとみなされ、当時のライシャワー駐日米大使から名指しで批判され、毎日新聞社もまた米国の圧力をまともに得たといわれる。

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