「ニュースの社会科学的な裏側」より転載します。
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菅首相が電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案、つまり再生可能エネルギーで発電された電力を高額で買い取る制度を、早期に成立させる意向を示した。既に閣議決定され、国会に提出されている。
恐らく否決されると思うが、内閣が自由に特定企業に利益誘導が可能な制度となっており、産業育成や技術進歩等の事はほとんど考慮されていない。孫正義氏率いる「自然エネルギー協議会」保護法と批判されてもやむを得ない内容だ。
1. 買取期間や買取価格は、経済産業大臣が勝手に定める
再生可能エネルギーの供給量や、電気使用者の負担や、その他の事案を考慮する事にはなっているが、買取期間や価格は、経済産業大臣が定めるとある。しかも発電源ごとに好きな価格をつける事ができる。孫氏の要求に応えてメガソーラーの買取価格を15年間40円/kWhにしても、国会でそれを防止する事ができない。
2. 強制的な全量買取制度
現在提出されている法案では、全量買取制度となっている。あまりに非効率な発電方法で、電力会社が難色を示しても、経済産業大臣は買取を命令できる。どんな僻地でも、どんなに不安定な発電所でも、電力会社は拒否できない。買取期間や買取価格が定まれば、孫氏はメガ・ソーラーを作り放題となる。
3. 電力需要家への説明義務無し
経済産業大臣は、報告徴収及び立入検査の権利があるが、それによって得られた発電源ごとの費用などを公開する制度にもなっておらず、電力需要家から再生可能エネルギーの種類別のコストを認識できない可能性がある。つまり、孫氏が利鞘をどれぐらい取っているのかを、政府は隠蔽する事ができる。
4. 硬直的な買取価格
電力会社は設備投資を抑制するために、需要追随運転ができる発電所を求めているはずだが、そういった点は考慮されていない。季節や時間などで発電量を調整できないメガソーラーに有利な制度になっている。バイオマスに不利と言えるかも知れない。夏場のピーク需要に太陽光発電はあっていると思う人は、冬場のピーク需要は早朝と夜である事を認識しよう。その時間帯の太陽光発電所の発電量はゼロになる。
5. 風力発電・小水力発電・地熱発電には不十分
現在再生可能エネルギーで最も経済性があるのが、風力発電と小水力発電なのだが、再生可能エネルギー促進法では普及しそうにない。古くから利用されている地熱発電も同様だ。
風力発電も小水力発電も、立地に適した土地の選定が難しい。風力発電は騒音公害などが明らかになりつつあり、人家近くに立地が難しくなっている。小水力発電は、許認可が大型ダムと同様になっており、法規制の問題から立地が難しくなっている。地熱発電も、温泉などの周辺施設の問題もあるため、経済性以前に自由に立地できるわけではない。これらの問題を、再生可能エネルギー促進法は解決しない。
バイオマスと、孫氏が意欲的なメガソーラー以外は、有難く無さそうな法案だ。
6. 期待の技術は保護育成されない
資源賦存量から期待されている再生可能エネルギーは、浮体式洋上風力発電と(NEDOは期待していない)高温岩体発電だが、これらは国内にパイロット施設もない状態で、まだまだ圧倒的に高コストだ。浮体式洋上風力発電は、IHIグループが開発に乗り出しているので実用化は意外に近いのかも知れないが、今日の段階では商業ベースの振興策を講じるまで行っていない。つまり、将来的に火力や原発を代替するようなテクノロジーの保護・育成が意図されていない。
7. 2020年度に制度廃止で、再生可能エネルギーも全滅?
2020年度を目処に、廃止を検討するとある。実際に廃止されるのか、廃止後に再生可能エネルギーが、市場競争の中で生き残れるのかが分からない。
例えば太陽光発電のコストは、産総研の過去の見込みでは今は23円/kWhになっているはずなのだが、実際は40円/kWhはかかっているようだ。風力発電所も、英国の例では近い将来に採算ラインに乗る見込みは無い。
技術革新のペースは期待したほど早くは無いので、補助金依存の非効率産業を産み出すだけで終わる可能性がある。それでも買取価格と買取期間で採算は約束されているので、その時点で撤退になっても、孫氏は損をする事はない。
8. 孫正義氏率いる「自然エネルギー協議会」保護法
露骨にメガソーラー事業者に利益誘導をする施策に見え、しかも買取価格と買取期間を経済産業大臣の一存にすることで下手な隠蔽工作をしているように思える。総理大臣が特定企業家と癒着したとなったら、大スキャンダルなのだが、マスコミは追求しないのであろうか?
倫理的な問題もそうだが、産業政策的にも筋が悪い。補助金をつけて産業育成をするには、育てようとするものが何かを良く考える必要がある。世界各地で太陽熱発電所や、風力発電所の建設がされているが、それは風土を考えた上で技術選択されている。日本の風土を良く考えた上で、政府支援をする技術を考えるべきだ。
9. 夢を売るなら、未来の技術を
菅内閣は、太陽光パネル1000万戸計画やメガソーラー事業への利益誘導など、政治的にも経済的にも費用対効果が薄そうな施策を選択すると思う。これらは実用化されており限界が見えているので、費用対効果の計算をされて非現実的な提案だと分かってしまう。
何を推進すればいいのかって? ─ もし私なら「日本は海洋国家なので、電源開発促進税を倍増し、浮体式洋上風力発電に年額1兆円を投じる」と宣言し、国会で揉めた上で1000億円の予算を確保する。
現在存在する浮体式洋上風力発電所Hywindは、沖合10Km・水深220mの地点に設置されているが、総工費は6200万ドル(約50億円)に過ぎない。1000億円もあれば何とか三陸沖に建設できるであろう。風況調査の結果も悪くない。NEDOも実用実験の前準備を開始しており(SankeiBiz)、予算をつけたら官僚機構をせかすだけで良いし楽だ。津波で被害を受けた港町の沖合いに、日本初の浮体式洋上風力発電を建てるのは、悪くない政治パフォーマンスのはずだ。
成功するか分からないって? ─ 未来の技術を模索が目的だから、成功する必要は無い。アポロ計画が費用対効果を求められるものだったら大失敗だったはず。夢を売るように心がける方が、政治的には安泰だ。
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菅首相が電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案、つまり再生可能エネルギーで発電された電力を高額で買い取る制度を、早期に成立させる意向を示した。既に閣議決定され、国会に提出されている。
恐らく否決されると思うが、内閣が自由に特定企業に利益誘導が可能な制度となっており、産業育成や技術進歩等の事はほとんど考慮されていない。孫正義氏率いる「自然エネルギー協議会」保護法と批判されてもやむを得ない内容だ。
1. 買取期間や買取価格は、経済産業大臣が勝手に定める
再生可能エネルギーの供給量や、電気使用者の負担や、その他の事案を考慮する事にはなっているが、買取期間や価格は、経済産業大臣が定めるとある。しかも発電源ごとに好きな価格をつける事ができる。孫氏の要求に応えてメガソーラーの買取価格を15年間40円/kWhにしても、国会でそれを防止する事ができない。
2. 強制的な全量買取制度
現在提出されている法案では、全量買取制度となっている。あまりに非効率な発電方法で、電力会社が難色を示しても、経済産業大臣は買取を命令できる。どんな僻地でも、どんなに不安定な発電所でも、電力会社は拒否できない。買取期間や買取価格が定まれば、孫氏はメガ・ソーラーを作り放題となる。
3. 電力需要家への説明義務無し
経済産業大臣は、報告徴収及び立入検査の権利があるが、それによって得られた発電源ごとの費用などを公開する制度にもなっておらず、電力需要家から再生可能エネルギーの種類別のコストを認識できない可能性がある。つまり、孫氏が利鞘をどれぐらい取っているのかを、政府は隠蔽する事ができる。
4. 硬直的な買取価格
電力会社は設備投資を抑制するために、需要追随運転ができる発電所を求めているはずだが、そういった点は考慮されていない。季節や時間などで発電量を調整できないメガソーラーに有利な制度になっている。バイオマスに不利と言えるかも知れない。夏場のピーク需要に太陽光発電はあっていると思う人は、冬場のピーク需要は早朝と夜である事を認識しよう。その時間帯の太陽光発電所の発電量はゼロになる。
5. 風力発電・小水力発電・地熱発電には不十分
現在再生可能エネルギーで最も経済性があるのが、風力発電と小水力発電なのだが、再生可能エネルギー促進法では普及しそうにない。古くから利用されている地熱発電も同様だ。
風力発電も小水力発電も、立地に適した土地の選定が難しい。風力発電は騒音公害などが明らかになりつつあり、人家近くに立地が難しくなっている。小水力発電は、許認可が大型ダムと同様になっており、法規制の問題から立地が難しくなっている。地熱発電も、温泉などの周辺施設の問題もあるため、経済性以前に自由に立地できるわけではない。これらの問題を、再生可能エネルギー促進法は解決しない。
バイオマスと、孫氏が意欲的なメガソーラー以外は、有難く無さそうな法案だ。
6. 期待の技術は保護育成されない
資源賦存量から期待されている再生可能エネルギーは、浮体式洋上風力発電と(NEDOは期待していない)高温岩体発電だが、これらは国内にパイロット施設もない状態で、まだまだ圧倒的に高コストだ。浮体式洋上風力発電は、IHIグループが開発に乗り出しているので実用化は意外に近いのかも知れないが、今日の段階では商業ベースの振興策を講じるまで行っていない。つまり、将来的に火力や原発を代替するようなテクノロジーの保護・育成が意図されていない。
7. 2020年度に制度廃止で、再生可能エネルギーも全滅?
2020年度を目処に、廃止を検討するとある。実際に廃止されるのか、廃止後に再生可能エネルギーが、市場競争の中で生き残れるのかが分からない。
例えば太陽光発電のコストは、産総研の過去の見込みでは今は23円/kWhになっているはずなのだが、実際は40円/kWhはかかっているようだ。風力発電所も、英国の例では近い将来に採算ラインに乗る見込みは無い。
技術革新のペースは期待したほど早くは無いので、補助金依存の非効率産業を産み出すだけで終わる可能性がある。それでも買取価格と買取期間で採算は約束されているので、その時点で撤退になっても、孫氏は損をする事はない。
8. 孫正義氏率いる「自然エネルギー協議会」保護法
露骨にメガソーラー事業者に利益誘導をする施策に見え、しかも買取価格と買取期間を経済産業大臣の一存にすることで下手な隠蔽工作をしているように思える。総理大臣が特定企業家と癒着したとなったら、大スキャンダルなのだが、マスコミは追求しないのであろうか?
倫理的な問題もそうだが、産業政策的にも筋が悪い。補助金をつけて産業育成をするには、育てようとするものが何かを良く考える必要がある。世界各地で太陽熱発電所や、風力発電所の建設がされているが、それは風土を考えた上で技術選択されている。日本の風土を良く考えた上で、政府支援をする技術を考えるべきだ。
9. 夢を売るなら、未来の技術を
菅内閣は、太陽光パネル1000万戸計画やメガソーラー事業への利益誘導など、政治的にも経済的にも費用対効果が薄そうな施策を選択すると思う。これらは実用化されており限界が見えているので、費用対効果の計算をされて非現実的な提案だと分かってしまう。
何を推進すればいいのかって? ─ もし私なら「日本は海洋国家なので、電源開発促進税を倍増し、浮体式洋上風力発電に年額1兆円を投じる」と宣言し、国会で揉めた上で1000億円の予算を確保する。
現在存在する浮体式洋上風力発電所Hywindは、沖合10Km・水深220mの地点に設置されているが、総工費は6200万ドル(約50億円)に過ぎない。1000億円もあれば何とか三陸沖に建設できるであろう。風況調査の結果も悪くない。NEDOも実用実験の前準備を開始しており(SankeiBiz)、予算をつけたら官僚機構をせかすだけで良いし楽だ。津波で被害を受けた港町の沖合いに、日本初の浮体式洋上風力発電を建てるのは、悪くない政治パフォーマンスのはずだ。
成功するか分からないって? ─ 未来の技術を模索が目的だから、成功する必要は無い。アポロ計画が費用対効果を求められるものだったら大失敗だったはず。夢を売るように心がける方が、政治的には安泰だ。