オータムリーフの部屋

残された人生で一番若い今日を生きる。

人体 ミクロの大冒険

2014-04-06 | 日記

人はどうつくられるのか、どのように生きる力を得ているのか、そして、なぜ老い、死ぬのか。そのメカニズムの主役は細胞だ。私たちの身体は200種類・60兆の細胞でできているが、その多様な活動がいま、最新のバイオイメージング技術によって捉えられている。このシリーズはバイオイメージングの最新映像をもとに、圧倒的な高品質CGで再現した人体世界をめぐりながら、私たちの命を育む仕組みを探っていく。

 第1回目はiPS細胞研究所 所長 山中伸弥さんと、劇作家・演出家・役者の野田秀樹さん、ヴァイオリニストの葉加瀬太郎さんの対談で進行した。
 私たちの成長を支えているのは、細胞がつくり出す柔軟性だ。遺伝子は受精の瞬間に決まってしまう。実際に生きていく環境に応じて臨機応変に対応するのが、細胞の役割だ。細胞が周りの環境を察しながら、働かせる遺伝子を選択して変化し、私たちが生き延びるための力を強化しているのである。ここで例に挙げられるのはダイエットをして炭水化物の量が少ない妊婦の子供は脂肪細胞が増えて成長するとともに肥満になると言う。
 なかでも、成長のカギを握っている細胞は、脳をつくる神経細胞だ。学習や経験に応じて変化する神経細胞は、まさに私たちの人生を背負う細胞だ。ところが、この神経細胞は取り替えがきかない。皮膚をはじめ、ほとんどの細胞は新陳代謝で活発に入れ替えることで私たちの長い人生をカバーしているのに対し、神経細胞は珍しい一生モノの細胞なのだ。そこで、神経細胞は驚くべき長もち策をつくりあげた・・・。
 音に関する感受性が強いのは生後6カ月ぐらいまでである。12か月になると、もはや音の微妙な違いは認識できない。人間の脳の神経細胞はシナプス結合を猛烈な勢いで行い、脳に新しい回路を造ることで、認識や考える能力を飛躍的に増大させる。しかし、その高速な神経細胞の結合は数年で終わってしまう。毒蛇の毒に匹敵するような毒を使ってまでシナプス結合を阻止するのである。ネズミの実験でこの毒が発生しないようにすると、結合はどんどん起こり、ネズミの脳は壊死してしまう。あまりにも過剰なエネルギーを使いすぎて、神経細胞が死んでしまうのだ。それを阻止するために、ある程度の回路が形成されたら、もうそれ以上新しい回路ができないように防御すると言うのだ。しかし、脳細胞はもう一つの仕掛けを準備している。年を経ても、繰り返し集中することで神経の連結が太くなり、高速化して新しい能力を得ることもできると言うのだ。使わない脳は退化するだけという理屈になる。

 第2回目は山中伸弥さん、野田秀樹さん、角田光代さん、松嶋尚美さんの対談で進行した。
 男女の性が変わる?思春期に男性から女性へ、女性から男性へ。ドミニカ共和国のサリーナス村での珍しくない事象である。変身の時期は思春期。細胞の脅威の力が成熟した男女へと、劇的に変身させる、その仕掛け人は、ホルモン。脳には内分泌細胞があり、全身の細胞を変化させるホルモンを分泌する。脳の下にたれさがる脳下垂体。視床下部に内分泌細胞が集中している。下に向けて長いしっぽをのばし、ホルモンを血管に向けて放出する。ホルモンは血流にのって、全身へまわり、受容体と結び付くと細胞は分裂を始める。内分泌細胞がホルモンを出すことで60兆の細胞を丸ごと変えていく。Y染色体、X染色体で性別が決まるが、遺伝子が性を決めるのは誕生までで、その先は細胞が成熟の役割を担う。胎児のときにも性ホルモンを受け取るが、サリーナス村の人たちは何らかの原因でうまく信号を出してもらえなかったと考えられる。近親婚が多い村というのも原因かもしれない。
 思春期で人は成熟した体に変身し、出産で視床下部にあるオキシトシン細胞が活動を始める。これも長いしっぽを持っていてオキシトシンというホルモンを放出する。陣痛を起こすホルモンだ。オキシトシン細胞は出産後も高濃度にホルモンを分泌する。オキシトシン細胞は長いしっぽを脳にものばし、オキシトシンを放出している。ネズミの実験により、このオキシトシンは愛着行動を引き起こすことが解明された。ハタネズミは普通のネズミと比べてオキシトシン受容体が多く、それが一生同一個体とつがいを形成する愛着行動を生み出している。普通のネズミにもオキシトシン受容体を増やす注射をしてみたら、なんと愛着行動を取り始めた。親密な絆はオキシトシンが欠かせないと言うことか? 脳の扁桃体は恐怖や緊張を司るが、ここにオキシトシンが働くと警戒心が解ける。側座核も強い快感を覚える。子への愛情を深めるために出産後もオキシトシンを出し続けていたのだ。
 ここまで見てくると、ホルモンを介して心までも細胞に支配されているように見える。ポールザック博士は逆に自分の意志で細胞を制御できるんじゃないかと考えて実験を始めた。インストラクターに命を預けるスカイダイビングでの実験中、他人に命を預けた時のオキシトシンの量が230%も上がった。オキシトシン細胞はインストラクタを信用するようにオキシトシンを出したのだ。婚約中のカップルがキスをすることで、オキシトシンは男性は26%、女性は213%増えた。初対面の人でもダンスをしたり、映画を見たり、何かを一緒にすることで、平均で11%、多い人は46%もアップした。オキシトシンを出せば他の人にやさしくなり、より寛容になれる。動物と違い、人間はなりたい自分になれるはずだ。
 自閉症の臨床試験をするプロジェクトが始まっている。オキシトシンが低い自閉症の患者さんにオキシトシンスプレーを使って吸いこんでもらうと、3~4日くらいで、いいたいことがバンバンでるようになったと言う。結果は分析中だが、アルバイト探しを始めて自立への模索を始めたと言う。
 通常ホルモンは年とともに減るが、オキシトシンは高齢になっても活発に分泌し続けると言う。年をとっても絆を作る能力は衰えないと言うことか?いや、人間は年をとればとるほど絆なしでは生きていけないと言うことだろう。

 第3回目は山中伸弥さん、野田秀樹さん、阿川佐和子さん。
 これまで老化とは「身体のあらゆる場所が衰えること」とされていたが、最新の細胞研究は「免疫細胞の衰えがその根底にある」という事実を明らかにしつつある。身体を守るはずの免疫システムを指揮するT細胞という免疫細胞は思春期の始まりとともに生産がほぼ終わってしまう。そのため、年齢を重ねるにつれて能力が衰え、やがて誤作動して自らの組織を攻撃するようになり、老年病や生活習慣病といった多くの病気を引き起こす原因のひとつになっているのだ。こうした知見により、免疫細胞の老化そのものを防ごうとするまったく新しい老化研究がはじまっている。

 イタリア サルデーニャ島は長寿の人の割合が多い。5000人に一人が100歳以上で、世界平均の2倍だ。血中の免疫細胞の働きに違いがあった。病原体をいれたとき、20代ではすぐに闘いに向かうが、60歳では、ほとんど動かない。ところがサルデーニャ島のお年寄りの免疫細胞は20代のようによく働いていた。骨髄のニッチとよばれる特別な場所で生まれる免疫細胞の一つ、T細胞は進入したものが敵かどうか判断する司令塔のような役割を果たす。血管にはいった免疫細胞たちは、まず樹状細胞が異物を見つけるとT細胞のもとへ運んで行く。T細胞はそれが敵かどうか判断し、敵の場合はサイトカインを噴き出す。その命令によりマクロファージが病原体を次々食べていく。T細胞を中心としたチームプレイが健康を作っている。
 年を取ると増えてくる病気のほとんどは免疫細胞が深くかかわっている。動脈硬化も実はコレステロールではなく、マクロファージの異常攻撃が原因だ。サイトカインは攻撃命令になったり、病原体の動きを鈍くしたりするが、一つ間違えると、体中が免疫細胞の攻撃対象になってしまう。糖尿病もこのサイカトンが血中にまき散らされて体が糖分を取りこむことができなくなり、血中の糖分が高くなる病気だと言う。
 子供の心臓の真上に胸腺がある。実はこれがT細胞に欠かせない。骨髄で作られたT細胞は胸腺で厳しく選別される。胸腺の壁に触れた不適格なT細胞が次々死んで5%以下のT細胞だけが生き残る。ところが胸腺は思春期を過ぎるとほとんどなくなってしまう。血液中のT細胞の数は20代と70代では変わらないが、正常な判断力をもったものは1割程度に減少してしまう。胸腺の消滅は人間の防御作用の一つで、たった5%のために大量にT細胞を作るのはエネルギーの無駄だから思春期を過ぎて子孫を残す準備ができたら、後は免疫細胞は衰えるだけだと・・・細胞に支配されている人体としては実に合理的な戦略なのだ。
 
 京都大学で去年iPS細胞から人工T細胞が作成された。体からT細胞を取り出し、山中ファクターを加えiPS細胞にし、増殖させて、それを再びT細胞にして体に戻す。免疫力が飛躍的に増す。iPS細胞の可能性は無限だ。脊髄損傷して後ろ足が麻痺したマウスもiPSが生み出した人工の神経幹細胞を注入すると、なんと歩きだしたではないか。皮膚から精子、卵子も作りだせる。今、人間は細胞そのものを、生命の源を操作する手段を見い出した。今の倫理では到底許されないことが可能になろうとしている。生命の尊厳を守るはずの医療が逆に命の値段を安くする結果にならないか?人間のサイボーグ化にならないか、未来の人間は難しい選択を迫られている。

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