ブルックリン横丁

ブルックリン在住17年の音楽ライター/歌詞対訳者=渡辺深雪の駄ブログ。 そろそろきちんと再開しますよ。

久々の更新はいきなり紀行文。しかもコロラド。

2017-08-09 | ブルックリン横丁
<注:帰りの機内誌で読んだモンタナ紀行エッセイが素晴らしかったのでちょっと焚きつけられた模様。えらい長文ですゴメンナサイ>

子供達はまだしばらく帰って来ないし、ということで思い立ってコロラドへ。旦那と二人きりの旅は実に14年ぶりと気づくが、何を記念してるわけでも祝ってるでもなく。しいていうなら全米各地で盛り上がりつつある某ビジネスの現場の視察旅行、かね。我ながらウマい建前だ!

カウボーイの案内でアスペンの生い茂る森を乗馬したり、旦那が念願のクレイ射撃デビューしてる間、私は夢のように美しい谷を貫くカウンティ・ロードを北上したところにあるひなびた硫黄温泉までお一人様ドライブを堪能したり。ロッキーマウンテン国立公園内に夏の期間だけ開通する横断道路ではあいにくの雨とひょう(!!)に見舞われ、視界がほぼゼロというありえないシチュエーションの中、富士山よりも標高の高いクネクネの山道を死ぬ思いで走破。これ、10代の頃からやりたかったやつ!晴れた日に運転したことがある人から聞いた話では、路肩から少しでも外れようものなら即転落死決定、という状況が見えなかっただけ逆に良かったかもよ、と。

WiFiやケータイのサービスなぞ無くて当然、という環境で生きているカウボーイや滞在先のランチ(ranchね)の同い年のオーナーや若いスタッフたちとの共同生活でつくづく思ったのは、自然を相手に肉体を使って働く人間のシンプルな喜びと慎ましさ、そしてその美しさ、というか。都会の人間は効率よく楽することにお金を使うわけで、つまり楽しい思いをするにはゼニっこが必要だし、だからこそラットレースから抜けられなくなるという悪ループ。いつのまにかお金がないと楽しめない、不幸な体質に仕上がっちゃう。

山の男達は汗水垂らして労働することを厭わず、自分達の手で何かを作りったり挑戦したりして、そこに経験や知識を練り込んで工夫を凝らし、思い通りの成果が生まれたらそれを嬉しく誇らしく思うことを何よりの喜びであり対価と考えている。現金収入にはつながらないかもしれないが、目の前で急変する大自然に翻弄されながらも力強く生きている。それしか術がないから、というのもあるだろうけど。

彼らとの共同生活を体験しにインディアナから来ていたカップルはヨガを愛し、ランチには置いてないこじゃれたマイIPAを冷蔵庫に冷やしていたりしたし、旦那の方は細身でふさふさのヒゲをたくわえ、アクセントの少ない英語を喋っていたので、私と旦那は真っ先に「でた〜ヒップスター」と勝手に見当をつけて会話していたのだが、銃規制の話になったあたりでどうも噛み合わなくなってきた。何と二人とも、小さい頃誕生日にプレゼントされた護身用の銃を大事に持ってるし、その後も人生の段階のニーズに合わせて銃を買い続けているというのだ。実家に預けてきた15ヶ月になる息子にも将来間違いなく銃をプレゼントするよ、と屈託なく笑う。もう、めっちゃ銃愛用してんじゃん!なのにそんな見かけ!?っていうシンプルな驚きというか。

ブルックリンのバブルの中にいると、多かれ少なかれ「ヒップスター=超リベラル、環境保全超大事!人類動物みな兄弟!ラブ&ハピネス!銃なんてあり得ないし!向けるのは銃口じゃなくてiPhone7のカメラでお願い!インスタがない世界なんて死んだ方がマシ!ヨガとコンブチャとスーパーフードを愛する私、実はそんな自分が一番大好きなんです!テへっ!」って手合いの輩(&ワナビー)の流入が止まらないし、そういう浮わついたトーンと後追いの開発にホトホトうんざりしてた(生粋のブルックリンナイトは大抵そう思ってる)ので、インディアナの夫婦を見た時にも「こんなところにまで!」と勝手に決めつけちゃったわけだが、その浅はかさと、当然ながら「その土地にはその土地なりの正義がある」ことを、バブルの中で忘れてしまっていた自分たちを恥じた。

近くの馬主から夏の期間だけ借りている愛馬を連れてトレイルに連れて行ってくれたミズーリ出身の26歳のカウボーイにしても、田舎の生活を便利にするため、とエンジニアを目指し大学に通っていた時期もあったが、カウボーイのライフスタイルへの憧れが諦めきれず「やるなら若いうちに」と大学を中退して「この道」に入ったとか。10代の頃からエルクやムースのハンティングガイドとして愛馬とともに山奥で寝泊まりする生活が日常だったという彼の言葉や考えには一縷の迷いもなく、まさに自分の経験と勘とスキルだけで生きてきた人間特有の自信(これはゲトーや俗悪な生育環境を奇跡的にサバイブし成功したラッパーとかにも共通する感じか)が頼もしく。都会じゃ5歳の子供でもそんな顔してないよ、っていうくらいの澄んだ目と曇りのない笑顔。どこでもサバイブできるし、お腹が空いたら愛馬と愛犬とともに狩りに出るから衣食住には困らないとはいえ、自分の「ホーム」である大自然に分け入るたびに目の当たりにする環境破壊の現実を無視するわけにはいかず、26歳となった今になってからやっぱり大学に入りなおし、そこで環境科学を学び、保全の手伝いがしたいのだとか。彼が照れながら言う「この歳でまた学校に行くのは恥ずかしい気もするけど。。」くだりの辺りで、こういう真摯な人の話を聞くと諸手を挙げてサポートしたがるワナビー親分気質の旦那はもう鼻息が荒いのなんの。口からツバや泡を飛ばしながら「お前は大丈夫だ、やる気があればいつでもどこでも道はひらけるよマイメン!」とアントニオ猪木ばりの熱いメッセージを送っていたよ(苦笑)。

学費を工面するために何ができるか、と意識の高いカウボーイが考えた結果選んだのは、大自然の中で景色や動物、草花などを撮影する、ネイチャーフォトグラファー。ハンティングツアーにもこれからはカメラを肌身離さず持って行くんだとか。これは客にもさぞかし喜ばれるだろう。「スキルはまだまだこれからだけど、誰も見たことのない素晴らしい撮影スポットならたくさん知ってるから」と、中古で譲り受けたという入門クラスのEOSを、仰々しいアルミケースに入れてさらにバックパックに背負い、大事に持ち歩く。「よし、ならば最初の客になろうではないか!」と頼まれてもいないのに色々とポーズを取ったワナビー親分の旦那であるが、その夜ディナーが終わり、ひと仕事を終えたカウボーイがいそいそとラップトップ(何週間もかけて選んだ、初めてのパワーブックだそうだ。型落ちして値段が下がるのを待ってようやく購入したそう)を持参し、取り込んだ写真を見せてくれた時は笑った。背景の景色はどれもバッチリ、ライティングもバッチリ、修正もバッチリ、あとは被写体の写り具合で選ぶだけかね、どれどれ、、という段階でカウボーイが選んだのは「この写真が馬が一番笑ってる」という一枚。あくまでも動物>人間なのね!なんか私の三段腹と二重アゴがすごい写り方なんですけど、それもまあ四十路の摂理、大自然の一部ってことでいいのかな。コロラド、いいところだな(多分違う)。

息子が来年から大学生になるというこのタイミングだけに、金髪碧眼、正真正銘のアメリカンでとっくに成人したストレートの白人男性に対して付与される大学の奨学金など皆無に等しいことは知ってる。彼ら自身もそのことは知ってる。だけど、人種や国籍だけでなく、アメリカ国内であっても、生まれた土地の風土や環境によって得られる教育やチャンスに雲泥の差があることは明らかで、ぶっちゃけ「だからこそ」のトランプ勝利、だったわけだ。田舎の白人の声を聞け!っていうやつ。先の大統領選ではコロラドは僅差でリベラル派が勝った、一応はリベラルな州ではあるけど。

もちろん、レイシストでセクシストで、労働倫理も意欲もないくせに働き者の移民に「仕事を取られた!」とうそぶく教養(教育と教養は同義語ではないからね)のない怠け者は人種を問わずそのまま滅びて良いと思うし、トランプがフェイクニュースと呼びたがるリベラル寄りのニュース番組やナイトショウしか見ていない我々は、キュレートされ画面越しに写された、リベラルとは対極にある極端に保守的な人々ばかりを見ていたので、正直なところ「アメリカ大陸の中央部にいるアメリカ白人」というものについてはすごく警戒していたのだ。有色人種は我々しかいないというようなアウェイな環境に身を置くことも多いし、春先に滞在した、アメリカ人しかいないメキシコ西海岸のリゾートでは、赤ら顔の小金持ちなアメリカ白人達に嫌な思いをさせられたこともあったし。

だけど、だからといって「これだからミッドカントリー(国の中央部分的な)の低脳はイヤだわ・・・」とバッサリ断罪してしまうと、それはつまり自分自身の視野を狭めたり、大切な出会いを台無しにしてしまう勿体無いリスクを孕んでいるのですね。日曜の夜にはヒゲの銃愛好者も環境保全カウボーイも、ミッドライフクライシスをこじらせたブルックリンのおっさんも一緒になって「Game of Thrones」見て「うひょ〜〜」とか言ってたしね。

結局、すごーく当たり前の結論に着地してしまうわけだが、「バブルの外へ」というチョイスをして大正解だった。地図にもない道を勘で進んで見つけた景色もそうだし、「ここに行けばとにかくハッピー」という自分の中の大事な聖地がまた増えた感じ。これから大学という外の世界に息子が飛び出して行く前に「夫婦のアメリカ観」的なものが微調整できたことも本当に良かったと思う。レッテルを貼られることに慣れてしまったからと言って、自分が相手に同じことをしても良いという言い訳にはならないのだ、ということを痛感したから。髪の毛にまだしっかり残る硫黄の残り香をクンクンしながら、次はスキーのシーズンにまた彼らを訪ねられるよう、母ちゃんはしばらくラットレースでがむばります。。



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