オータムリーフの部屋

残された人生で一番若い今日を生きる。

アンナチュラル

2018-03-18 | 日記
1-3月放送の法医学ドラマが最高に面白かった。主人公・ミコト(石原さとみ)の職業は、死因究明のスペシャリストである解剖医。彼女が許せないことは、「不条理な死(アンナチュラル・デス)」を放置すること。不自然な死の裏側には、必ず突き止めるべき真実がある。偽装殺人・医療ミス・未知の症例…。しかし日本においては、不自然死のほとんどは解剖されることなく荼毘に付されている。その現実に、彼女は個性豊かなメンバーと共に立ち向かう。
 
日本に新設された死因究明専門のスペシャリストが集まる「不自然死究明研究所(UDIラボ)」がドラマの舞台となる。主人公のミコトは、人の『生の権利』が脅かされることに猛烈に反発する。この世に美しい死はなく、死んでしまえば終わりだと考えている。ミコトは一家心中の生き残りという壮絶な過去を持つ。UDIでミコトと共に働く仲間達もまた暗い過去があり、葛藤を抱えている。特に中堂班の筆頭医である中堂系(井浦新)は、日彰医大の法医学教室にいたが、トラブルで放逐されたという噂があり、態度が横柄で口も悪い。倫理観が異常で目的のためには手段を選ばないため、ミコトとしばしば衝突する。
 
しかし、すべてが不自然で異常なのではなく、UDIのメンバーも普通の日常生活を送っている。恋に悩み、家族関係に苦しみ、合コンに行き、やけ酒・やけ食いもする。歯に衣着せぬ議論をして、友情を育む。冷静に仕事をしようと思いながらも、遺族に共感して、取り乱すこともある。
 
9-10話の最終回では、私の嫌いなサイコパスが犯人だが、他の刑事ドラマと違って、気違いじみた犯人像はそれほど気にならなかった。
遺体はすぐさまUDIラボへ運び込まれ、三澄ミコト(石原さとみ)が検死にあたった。遺体の口内に“赤い金魚”が見つかる。この“赤い金魚”とは、UDIラボの法医解剖医・中堂系(井浦新)が名付けたもの。中堂は8年前、恋人・糀谷夕希子(橋本真実)を殺され、その遺体の口の中に魚のような形をした腫瘍を発見した。以来、犯人を捜す手がかりとして、同じ症状がある遺体を見つけては解剖し続けている。“赤い金魚”は、口の中に魚の模様がついたカラーボールを押し込まれたのが原因であることが判明する。六郎(窪田正孝)は、フリージャーナリストの宍戸理一(北村有起哉)から、犯人は死因の頭文字がABC順になるように犯行を繰り返し、女性遺体の死因の頭文字は“F”であると教えられ、ピンクのカバが描かれた絵を手渡される。女性の遺体が発見された空き家を再訪したミコトは、アリが数匹死んでいるのを発見、それらのアリからは蟻酸が検出される。蟻酸は英語で「Formic acid」ということで、頭文字がFのワードが飛び出したため、六郎は動揺する。しかし、蟻酸には毒性があるものの、死に至るには相当量が必要で、しかも現場で発見されたアリは蟻酸を体内に有していない種であることが判明する。ミコトと中堂が小難しい化学方程式を駆使した結果、死因はホルマリン注入だということがわかる。六郎の前に中堂が現れ、六郎が手にしているカバの絵を見て六郎に詰め寄る。その絵は、殺された恋人夕希子が描いたものだった。
宍戸によると、前回の雑居ビル火災の唯一の生存者・高瀬文人(尾上寛之)から手に入れたという。ちょうどその頃、高瀬は血まみれになった姿で「殺されそうなので保護してもらいたい」と警察署へ出頭した。
 
中堂の恋人・夕希子(橋本真実)をはじめ、複数の女性を殺害した疑いのある高瀬は死体損壊は認めるものの殺害については否定する。証拠は残されておらず、高瀬を殺人罪で起訴しても有罪になる可能性は低い。そんな中、秘密裏に高瀬に接触していたフリー記者の宍戸(北村有起哉)は高瀬の“告白”を記した著書「26人殺害は妄想か現実か」を出版した。かつて母親を病気で亡くし、父親が失踪していた高瀬だが、アルファベットになぞった26人の殺人を成し遂げ、伝説になりたいと語っていたと言う。しかしそれはあくまで高瀬の妄想だとする宍戸。「このままだと高瀬を殺人罪に問えない」と聞かされたミコト(石原さとみ)たちは、歯がゆさを感じながらも証拠を見つけ出そうとする。高瀬の殺人を証明するために中堂はミコトに偽の鑑定書を差し出す。ミコトは「事実を曲げろってことですか?」と問うが、中堂は「事実は高瀬が殺したってことだ」と言い放つ。
偽の鑑定書を提出するか葛藤するミコトだが、結局自分の考えを曲げることができない。そんなミコトを夕子(市川実日子)は励ます。
 
一方、週間ジャーナルに夕希子の記事が掲載されていることに気づいた六郎は、出版社を訪れ抗議するが、末次(池田鉄洋)に追い返されてしまう。しかし、そこに夕希子の父・和有(国広富之)が現れる。それまで中堂のことを犯人だと思って、中堂に脅迫状を送っていた和有は中堂に会って詫びたいという。そんな時、ミコトの元に中堂から電話がかかってくる。中堂は宍戸を殺しても殺人の証拠を手に入れるつもりだった。中堂は、宍戸に毒物を注射し、問い詰める。宍戸は被害者の唾液がついた魚のカラーボールを取り出すが、中堂に渡す前に硫酸につけてしまう。宍戸は中堂が持っていた解毒剤を奪い取り、飲み干す。そこにミコトと六郎が到着するが、宍戸は苦しみだす。何を飲ませたのか中堂を問い詰めるミコトに中堂は注射に含まれていたのはただの麻酔薬で、解毒剤と言っていたのが本当の毒物だと明かす。「こいつが自分で飲んだ。ゆっくり苦しみながら死んでいけ」と言い放つ。それを聞いたミコトは「戦うなら法医学者として戦ってください!」と叫ぶ。六郎は毒物をなめて、エチレングリコールと気づく。中堂はポケットから解毒剤を取り出し、ミコトは宍戸に注射する。
その後、夕希子の遺体が和有が住むテネシー州に土葬されていることに気づいたミコトたちは、テネシー州に向かい、夕希子の遺体を持ち帰る。
 
開かれた高瀬の裁判。
ミコトは、解剖の結果、夕希子の歯の裏側から高瀬のDNAが検出されたと証言。高瀬が魚のカラーボールを押し付けた際に付着したものだ。さらに、親からの虐待のトラウマで女性を殺し続けていたこと(カラ-ボ-ルは親からの虐待の象徴)、そんな「あなたの孤独に同情する」と、法廷で憐れむ。自尊心を傷つけられ、動揺した高瀬は「母親は関係ない!俺がやり遂げたんだ!」と殺人を自白する。親に殺されかけた過去を持つミコトだからこそ、高瀬の自尊心を刺激することで自白に誘導することができたわけだ。そして宍戸も殺人幇助で逮捕された。
 
夕希子から、絵本は2匹のカバが旅をするストーリーだと聞いていた和有。それが夕希子と中堂の二人を意味することを知った中堂はその場に泣き崩れる。和有はそんな中堂に「夕希子の旅は終わったけど、あなたは生きてください」と言って帰国する。
 
脚本は野木亜紀子氏。「”7K”といわれる法医学者が、いま日本にどれだけ必要なのか? そんなメッセージを込めながら」書いたそうだ。7Kとはきつい、汚い、危険の3Kに加えて、休暇が取れない、規則が厳しい、化粧が乗らない、結婚できないが入るそうだ。近頃はIT関連のホワイトカラ-向けに新3Kもあり、きつい、帰れない、給料安い、だそうだ。個人的には心病むが入ると思うが・・・
野木氏が法医学ドラマを手掛けるのは今回が初めて。医学、感染症、臨床、法律などさまざまな分野の専門家に膨大な取材をした。これだけの物語を作り上げるためには、月並みの勉強では追いつかないだろう。
初回放送では国内でまだ発症例のない「MERSコロナウイルス」の院内感染、2話、3話は同じ殺人事件でも凍死、出血性ショックと死因は全く異なる。4話は過労死、5話は溺死と、さまざまな死因を取り上げることで、視聴者を飽きさせない。取材に応じた専門家も野木氏の自然な脚本がドラマにリアリティを与えていると感心しているとか。
 
 
今ある幸せは、当たり前ではない。豊かさも、健康も、生きていることそのものも。なぜあの人が死んで、自分は生き残ったのか……災害で生き残った者が抱く罪悪感を私たちは知っている。
「死ぬのにいい人も悪い人もない。たまたま命を落とすんです。そして私たちはたまたま生きている。たまたま生きてる私たちは死を忌まわしいものにしてはいけないんです」という神倉所長(松重豊)のセリフが心に響く。この世は、不条理なことばかり起こる。いい人だと思った人が裏切ったり、感じ悪い人が純な心を持っていたり、世界と繋がる技術を持ちながら孤独死に怯えたり、表面の顔で人間性は判断できない…中堂(井浦新)の言葉を借りるなら「今日も世界はクソまみれだ」。目の前の事実を冷静に観察し、凝り固まった思い込みは捨て、試行錯誤を繰り返すミコトたちのフラットさこそ、混沌とした今の時代を生き抜く力だ。
日常生活のありふれた悲しみやつらさを語っていると、今の社会問題につながる。リアルの中からしか、本当のエンタメは生まれない。そのエンタメが、リアルを生きる糧になる。ドラマの作り手の思いが登場人物の会話に反映される。
 
どんなドラマでも、面白さの決め手となるのは、登場人物がいかに魅力的であるか。この『アンナチュラル』は、主人公の三澄ミコト(石原さとみ)は言わずもがな、登場するすべてのキャラクターがそれぞれ魅力的。そして、それらの意思が重なりあう“会話”の面白さは抜群だ。
ミコトは、1日の始まりである朝だからこそ天丼を食べ、「法医学は未来のための仕事」と言い切る。緊急事態に陥っても「人間は意外としぶとい」「明日、何食べようかな」と、たくましい。辛い過去を背負う彼女は“前向きな言葉”という鎧をまとい、くずおれそうな心を奮い立たせて生きている。そんなミコトの言葉にはリアルを生きる鋭さがある。一方で、臨床検査技師の東海林夕子(市川実日子)との何気ない会話に垣間見えるのは、ユーモアと柔らかさ。2人が淡々と繰り出す会話の振れ幅がこのドラマの魅力だ。夕子は、仕事よりもプライベート優先させるタイプ。仕事を優先することで婚約破棄となってしまったミコトとは正反対なのだが、タイプが違う互いを認め合う絶妙な距離感が心地良く、心の緊張を解いてくれる。
野木氏の脚本の魅力はテンポの良さ。死を取り扱うドラマでは、暗いイメージが生まれてしまいがちだが、それを払拭する矢継ぎ早のセリフが軽快だ。現代の職場にはない人間関係の良さを映し出す会話のリアリティも魅力だ。予想がつかない新鮮な展開、常識的にまとめず、常に視聴者に新鮮な驚きを与えてくれる。終わったばかりだが、続編を期待している。ク-ルなドラマが待ち遠しい。

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