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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

9/17(月・祝)さいたまシティオペラ『こうもり』/何度見ても面白い名作オペレッタを徹底的に楽しむ

2012年09月18日 22時46分29秒 | 劇場でオペラ鑑賞
2012年度 さいたまシティオペラ第21回公演
『こうもり』J.シュトラウスII作曲/日本語上演


2012年9月17日(月・祝)14:00~ さいたま市文化センター・大ホール S席 1階 8列 22番 7,000円
指 揮: 河合尚市
管弦楽: フィルハーモニア東京
合 唱: さいたまシティオペラ合唱団
バレエ: 山本教子バレエスタジオ
演 出: 井上善策
美 術: 佐藤哲夫
照 明: 降矢政男
衣 装: 下斗米雪子
舞台監督: 田代一稀
振 付: 山本教子
【出演】
アイゼンシュタイン: 井ノ上了吏(テノール)
ロザリンデ: 新南田ゆり(ソプラノ)
アデーレ: 東中千佳(ソプラノ)
ファルケ: 佐野正一(バリトン)
アルフレード: 大川信之(テノール)
フランク(刑務所長): 桝澤安雄(バス・バリトン)
オルロフスキー公爵: 金見美佳(メゾ・ソプラノ)
ブリント(弁護士): 松井永太郎(バリトン)
フロッシュ(看守): 井上善策(テノール)
イーダ: 高橋 維(ソプラノ)
ゲスト歌手: 筒井尋子(ソプラノ)

 1982年に結成された「浦和市民オペラ実行委員会」が翌年の第1回公演の「カルメン」以来、市民オペラ団体として継続・発展してきたもので、30年間で21回目の公演を迎える。日本語による公演を基本として、オペラの普及を目指しているところが特徴的。今回の演目は、ヨハン・シュトラウスII世のオペレッタ『こうもり』。現在では字幕装置を使った原語上演が圧倒的多数を占めているが、オペレッタについては世界的にも上演の現地語で、という習慣があるため、とくに違和感はない。むしろ台詞部分が多いオペレッタ作品は、適時適所のアドリブ的な台本の改変が上演を活き活きと彩ってくれるので楽しいものだ。そのためには現地語が必須である。今回は歌唱も含めてすべて日本語による公演なので、字幕装置も用意されていない。
 今回、初めて「さいたまシティオペラ」を観に行ったのは、親しい知人が出演しているから。もともと『こうもり』は大好きだから、上演があれば出来れば観に行きたいというランクに入っている。というわけで、ちょっと遠いが足をのばしてみることにした。従って、さいたま市文化センターに初めてである。JR南浦和駅から徒歩7分、大ホールはプロセニアム方式3階構造で、およそ2,000席、残響は1.6~2.0秒、オーケストラ・ビットを設けてオペラやバレエの上演も出来る立派な音楽ホールである。実際に音響も悪くないし、各席からもステージが見やすい、なかなか良いホールだ。

 さて公演の方だが、全体の印象としては、なかなかクオリティの高い上演であり、とても面白かった。地方のオペラ団体ならではの活気があり、何でもやってやろうという意気込みが感じられる。出演者たちが個性をぶつけ合って、ひとつのものを作り出そうとする力だ。その生命力みたいなものが、某国立劇場あたりに欠けているもののような気がする。


第2幕の舞踏会の場面(ただしゲネプロ風景。写真はすべて関係者の方からお借りしました)

 まず、オーケストラ。河合尚市さんの指揮するフィルハーモニア東京というのがどのような団体なのか分からないのだが、演奏については悪くなかった。木管も金管も安定した音色を出していたし、アンサンブルも大きく乱れることもなく、全体的には穏やかな音色で、『こうもり』の伴奏には雰囲気が合っていたと思う。ちょっと気になったのは、弦楽の音量が少し不足気味だったことくらいだ。調べてみたら、12型の弦楽5部が基本らしいので、今日の公演は8型くらいだったから、やはりね、という感じだった。
 合唱団は「さいたまシティオペラ合唱団」というくらいだから、シティオペラのためのアマチュア団体であろう。合唱自体は悪くないが、衣装を纏っての登場人物としての「群衆」となったときに、人それぞれの演技にかなりバラつきがあったりして、見ていてちょっとハラハラしたりもした。今日は2列目での鑑賞だったので、細かなところまで見えすぎたのかもしれない…。

 そして肝心の歌手陣はというと…。
 世界の一流歌劇場の公演であっても、主役級と脇役級では明らかな実力差があったりするくらいだから、このような市民オペラの公演ではどうなるものやらと心配していたのだが、どうやらそれは杞憂だったようだ。出演されているのは、若手からベテランまで「さいたまシティオペラ」の演奏会員を中心にキャスティングされているようだが、それぞれに研鑽を積んだプロの方たちなので、平均的にレベルは高い。
 アイゼンシュタイン役の井ノ上了吏さんは、とぼけた役柄を楽しそうに演じ、安定した歌唱を聴かせていた。この役が安定していると、このオペレッタは全体がしっかりするから大切なことだ。
 ロザリンデ役の新南田ゆりさんは、いかにも奥様風の落ち着いた雰囲気の中にコミカルな演技を交えて好演。歌唱の方は、もともとはアデーレに向いているコロラトゥーラ系だが、今回はロザリンデ役ということなので、むしろ軽快で明るい声質が新鮮なロザリンデ像を描き出していた。「故郷の歌をきけば」のアリアも中音部から高音部がとくに美しく響き渡っていた。第3幕の最後、「シャンパンの歌」の再現では、高音部がよく突き抜けて聞こえ、合唱にも飲み込まれることなく、華やかにラストシーンを飾って、存在感を見せていた。
 アデーレ役の東中千佳さんも、この役柄を楽しんでいるような溌剌とした演技が光っていた。有名な2つのアリアも元気いっぱいに歌った。くっきりと明瞭な声質のソプラノさんで、高音部もキレイに伸びていたし、全体に鮮やかな歌いっぷりが好印象である。
 ファルケ役の佐野正一さんは狂言回しの役柄になるので説明的な台詞が多くなってしまうが、その辺を手際よく捌いていたという印象だ。
 アルフレード役は当初発表されていた吉原教夫さんが体調不良で降板となり、大川信之さんが代わりに出演したのだが、この人が大当たりで、圧倒的な歌唱力と声量で、脇役なのに主役を食ってしまうような存在感を発揮していた。ロザリンデを口説く歌として、『リゴレット』のマントヴァ公爵、『椿姫』のアルフレード、『トゥーランドット』のカラフなどの名アリアをのいいところだけを連発して、ものすごい声量でコミカルに歌い、会場の笑いを誘っていた。この部分はイタリア語のまま歌っていたのでアドリブだったのかも。もし本編がドイツ語歌唱だったら、ここをイタリア語で歌うと、ドイツ系にありがちなイタリアを揶揄しているような雰囲気が出て、別の意味でも面白かったかもしれない。
 オルロフスキー公爵役の金見美佳さんはスラリとした立ち姿が美しく、タカラヅカ的ズボン役を颯爽とこなしていた。有名な「シャンパンの歌」では張りの強いメゾ・ソプラノを響かせていた。
 通常の本編にはない「演出」として、第2幕の舞踏会のシーンで余興で歌手が歌うという設定になっていて、「ゲスト歌手」という人物まで登場し、筒井尋子さんが『メリー・ウィドウ』の「ヴィリアの歌」を披露。これって掟破りの演出? また、イーダ役の高橋 維さんが歌ったのはJ.シュトラウスの「春の声」をまるまる1曲。さらに掟破り(?)なのはフロッシュ役の井上善策さんまでもが本格的な歌唱をしてしまったり…。まあ、何でもありのドタバタ喜劇ということで、大いに楽しませていただいた。
 さらには、舞踏会の「雷鳴と電光」では6名のバレリーナが可憐な踊りを披露。完璧な踊り…までもうちょっと、という辺りが、手作りの市民オペラという感じがして、好感が持てた。


出演者の皆さん。後列左から、ゲスト歌手(筒井尋子さん)、オルロフスキー(金見美佳さん)、ハンガリーの伯爵夫人=ロザリンデ(新南田ゆりさん)、アルフレード(大川信之さん)、フランク(桝澤安雄さん)、前列左からアデーレ(東中千佳さん)、イーダ(高橋 維さん)。

 演出の方は、分かり易く、オーソドックスにまとめている。序曲の後、第1幕が始まる前に、ファルケが登場し、物語の背景となっている「こうもり事件」を説明する。これによって、本編がファルケのいたずらによる復讐劇であることを説明しておくという設定だ。これで初めて観る人にもストーリーが分かり易くなった。


2組のカップル(?)。ハンガリーの伯爵夫人=ロザリンデとド・ルナール公爵=アイゼンシュタイン(井ノ上了吏さん)の夫婦(写真左)、ロザリンデとアルフレードの不倫カップル(でもこのシチュエーションで二人が登場するシーンはないですね)

 舞台上の演出は、登場人物が適度に動き回りながら物語を進めていくので、飽きさせることもなかったが、第2幕の舞踏会のシーンを除いては、舞台が広すぎて、やや散漫な感じになってしまったようだ。第1幕のアイゼンシュタインの居間と第3幕の刑務所長の部屋がステージいっぱいだとどうしても広すぎてしまうだろう。舞台装置を含めて、ちょっと工夫が欲しかったところだ。
 日本語公演については、いろいろな考え方があると思うので、多くを語るのは止めておく。前述のように、オペレッタの場合は基本的には賛成である。しかし実際の上演になると、台詞部分は非常に聞き取りやすく、分かりやすいが、歌唱部分は日本語歌詞と音楽のニュアンスが微妙に合わず、けっこう聞き取りにくいものだ。日本語歌唱であっても字幕を付ける等の工夫があれば、もっと分かりやすくなると思うし、将来、字幕のある言語上演にも親しみやすくなるのではないだろうか。
 舞台装置は第1幕と第2幕の背景が同じものだったが(第3幕でも最後にまた出てくる)、それほど安っぽいということもなく無難にまとめていた。一方、衣装の方はかなり丁寧に作られていたため、舞踏会のシーンなども豪華な雰囲気が出ていてなかなか良かったと思う。

 『こうもり』は、やはり適度にふざけながら上演するのが良い。毒気のないストーリーだし、子供たちでも楽しめるから日本語上演も賛成だ。実は、前回『こうもり』を観たのは、今年2012年5月のウィーン・フォルクス・オーパーの来日公演である。もちろんそちらは歌も台詞もドイツ語。雰囲気や音楽は100%の本物だが、分かりやすさという点では、「さいたまシティオペラ」の方が上だったと思う。
 出演されている方々やスタッフの皆さんは一所懸命、必死になってこの舞台を作り上げて来たのだと思う。その努力にBravo!を送りたい。一方の私たちといえば、多少のお金を払ってお気楽に楽しんでいるだけ。申し訳ないような気がする一方、私たちが積極的に、のんきに楽しむことによって、このような市民オペラが育っていくのだと思う。だから、とくに『こうもり』なんだから、理屈抜きで楽しみ、大満足な祝日の午後であった。

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