さかな

魚屋さんの店先のささやかな素話...。

わかさぎのおばあちゃん。

2005年06月04日 | 店先から
今日も人生劇場のようなお話です・・・
店のお客さんは昼間はお年寄りが多いです。若い人は仕事なので留守番しているのはおばあちゃん。夜は家族で食べるので、昼間のうちに自分の好きなものを買っておく。今当店のおばあちゃん人気商品ランキングは・・・
 5位・・・きんとき豆(ひじき豆も人気)
 4位・・・味噌にんにく(体にいい!)
 3位・・・ぶつ(家族のために買っておく人もいる)
 2位・・・おなめ(金山寺みそ。ごはんにはかかせない)
そして輝く第一位は・・・ソフトわかさぎ!わかさぎの佃煮です。なんといってもやわらかい!

この『わかさぎ』が大好きなおばあちゃんがいます。歳は90を超えていたかな・・・
普通に歩いて5分くらいの所に住んでいるのですが、押し車を押しながら、途中で休みながら来るようだったのでかなり時間をかけて来てくれます。しかも雨や風の日は勿論、雨の降りそうな時も来れないので完全に晴れた時に来店してくれます。
おばあちゃんは全く耳が聞こえません。
 「これ、(私に)食べられるかねぇ?」品物を持っては聞く。
 「ちょっと硬いからむりかなぁ」と言っても聞こえない。しかたなく首を横にふり、NOサインを出す。腰も曲がり、一人で立っているのはキツイらしく、陳列棚にもたれながら、ゆっくりと店の中を見てまわるのだ。結局買える物と言ったらいつも『わかさぎ』だった。
 「生きてるうちは食べなきゃならない。早く死にたいよ・・・」と、ため息をつく。声が震えてるので泣いているようにも思えた。こっちから何か言っても聞こえないので私も黙って聞くだけ。
おばあちゃんの家には家族がいる。同じ敷地の離れに一人で住んでいる。(家族は何をしているのか?)と思ったこともあるが、義母は「あのおばあちゃんは若いもんの言うことをきかないんだよ」と言っていた。きっと今までだれにも頼らずに生きてきたから今更頼れないのだ。家族は手がだせなかったんだと思う。
それでも買ってくれた品物を押し車まで運ぶと「すいません」と目を細めてお辞儀をしてくれた。

この4月、わかさぎのおばあちゃんは亡くなりました。店に買い物に来て、ソフトわかさぎを買った2日後でした。後で主人が家族の方に聞いたのですが、部屋には袋に入ったままのソフトわかさぎがあったそうです。
お得意様が一人減りました。寂しいことです。

わかさぎのおばあちゃんのご冥福をお祈りしています・・・