【般若心経その5】
般若心経の訳に入る前に、「釈迦の仏教」と
大乗仏教の違いを説明します。
釈迦入滅後数百年の時を経るうちに、釈迦の
時代の教えをかなり異なる形で解釈し、
独自の路線を打ち出すグループが多数登場
しはじめた。
仏教は「考え方に多少の違いはあっても、
他の集団との協調性を保っているならば
同じ仲間として認める」という決まりを
作ったので、すさまじい多様性が生まれた。
これによって生まれたのが大乗仏教で、
般若教の他に法華経、維摩経、華厳経などがある。
大乗仏教には「仏の力を信じて崇めれば
救われる」という思いがある。
しかし、「釈迦の仏教」は「自力で修行し、
自分で煩悩を滅し、自力で自分を救う」ことを
求めている。
寄って、大乗仏教と「釈迦の仏教」の考え方は異なる。
*****
般若心経は「釈迦の教えを否定することによって、
釈迦を越えようとしている経典」と言える。
*****
般若心経は玄奘三蔵法師の訳であるが、
短いバージョンの小本と長いバージョンの
大本の二種類がある。
大本には
・出だしの部分(序分、じょぶん)
・本文(正宗分、しょうしゅうぶん)
・結びの言葉(流通分、るずうぶん)
があるが、
小本には序分と流通分が無い。
262文字の般若心経は小本である。
*****
【大本の序分に書かれた内容】
あるとき釈迦は、王舎城という町の
霊鷲山という山で、多くの弟子や菩薩たちと
ともにいて、一人、深い禅定(ぜんじょう)
(瞑想状態)に入っておられました。
その折、舎利子がその場の集まりの中にいた
観音様に「般若波羅蜜多を修行するには
どうしたらよいのですか?」と尋ねました。
すると観音様は次のように言いました。
*****
【大本の流通分に書かれた内容】
それまで瞑想に入っていた釈迦は、その状態から
出ると、観音菩薩が述べたことに対して、
「その通り、素晴らしい」と称賛しました。
すると、その場に集っていた大勢の聴衆は
みな歓喜して、その言葉を承りました。
*****
つまり、小本に書かれていることは、
舎利子の質問に対する観音様の答えである。
(舎利子は釈迦の一番弟子)
また、観音様の答えに対して、釈迦が
「素晴らしい」と称賛したことが重要である。
*****
般若波羅蜜多(智慧の完成)は六波羅密多の一つである。
六波羅密多:菩薩に課せられた六種類の実践徳目
①布施波羅密多、②持戒波羅密多、③忍辱波羅密多、
④精進波羅密多、⑤禅定波羅密多、⑥智慧(般若)波羅密多
①~⑤は⑥を得るための手段である。
*****
上の序分を理解して、小本を読むと理解しやすい。
(その6に続く)