ブルックリン横丁

ブルックリン在住17年の音楽ライター/歌詞対訳者=渡辺深雪の駄ブログ。 そろそろきちんと再開しますよ。

113:「春なのに」

2005-04-06 | ブルックリン横丁
これからメンフィス・ブリークの取材ですがその前にさくさくっと。

NYは完全に春です。クロッカスに水仙、ヒヤシンスがキレイ。これから桜も咲くしね。昨日はようやく重い腰を上げて庭掃除。5階建ての我が家よりも背の高い樫の巨木が庭にあるので落ち葉の量がハンパない。一冬放置した落ち葉の下にはでんでん虫がいっぱいいて太陽も喜ぶ。芝の手入れもせにゃならんし忙しいシーズンの到来ですな。

で、その後久々の庭仕事で身体のあちこちが痛くなった夜更け、窓の外から絶叫が。数軒隣に住む巨体レズビアンが「強盗にやられた~!」「犯人は銃を持ってる~!!」と。こうやって近所中のヒトの注目を集めることによって逃げる犯人の目撃者を増やそうということだろうけど。賢いね。まんまと各家の窓には身を乗り出して外を見る人々の姿が。それよりビビったのは5秒後にはうちの義姉(喋り出すと止まらない)が事件の全容をしっかり把握して我々にレポートしてきたこと。その情報収集能力っていうかゴシップ能力をカネに出来たらアンタはミリオネアだよ。まーそれは言いとして、どうやらやはり犯人は銃を持っていて、いきなり後ろからその巨体の彼女に突きつけて強盗したらしい。

私の知る限りではこのブロックでの路上強盗事件は99年に引っ越してきて以来2回目。数年前に夜中に家の前の階段でタバコ吸ってたら、いきなり路駐してあったクルマの窓ガラスを割ってカーステとか色々盗み出し、それを近くに停めていたバンの中に放り込んで逃げて行ったコソドロ3人衆を目撃したことはあったけど。あ、それからフォクシーの実家に押し入りが入ってTV中継がスゴいことになったコトもあったな。フォクシーのママがガムテープで口封じをされ、犯人が2階を物色している間に逃げ出して警察に通告したというドラマが。

今回の事件は最近地代の急高騰により店じまいを余儀なくされた元ボデガ(ドミニカン経営の街角デリ)の跡地付近で発生した。このブロックで20年も開店していた彼らから私も太陽も怪しいスペイン語を教わったり、バチャータ(ドミニカ大衆歌謡。全部一緒に聴こえる)のイロハを教わった(でも全部一緒に聴こえる)。タバコを買いに行けば「もう辞めろ」と説教され、家に誰もいない時には郵便物を代わりに預かってもらったりしていた。品物の値段が安い訳でもなけりゃ気の利いたグッズがある訳でもないが、夜遅く帰宅する時とか、店の前の電灯がともっているとちょっとホッとしていたのだ。初めてこのブロックに足を踏み入れた90年代初期当時はボデガ前にたむろってるサグ達が怖かったが、ここに住むようになってからはエリアの地価上昇と共に警察のパトロール頻度も増し、サグ達の数も少なくなった。それにフタを開けてみりゃそいつらは皆このブロックで旦那と生まれ育った幼馴染みなワケで、一度旦那を介して面通しされた後は、夜中に彼らの姿を見ても安心することこそあれ、危険を感じたことは一度もなかった。夜遅く一人で歩いている時とか、家の前までボディガードしてくれたり。ここ数年でブロックの住人の顔は一変してしまったし、新顔のヤッピー達はどのサグがどこの誰で、なんてことは理解しているワケがない。だから彼らがたむろっていると一様にビビりあげて警察を呼ぶ。本当は彼らこそがこのブロックをレペゼンし、よそ者のサグの勝手を許さぬ頼もしいセキュリティだってのにさ。

そんなサグ達の拠点だったボデガは撤退し、あるレストラン経営者がリースを引き継ぎフレンチ・ビストロを新オープンするらしい。しかし工事は一向に進まず、夜になればそこの一帯は真っ暗。このブロックで産まれ育った、イカつい顔をしたサグ達もどこかへ行ってしまった。で、昨晩の事件、である。

うちらだって大家業をやってるワケで、家賃を滞納するタチの悪いテナントは嫌いだ。市場価格に合わせて家賃を値上げすることもたまにある。だから一概にデベロッパーの価値観を批判するワケにはいかない。所詮ビジネスとはそういうモノであろう、とも思う。だけどこのボデガの場合は、ただの街角デリ以上の意味があったのだ。コミュニティの核、っていうか。そんなこと、デベロッパーや不動産会社はクソも気にしてないんだろうな。

そのボデガの閉店が決まった時、近所に住む水彩画家が彼らの店構えをそれは緻密に再現したイラスト画を描き上げ、それがカードになって近隣の住人が寄せ書きをした。発起人となったアクティヴィストのパティに、イラストのコピーを売ってくれと申し出ていたのだがあれはどうなったんだろう。手に入ったら額に入れて部屋に飾りたいと思っている。