Fireside Chats

ファイアーサイド・チャット=焚き火を囲んだとりとめない会話のかたちで、広報やPRの問題を考えて見たいと思います。

広告会社をめざす学生諸君に

2004年11月14日 11時11分13秒 | PR業界
ドイツに留学中の学生さんから、就職についてのこんなメールをいただきました。
よい機会ですので、就職活動中の学生さんに向けての業界概況をまとめてみました。
以下は突然舞い込んだ、質問メールです。
初めまして、TMと申します。●●大学文学部の3年に属し、現在大学の1年弱の交換プログラムでドイツに留学しております。
突然のメールで申し訳ありません。
私は最近、就職活動たるものを始めました。まだいまいち焦点が定まっていないのですが、色々と調べていくうちに広告業界か、あるいは商社に勤務したいと思うようになりました。ドイツ企業のクライアント相手に仕事ができればと…そのためにはドイツ語をもっと勉強する必要がありますが。笑

しかし広告業界と言っても実際にどのような仕事がなされているのかよく分かりません。日本にいれば、OB・OG訪問、企業・会社説明会などに参加して実情を把握できますが、なにせドイツにおりますので生の声を聞くことができません。しかも大学では独文専攻で、商学部の広告論やメディア文化論などの授業は履修していましたが、知識が乏しすぎます。
まずは「広告」と「広報」の違いについて教えていただけますでしょうか?笑
そしてよろしければ広告業界全体についてお話いただければと思います。お時間の十分あるときで構いません。気分が乗らなければ無視しちゃって下さい…笑
でも、ぜひよろしくお願いしますっ!!

失礼致します
11月13日 
TM

>しかし広告業界と言っても実際にどのような仕事がなされているのかよく分かりません。

業界の実情を知って入社される人は少ないです(笑)。
われわれの努力不足ですね。
「医者の不養生」「紺屋の白袴」「広告屋の宣伝下手」といったところでしょうか。

>まずは「広告」と「広報」の違いについて教えていただけますでしょうか?笑

簡単にいえば、新聞の広告欄に掲載するのが広告。記事欄で取り上げてもらうのが広報です。
テレビでいえば、30秒や15秒のCMは宣伝。番組内での紹介が広報です。
広告は広告主からのメッセージが、ダイレクトに対象者に伝わります。
一方、広報では企業からのメッセージが、新聞や雑誌の記者、オピニオンリーダーなどを介して、インダイレクトに最終ターゲットに伝わります。
近代的広報の発祥は20世紀のアメリカと言われていますが、もしかするとTMさんの留学しているドイツの宣伝相だったゲッペルスかもしれません。

>しかし広告業界と言っても実際にどのような仕事がなされているのかよく分かりません。

広告メディアは、駅に貼られたポスターやスポーツ大会の看板、新聞折込チラシなどさまざまですが、何といっても圧倒的な影響力を持つのは新聞、雑誌、ラジオ、テレビからなる、4大マスメディアです。これにインターネット広告が急成長し、ラジオをしのぐ勢いです。
さて、マスメディア広告は、スペースや放映時間ごとに掲載料が決まっており、かなり高額です(^_^)
ここからあがるマージンが広告会社の主たる収入源です。
トップ企業の電通の場合、売上高構成比をみると、68.1%がマスメディア広告とそのクリエーティブです。
しかし、スペースブローカーだけでは競争力がないので、これにさまざまな付加価値をつけます。
クライアントのマーケティング戦略やブランド戦略についてのコンサルティングをしたり、販売促進活動を手伝ったり、キャンペーン全体のプロデュースを請け負ったりします。
広報コンサルティングも、現在はこうした付加価値サービスの一環と位置づけられます。

一方、既存のメディアの魅力を高めたり、新しいメディアを開発することも、怠るわけにはいきません。
携帯は新しい広告メディアとしてのポテンシャルを秘めています。QRコードは携帯の可能性をさらに広げるかもしれません。
今年に入ってからのブログの急成長は、広告ビジネスを変えるかもしれません。
オリンピックやサッカーワールドカップは、新しいメディアであると同時に、既存メディアの活性化のツールでもあります。

オリンピックを例に取り、広告会社のビジネスモデルの概略をお話しましょう。
オリンピックの場合、グローバルにIOCをサポートする企業をTOPスポンサーと呼びます。世界の10社程度がこれに該当し、日本ではパナソニックがロサンゼルス以来一貫してTOPスポンサーに名を連ねていますが、北京オリンピックでは、連想集団がこれに加わったようです。
TOPスポンサーに許される権利とは、オリンピックの名称やマークをキャンペーンに使用する権利だけですから、独自にグローバルキャンペーンを企画し実施しなければなりません。ここで、広告会社がキャンペーンの企画・制作・実施のパートナーとして登場します。
TOPスポンサーはIOCをスポンサードしますが、北京オリンピックの場合、北京の組織委員会もスポンサーを集めます。
これと別に、日本のオリンピック委員会は「がんばれニッポン」キャンペーンで日本チームをサポートするスポンサーを集めます。
それぞれのレベルのスポンサーは契約条件が異なりますので、許諾される内容に応じてキャンペーンを展開します。
スポンサー契約のサポートとキャンペーンのプランニング、広告するメディアスペースの買い付けは、広告会社の大きな仕事です。
北京オリンピックの日本でのテレビ放映権料は18000万ドルとされています。
東京オリンピックは50万ドルだったのですから、目もくらむような高騰ぶりです。
この販売の仲介は広告会社の関連企業が行います。
民間放送はこの放映権を買って番組を作りますが、この番組にスポンサーを集めるのは広告会社の仕事です。
ここでもクライアントのキャンペーンのプランニングと、広告するメディアスペースの買い付け業務が発生します。
オリンピックを例にご説明しましたが、サッカーのワールドカップでも同じようなビジネスが展開されていますし、ぼく自身(昔の話しですが)東京国際女子マラソンの創設にかかわった事があります。
来年は名古屋で「愛・地球博」が開催されますが、ここにも広告会社は深くかかわっています。
映画制作でも、スタジオ・ジブリの宮崎駿作品は電通、山田洋次監督の藤沢周平原作シリーズには博報堂がかかわっています。
こればかりでなく、広告会社の仕事の領域は驚くようなひろがりを示しています。
つねに新しい領域を手がけていますので、エキサイティングな職場である反面、いつもうまくいくとは限りませんので、ストレスの多い仕事でもあります。

最後に、現時点での広告会社の悩みをお話ししましょう。
世界的規模で広告会社の系列再編が進んでいます。買収合併が相次ぎ、「WPP」「オムニコム」「インターパブリック」の3大メガエージェンシーと、それを追いかけるフランスの「ピュブリシス」、日本の「電通」がグローバルプレーヤーとして絞り込まれつつあります。
博報堂は売上高で電通の半分、日本の第3位のアサツーDKは博報堂のさらに半分の規模に過ぎませんので、この両社は国際競争に伍するため重要な時期にさしかかっています。
電通を含め、日本の広告会社は国内売り上げ比率が高く、海外が非力ですので、ここをどう乗り切るかは大きな経営課題です。

日本の広告会社の収益は、マスメディアの扱いマージンに依存していますが、これが低落傾向にあることが深刻な問題です。
若年層は新聞を読まず、民放テレビの接触時間が少なくなっており、反面新しいメディアが伸びてきています。この結果4つのマスメディアの効果が薄れつつあるのです。
さらに、競争が激化し、マスメディアの利益率も下がり始めています。
しかし、新しいメディアでは従来の利益を生み出すにはいたっていません。
利益構造が変化する中で、新しいビジネスモデルを模索するものの、決定打を発見するに至っていないというのが、ことによると最大の悩みかもしれません。