命のカウントダウン2(健康余命916日)

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点滴しないという選択(長文です)

2024-07-08 23:25:47 | 在宅医療
末期の医療において、点滴をしないと言う選択肢を選ぶのはなかなかに困難です。

患者さんそしてご家族の多くが点滴幻想を持たれています。点滴すれば病気は良くなる、病状は改善するという幻想です。通常の急性期医療の場合、必要な薬剤や、水分、塩分などを血管から直接体内に入れる点滴治療は非常に有効です。その印象が強いので、点滴すれば何でもかんでも良くなると思っておられる方が多くおられます。

しかし、末期医療においては全く状況が異なります。何しろ、有効な医療が既に無くなった状態なのですから。そこで点滴をすると、折角枯れて死を受け入れようとしている「体の中の自然」に逆らう事になります。それで、患者さんに苦痛を負わせてしまうことが多いのです。

亡くなる直前の点滴は、弱り切った体に余計な負荷をかけ、心不全、呼吸不全を悪化させることが多くあります。
自然に近い形で穏やかに亡くなったご遺体は軽いのに、病院で苦しんで亡くなった方のご遺体は重いと葬儀関係者の方に聞いたことがあります。
苦しまれた分だけ重みが増しているのではないかとも感じる私です。

私達、在宅末期医療を扱う医療関係者の間では、末期の点滴は施行しても500mlまで。許されるならゼロにしたい。というのが本音です。

私達、患者さんの苦痛の除去には熱心ですが、点滴は出来たらしたくないのです。

先日、そんな私たちの方向性を具現化した在宅看取りを経験しました。突発性間質性肺炎の患者さんでした。年齢は私と同世代の男性。

昨年夏まで海外を飛び回っておられた超エリートエンジニア。自立心の強い方で、肉体的な苦痛には我慢強いのに、入院加療の様に行動を縛られることが大いに苦手な方でした。自由を制限されることが苦手なのは私も人後に落ちない自信があります。私は肉体的苦痛にも弱いですけれどね。

その方の病気は、突発性間質性肺炎という難病の中でも急速進行性の特に質の悪いものでした。最初に坂根医院に来られたのが今年春だったのですが、これは手に負えない、と、その日のうちに病院に紹介しました。それなのに、患者さん、2つの病院を経由した挙句、約一か月後に戻って来られました。何故?と聞くと、病院は検査ばかりで何もしてくれなかったとの事でした。強引に退院してこられた事と、2つ目の病院は当院からの紹介では無かったので、診療情報も何もありませんでした。仕方なく、ありあわせの情報で難病の申請をし、在宅酸素療法を開始、病状が急速に悪化してきたのでステロイド治療も開始しました。

それでも、病状悪化は止まりませんでした。そこで、何か出来る治療はありませんか?抗線維化薬、免疫抑制剤、ステロイドパルス治療など、出来ることがあれば施行していただけませんかとの紹介状を書いてN医大を受診していただきました。病院受診に気の進まない患者さんご家族の背中を強く推して受診していただいたのですが・・・

入院されたと聞いてホッと一息ついていたのに・・・・2週間ほどしたら、明後日退院してこられますとの話が・・・・退院日に訪問看護師とご自宅に伺ったのですが、退院時の診療情報がありません。N医大に問い合わせてどうなっているのか聞くと、退院後もこちらに通院していただくことになっているので、紹介状はありませんとの事でした。在宅酸素の業者も変えられています。

患者さん、ご家族に聞いても、そんな希望はさらさら無くて、主治医に何度も「退院後は坂根先生に在宅医療してほしい」と念を押されていたそうです。

ご家族に「私に向かってなので、そう言われているわけでは無いですよね。」と、失礼ながら念押しの確認をしてから、N医大に文句の電話を入れました。「病院医と在宅医の間でトラブルが発生している。そんなトラブルは、何処に相談したらいいのか」と地域連携室に聞きました。そんな部署はありませんとの答えでした。無いのなら、作らないと、今後もこのようなトラブルは発生し続けますよ。とても重要な問題ですよ!と、脅しました。多分、その話が上の方にまで届いたのだと思います。とても驚いたことに、一開業医の文句が通りました。翌日には診療情報がFAXで届きましたし、2日後には病院の主治医本人から謝意の電話が直接ありました。

まあ、そんな大事件とはお構いなしに、患者さんの病状悪化は続きます。医大でも、積極的な治療は出来ないと言われたのだそうです。確かに線維化は完成しているので薬は効きにくいだろうとは思えました。しかし、何か出来る事はないかと考えました。
抗線維化剤や免疫抑制剤は在宅では扱いにくかった(保険治療でカバーできないものもある)ので、ステロイドパルス療法をご本人、ご家族承諾の上で1クール施行しました。最初の1投目した日だけ症状改善したかに思えたのですが、翌日からは元に戻ってしまい、1クール終わった時点では正に元の木阿弥でした。話し合いのうえ、維持量のステロイドを残して積極的治療は終了することにしました。

上の装置はエイミーPCAポンプと言う最新の微量薬液注入システム(患者さんがコントロール出来る機能付き)です。
これを2台使って塩酸モルヒネとミタゾラムという2種の薬の連続皮下注を開始しました。
いずれも患者さんの苦痛を取り去るのが目的です。10年前なら、そのような薬剤を在宅の非がん患者さんに使うことは想像できませんでした。こんな優秀なポンプも存在していませんでしたし。
一日の注入量は1つの装置で2.4ml、2つで5ml以下の注入量です。普通の点滴と全く量が違う事をご理解ください。


こんな最新の薬液ポンプを2台も使いながら、普通の点滴治療はしませんでした。患者さん本人の希望に沿わないからです。

下がこのポンプを使用し始めた時の血液ガスの結果です。酸素は経鼻で1.5l/minでした。
分かる人にはわかってもらえると思いますが・・・・
完全な負け戦
PaO2:64mmHgに対し
PaCO2:117.9mmHg とんでもないダブルスコアに近い大逆転(二酸化炭素濃度が酸素濃度を上回ってしまう状態)です。
それでも、話しかけると返事は帰ってきました。早く楽にして欲しい。殺してほしいとまで言われたのですが、これらのポンプを使う事で楽になられたのでしょう。傾眠ではありましたが、微笑みを浮かべられることもありました。
ポンプを使用して3日目、患者さんは自宅のベッドで大勢のご家族に見守られる中、静かに息を引き取られました。死亡確認をしたのはご家族、そして訪問看護師でした。在宅医師の私がお宅にお邪魔したのは翌朝早く、訪問看護師からの電話で知らされてでした。

ご本人、苦痛を感じない良い顔をしておられました。そして見送られたご家族の皆も涙の混じった笑顔で私を迎えてくださいました。

理想的な最後やんか と、私思ったのですが、いかがでしょうか?
長文、お付き合いありがとうございました。



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