Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/7(木)マティアス・シュルツ&小林沙羅/フルートとソプラノによる粋で洒脱な音楽空間

2013年03月09日 03時03分54秒 | クラシックコンサート
マティアス・シュル&小林沙羅 スペシャルコンサート

2013年3月7日(木)19:00~ 紀尾井ホール S席 1階 1列 14番 5,500円
ソプラノ: 小林沙羅*
フルート: マティアス・シュルツ**
ピアノ: 大須賀恵里
【曲目】
グノー: 歌劇『ファウスト』より「宝石の歌」*
フォーレ: ファンタジー**
ラヴェル: 魔法の笛* **
サン=サーンス:見えない笛* **
ドニゼッティ: フルート・ソナタ**
ベッリーニ: 歌劇『夢遊病の女』より「お仲間の方々…気も晴れ晴れと」*
多 忠助: 宵待草*
山田耕作: 赤とんぼ**
橋本國彦:『四季の組曲』より「春の組曲」* **
     1.前奏曲 2.たより 3.東風 4.薄氷 5.春待つ心
ヨハン・シュトラウスI: ワルツ「心の旋律」**
レハール: 喜歌劇『ジュディッタ』より「熱き口づけを」* **
《アンコール》
 ドビュッシー: シランクス**
 早坂文雄: うぐいす*
 ジーツィンスキー: ウィーン 我が夢の街* **

 最近すっかりお気に入りのソプラノ歌手、小林沙羅さんの「スペシャルコンサート」。前回(2012年12月7日、紀尾井ホール)は東京でま初の本格時なリサイタルであったが、今回はフルートとのコラボレーションというスペシャル企画で、ウィーン国立歌劇場管弦楽団のフルート奏者、マティアス・シュルツさんをゲストに招いての共演というカタチになつた。当初の企画では、ウォルフガング・シュルツさんとの共演の予定であったが、病気のため来日できなくなり、本人の推薦によるご子息のマティアスさんが代役となった。それに伴い、曲目も一部変更になり、当初はヨハン・シュトラウスIIの『こうもり』から「侯爵様、あなたのようなお方は」が歌われる予定だったが、上記のように『ジュディッタ』に変わっている。
 沙羅さんによると「フルートと一緒に演奏会を開きたいという思いは何年も前から頭の中にあった」ということだが、その主旨は今ひとつピンと来ない。まあ、ご本人が望んでいたのなら喜ばしいことで、ウィーン在住で音楽活動中に沙羅さんにとっては、ウィーンと日本のそれぞれの音楽を一緒に、あるいは交換して演奏するという企画で、互いの素晴らしさを再認識したいということだと思う。
 前回のリサイタルの後は、今年2013年1月3日の「NHKニューイヤーオペラコンサート」1月19日の東京交響楽団/東京オペラシティシリーズで千住明さんの作曲によるオペラ『万葉集』をコンサート形式で上演されたのに出演されたのを聴いている。オペラ『KAMIKAZE』にはスケジュールが合わず、行くことができなかったのが返す返すも残念であった。そして今日は、フルートとの共演という、ちょっと変わったコンサートである。

 1曲目はグノーの『ファウスト』より「宝石の歌」。オペラの方は上演機会は少ないが、このアリアはソプラノさんの定番のひとつ。沙羅さんの歌唱は、クセのない素直な声質だが、ちょっと芯のある強さを持っている。節回しには逆にちょっとクセがあって、比較的強弱の幅が広いことと、立ち上がりの明瞭な歌い方が、個性になっている。また、オペラ・アリアの歌唱では、役柄になりきったような豊かな表情で歌詞のニュアンスを描き出している。早い話が、若くて可愛らしいだけではなく、歌が上手いということだ。
 2曲目のフォーレの「ファンタジー」は、シュルツさんのフルートのソロ(もちろんピアノ伴奏付き)。フルートのことはよく分からないので細かな論評はしないが、春のそよ風を感じさせるような空気感のある音色が素敵だ。
 3曲目のラヴェルの「魔法の笛」と4曲目のサン=サーンスの「見えない笛」は続けて演奏されたが、ソプラノとフルートのための曲であり、もちろんピアノ伴奏付きである。ウィーンと日本のコラボかと思っていたら、ここまですべてフランス音楽。ロマン派時代から近代にかけてのフランスの音楽は、肩肘張ったところがなく洒脱で粋である。沙羅さんのフランス語歌唱は、その芯の強い部分を幾分和らげる効果があり、そこにフルートがふわりと絡まってくるのが、いかにも粋で素敵であった。
 5曲目はドニゼッティの「フルート・ソナタ」。これは珍しい。この曲は、ドニゼッティ22歳の時の作で(1819)、オペラ作曲家として世に認められる以前の作品だという。1楽章の短い曲だが、主題の旋律がいかにもイタリア風の歌謡的なもので、器楽曲であっても、やはりイタリアはオペラの国なのだとよく分かる曲だ。次々と変わっていく曲想はオペラの場面が変わっていくようで興味深い。シュルツさんの演奏は、明るい色彩感でフランスものとは違った雰囲気を描き出していた。やはり豊かな感性と表現力である。
 前半の最後は、ベッリーニの『夢遊病の女』より「お仲間の方々…気も晴れ晴れと」。この曲もオペラそのものよりアリアの方が有名だろう。沙羅さんの表情はより一層豊かになり、喜びいっぱいの歌唱となる。イタリア語の歌唱は、発音が明瞭になるし、母音が長く伸ばせるのでテンポの揺らぎが大きくなる。伸び上がるようにリズムを取る沙羅さん独特の歌う姿は、にこやかな表情とともにこの人の最大の魅力だろう。情感が込められていて、聴いているものに共感を呼び起こす力があるような気がする。

 後半は日本の歌曲から、まず多 忠助の「宵待草」を沙羅さんが歌う。竹久夢二による歌詞は、大正ロマンへの郷愁を誘う。日本の歌曲は、西洋的な音楽技法で書かれているとしても、言葉と旋律の抑揚が合うので、当然のことながら聴き取りやすい。オペラ・アリアと違って高音のハイCもなければ、大きな声で歌う必要もないから、しみじみとして心に染み渡るようである。
 2曲目は山田耕作の「赤とんぼ」をシュルツさんがフルートで。抒情的な情景が描かれた「赤とんぼ」の主題による変奏曲といった感じで、なかなか粋な演奏であった。
 続いて3曲目は橋本國彦の『四季の組曲』より5曲からなる「春の組曲」。フランス印象派の影響も受けているといわれるが、作曲は1945年である。前奏曲はフルートとピアノ、その後はビアノ伴奏によるソプラノ歌唱にフルートが絡まっていく感じだ。
 後半の4曲目でやっとウィーンの音楽が登場。ヨハン・シュトラウスI世のワルツ「心の旋律」をシュルツさんのフルートとピアノで。ワルツのリズム感がウィーン風になるのは当然と言えば当然だ。ウィンナ・ワルツをフルートだけで聴くというのも初めであった。長閑な田園的な雰囲気と都会的な粋な面を併せ持つフルートは、ウィンナ・ワルツにはピッタリ合う。なんてお洒落な音楽なのだろう。
 最後は、レハールの『ジュディッタ』より「熱き口づけを」。このオペレッタもナマで観たことはない(最近日本で上演されたという記憶もない…)が、このアリアは有名である。レハールのメロディ・メーカーとしての手腕はたいしたもので、一度聴いただけで覚えてしまう名旋律が多い。スペイン風の異国情緒漂うワルツで、間奏部分には踊りがある。沙羅さんは運動神経にも優れ、踊りも上手い。主人公ジュディッタが男どもを挑発して歌うこのアリア、沙羅さんの芯の強い歌唱が前面に出てきて、オペラ・アリアらしい力強さと、ドラマティックな歌唱、最後は高音を伸ばして、会場を沸かせた。この曲は、上手い人が歌うと必ず盛り上がる。本日一番のBrava!であった。

 アンコールは3曲。まずシュルツさんによるドビュッシーの「シランクス」。この曲は無伴奏。ドビュッシーの複雑な和音は表現できなくても、「牧神の午後」のような半音階的な怪しげな雰囲気は素晴らしい。
 次に早坂文雄の「うぐいす」を、今度は沙羅さんが無伴奏で歌う。無伴奏の日本の歌曲というのも初めて聴いた、しっかりとした技巧に裏付けられた、なかなか説得力のある歌唱であった。
 最後は、ジーツィンスキーの「ウィーン 我が夢の街」。…やっぱり、という感じだ。でもこの曲を聴くと、日本人もウィーンが大好きになってしまうから不思議だ。優雅で、粋で、明るく楽しいけど、ちょっと切ない。ウィーンで暮らす沙羅さんならではの感慨が込められていたように感じた。

 小林沙羅さんは、最近人気急上昇中(だと思う)で、ファンクラブもあるし、熱烈なファンも沢山いらっしゃるとは思われるが、昨今のクラシック音楽界やオペラ界の事情を鑑みるに、ひとりふたりの力で紀尾井ホール800席を埋めるのはなかなか難しいようである。終演後にはサイン会も開かれたが、シュルツさんのCDはともかく、沙羅さんのCDリリースは千住 明さんの『源氏物語』の1枚のみで、ジャケットに写真も載っていないような状態だから、参加した人はそれほど多くはなかった。『源氏物語』のCDは、先日東響の『万葉集』を聴いた後ですぐに取り寄せて購入済みだったが、今日は持ってこなかったのでサインは見送り。沙羅さんもそろそろ本格的なCDデビューが待たれる時期に来ているのではないだろうか。
 この次は、「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2013」に3年ぶりに出演するので、たった1枠、45分間のリサイタルである。何とかチケットは確保したので、小さな部屋での歌唱が楽しみだ。

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